049 嫌な予感
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ルシードはイングリッドたちの席へと到着し、声をかける。
「ちょっといいかな? 店を出る前に言っておきたいことがあるんだ」
「ええ、もちろんですわ。どうぞお掛けになって」
イングリッドに促され、ルシードがカウンター席の背後にある席に座ると、三人とも食事をしていた手を止め、振り返って話を聞く体勢に入った。
「それで話だけど、このあとのことを決めておこうと思ってね」
「このあとの?」
ルシードは続きを話す前に、ロザリーの居場所を確認する。
ロザリーは、先程ベルたちが座っていたテーブルの後始末をしており、ルシードたちの話は聞こえてはいないようだ。テーブルに散乱した物量から見ても、まだしばらくはかかるだろう。
「そうだ。君たちは侵略者と戦うと言っていたけど、相手は何人いるんだ?」
自衛のために魔法を教えたとはいえ、相手が複数だと厳しいかもしれない。土魔法の使い手の話は聞いたが、他に魔法使いがいるならば、ルシードも対策を練っておく必要があった。
だが――
「一人ですわ」
「……一人?」
イングリッドの口から出た人数に、ルシードは呆然とする。
ルシードがイングリッドたちに理由を聞いた時の第一声は、戦争が起こるというものだった。子どもの言うことだ。そこまで大規模ではないにしろ、最低でも十人はいるのではないかと勝手に想像していたこともあり、まさか相手が一人だとは思わなかった。
「いえ、今はソーニャ、カタリナ、キャロルが向こうについたので四人ですわね。ですが、あの子たちはまだ幼い上に魔法を使えませんから、わたくしたちの敵ではありませんわ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、その土魔法を使う人のことを聞いてもいいかな? どういった人なの?」
「そうですわね……聞いた話によると、あの者は昔ここに住んでいたそうですわ。そのころのことは知りませんが、今は他の大きな街に住んでいるそうで、まとまった休みが取れるとこちらに戻ってきますの。その時にわたくしたちと出会い……その、友人になりましたわ」
「へえ……友だちに、ね。なら、仲が良かったんだろ?」
なんだろうか。話がおかしな方向に進んでいるような感覚に、ルシードは嫌な予感を覚える。
「ええ、それはもう。旅の話を聞いたり、他の街の話を聞いたり。この街に子どもの遊び場というものはなかなかありませんから、街に来るたび、集まって話を聞いておりましたの」
この街は子どもたちにとって住みにくい場所だ。大人の魔法使いは自分の研究に没頭して引籠もり、他の住人たちもそれがここのルールと示し合わせたかのように外で見かけることはない。もしかすると、ミレット村よりも娯楽がないのではないだろうかとルシードは考えるほどである。
「ですが! あの者は今回に限って、何を思ったか新勢力を立ち上げ、わたくしたちに強要してきたのです。今まで友と思っていたのに……そのせいで、ソーニャ、カタリナ、キャロルは引き込まれ、わたくしたちは真っ二つに分かれてしまいましたの。もうあの者の名前を口に出すのも嫌ですわ」
道理でイングリッドたちから一度も名前を聞かないわけだ。エイミーとローラも、うんうんと頷いている。
しかし、これは早まった真似をしたかもしれないとルシードは考える。よくよく話を聞いてみれば、戦争どころか、ただの喧嘩だ。相手に会って話をすれば、すぐにでも解決したかもしれない問題だった。
逆にイングリッドたちに魔法を教えたことにより、関係が悪化してしまわないだろうかと、ルシード心配になる。これは是非にもアフターフォローまでしておかなければ、ルシードのせいで事件に発展してしまう可能性もあるだろう。
「ありがとう、話はわかったよ。それで、その人はまだ街にいるんだよね? 今日も来るのかな?」
「そうですわね……昨日は十八時ごろでしたわ。陽が沈んだあとでしたし、その……家に帰ってお母様に暗くなる前に帰るよう、お叱りを受けましたから間違いありませんわ。でも、今日はどうでしょう? 昨日は喧嘩別れになったので、今日の約束をすることがなかったものですから……わかりませんわ」
「相手の滞在している宿か、こちらから会いに行ける場所は知らないか?」
「一度だけ聞いたことはありますが、教えてはくれませんでしたの。なんでも、街の奥の方にあるから、子どもたちだけで来ると迷子になるといけないとかで……」
「そうか……わかった。もし、今日会うことがあったら、相手の滞在してる宿か、会える場所を聞き出して教えてくれないか? そうだな……ギルドに伝言を残しておいてもらえると助かる」
ルシードが今宿にさせてもらっている家も、街の奥まったところにあるのだ。伝えようとして迷子になられては困る。だが、ギルドならイングリッドたちも一度は行った場所だ。街の入り口から近いこともあり、迷子になることもないだろう。
「それって……ま、まさか、ルシード先生も一緒に戦ってくださるんですの!?」
イングリッドは椅子から立ち上がってルシードに問い返し、他の二人も目をキラキラとさせてルシードを見る。
ルシードはもちろん戦うつもりはなく、話し合いで解決したいと思っているが、そのことを伝えて話がこじれても困る。勘違いさせたままにしておくことにした。
「まあ……そんなところかな?」
「これで勝利は確定しましたわ!」
「やったね、イングリッドちゃん!」
「ありがと、先生!」
三人の返事に苦笑しながらも、ルシードは続ける。
「それじゃあ、頼んだよ。伝言があればギルドへ、何かがあるまでは定期的にギルドによるようにするよ。それを聞いたらこの店に来るから、ここで会おう。もし戦闘になっても、守りに専念して逃げるんだ。魔法使いとしては相手に一日の長がある。ギルドに逃げ込めば相手も手出しはできないだろう」
「わかりましたわ! それまでにわたくしたちも魔法の練習に励みますわ!」
「それがいい。なんでも俺の師匠に言わせれば、魔法は教わるものではなく、自分で編み出すものだそうだよ。だから、ここからは君たちが自分の可能性を広げていくわけだけど……そうだな、最後にアドバイスするなら、イングリッドに教えた身体強化は体の部位にも細かく魔力を流すこともできる。たとえば目の強化に使ったなら、今まで見えなかったことも見えてくるかもしれないね。エイミーとローラは無から生み出すだけでなく、逆に生み出した物を魔素に還すことも覚えるといい。練習で作った泥沼とかをそのままにしておくと、怒られるかもしれないからね」
ルシードの言葉に、三人は素直に頷く。
「それともう一つ。今夜か……明日、魔力が完全に回復したと思ったら、寝る前にでも魔法を使って、自分の魔力量を確認しておくんだ。このあたりの土地は魔素が濃いから、他の土地にくらべて二倍から三倍は魔法が使えると聞いた。この街じゃないところで魔法を使う目安にもなるし、将来のためにも知っておく必要がある。魔力の枯渇は死に繋がると覚えておくんだ」
「わかりましたわ、さっそく今夜にでも確認しておきます。そのあとはルシード先生の教えを胸に、精進いたしますわ」
「はい、頑張ります」
「はい!」
ルシードは三人の返事に満足する。この子たちなら近い将来、この街を代表する魔法使いになってくれるに違いない。
そこでルシードは冒険者カバンからスピリティア・ストーンの入った布包みを三つ取り出し、それぞれに手渡す。
「……これは、なんですの?」
「君たちが魔法使いになれた記念……みたいなものかな。と言うより、それしか渡せる物がないんだけど……」
「開けてもよろしくて?」
「ああ、気に入ってくれるといいんだけど……」
イングリッドたちは布包みを開き、目を輝かせる。
「綺麗……」
「すごーい、宝石ってやつだよね?」
「……よろしいんですの? その……お高いのではなくて?」
「安物だから気にしなくていいよ。残念なことに、宝石店でも買い取ってくれないそうだしね。ただ、大事にしてくれると嬉しいかな。俺が加工した物なんだ」
「もちろん大切にしますわ」
「うん!」
「ありがとうございます、先生」
どうやら気に入ってくれたようで、ルシードも嬉しい気持ちになる。売れなかったのは残念だが、この石もまだまだ使い道がありそうだ。
「それじゃあ、俺は行くよ。まだ数日はこの街にいるから、また会おう。ギルドへの伝言は忘れないでね」
「ええ、必ず」
「先生、また」
「またねー!」
ルシードは最後にそれぞれ頭をなでて別れる。イングリッドもこの時ばかりは口答えする様子を見せなかった。
三人と別れ、ルシードはロザリーからお弁当を受け取り、店を出た。お金は要らないと言われたが、そういうわけにもいかない。押し付ける形で料金大銅貨三枚を支払い、次の目的地を目指す。




