037 賢者、冒険者になる
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ルシードがギルドへと戻ると、四人娘が難しい顔をしてリリーと話している姿が目に飛び込んでくる。その奥の方では、他のギルド職員であろう女性たちが忙しそうにしているようだ。
「戻りました」
「おお、ルシー――げっ!」
ルシードの隣に並んで立つベルに気づき、嫌そうな顔をするルーファ。
「あ、あの賢――」
セラフの言葉を断ち切るように、ベルはパンパンと手を打ち鳴らし、笑顔でこちらへ来いと手招きする。その様子に、四人娘は一度顔を見合わせると、足早に近づいてきた。
「申し訳ありません。まだ依頼の――」
「それはもうよい。それよりも声をひそめよ。ここではワシが賢者だということを口にするでないぞ」
「え、なん――」
「質問はなしじゃ。塔の問題もルシードが解決してくれた。それだけわかっておればよい」
「は、はあ、わかりました……って、え!? ルシードが解決したの? 私たち今までずっと考えてたんだけど良い案が浮かばなくって、リリーさんとも相談してたのよ」
ミラの言葉で、ルシードはアルマリーゼを除いた全員がここにいた理由を知る。アルマリーゼの姿はないことからも、まだ街を見て回っているのだろう。
「解決した……のかな?」
「流石は神様」
自信なく言うルシードだが、サーシャの瞳にはどう映ったのか、考えるまでもないようだ。
「へへっ、また依頼を先に越されちまったな。で、魔法は使えるようになったのか?」
「ああ、バッチリだ」
今度は自信たっぷりにルシードは頷いた。
「マ、マジかよ……はえーな。こりゃぐずぐずしてっと、魔法まで越されちまうぜ……」
「うむ。ルシードならばすぐに上達するであろう。……いや、今はその話ではない。ちゃんとワシが賢者だとバレないようにするんじゃぞ? ワシはあまりこの格好で外に出んから、意外と姿を知られとらん。言わなければバレることもない」
いくら着ている服を変えようが、幼女というだけで賢者と認識されそうなものではなかろうか。すぐに気づかれてしまいそうなものだが、彼女たちが歴史書に描かれた似顔絵から知る賢者の姿は、すらりとした大人の女性だ。見栄を張って大人の姿に描かせたのかもしれないが、それを考えると意外と知られていないというのも、嘘ではない気がしてくる。四人娘は素直に頷く。
「わ、わかった――りました」
「言葉も普段通りでよい。では、登録に行くぞ」
一人、話を聞いていなかったリリーは不思議そうにルシードたちを見ていたが、ルシードたちが近づくのを見て、すぐに営業スマイルに戻る。
「戻りました、登録をお願いします」
「お早いお戻りですね」
「ワシ――私も登録する!」
ベルは賢者だとバレないようにか一人称を変え、カウンターより背が低いために両手をカウンターにつき、足をプラプラさせながら言う。
「お、お嬢ちゃんも登録するの?」
笑顔のまま固まるリリー。カウンターにも背が届かない子どもが冒険者登録をしたいなどと言えば、驚かない方がおかしいだろう。
「うん!」
「お、お願いします。彼女もちゃんと魔法を使えるので……」
「そ、そうですか。まだ若く見えるのに、しっかりしてて優秀なんですね。では、魔法が使えるという証拠に何かを拝見したいのですが、よろしいですか?」
「わかりました」
ルシードは何をしようかという意味を込めて、ベルに視線を送る。
「そうだね……じゃあ、さっきと同じことしようか! 私がコップを作って、お兄ちゃんが水を出すの!」
「お、おに……あ、ああ、そうだね、そうしようか」
どうやらルシードの妹という設定らしい。ルシードたちのうしろで、四人娘が絶句している。
「あらあら、ご兄妹ですか? いいですね」
「は、はい」
「じゃあ、作るね! えーっと……コップよ、出でよ!」
ベルは何もないところから土を生み出すと、コップの形に整えた。ガラスは高位の魔法なのか、なんとも適当な呪文を唱え、わざと土のままコップにしたようだ。
四人娘はそんな呪文があったのかと小首を傾げるが、賢者のやることだと気にはしない。
「あらあら、お上手、頑張ったねー」
リリーは子どもを褒めるように言ってベルの頭をなでているが、ベルの正体を知ったら卒倒してしまわないか、ルシードは心配だ。
「次は俺が……み、水よ、出でよ」
ルシードはコップに手をかざし、水をイメージして魔力を流し込む。
四人娘に呪文を唱えなくても魔法が使えるということを教えたいところではあるが、ベルが難しいと言うのだ。ベルがそうしていたこともあり、四人に変な期待を持たせてはまずいと、ルシードもベルの呪文をもじって口にしたが、どうにも恥ずかしい気持ちになる。
「おおー! 水魔法か!」
「ちぇ、やっぱ水だったか……」
「ふふっ、私と一緒ですね」
「……か、神様の手から聖水が」
「はい、ちゃんとできていますね。では、こちらの書類に必要事項を記入してください。あっ、文字の読み書きは大丈夫ですか? 私の方で代筆も承りますよ」
「いえ、大丈夫です」
レーヴェには学園と呼ばれるような施設はない。もっぱら学問は慈善事業としてギルド員が教えてはいるが、ルシードとベルが今まで授業を受けに来た記憶がリリーにはなかった。では、近隣の村からやって来たのかもしれない。ますます文字の読み書きができないのではないかとリリーは代筆を買って出たが、ルシードはテーオバルトに教わったことから文字の読み書き程度はできる。受け取った用紙を見ても、読めない文字はなかった。
ルシードはペンを手に、次々と記入していく。名前、年齢と書き連ね、生年月日はベルに見られないよう、最後にしようと飛ばして書く。
「お? ルシード、お前十四だったのか。年上かと思ってたぜ」
「私たちも十四になったとこだから、同い年じゃない?」
「いや、俺は今年で十五だから、この場合は一個上になるのかな?」
ルシードはルーファに年齢のことを言われたところでつい口に出してしまい、慌ててベルに視線を送る。今年はもう一ヶ月を切っているのだ。今月で成人を迎えると知られてしまっては元も子もない。慌てて言い訳を考えようとするが、ルシードの心配は杞憂に終わる。
ベルは鼻歌交じりに用紙へと向き合っており、話を聞いていなかったようだ。ルシードは小さく安堵した。
「それでしたら、私たち三人は今年で十四なので、一個下となりますね」
セラフの言う三人とは、セラフ、ミラ、ルーファのことだろう。では、サーシャはいくつだろうかとルシードが視線を送ると――
「ふふふ、私は今年で十五になった。神様と同じ年。これほど喜ばしいことはない」
胸を張ってのたまった。
「…………え?」
その一方でルシードは、聞き捨てならないことを聞いた気がして疑問を口にした。サーシャが自分の歳を――十五と言った気がしたのだ。
サーシャがすでに成人を迎えている。そんなはずはない、きっと聞き間違いだと思い、確認する。
「……サーシャって十五なの?」
「うん。もうお酒だって飲める」
おそらくサーシャの年齢は二桁に満たないと勝手に想像したのはルシードだが、同い年――いや、実質年上だとはルシードには思いもよらなかった。幼い少女に寂しい思いをさせまいと家族代わりになってやろうとしたのはなのだったのか……穴があったら入りたい気分だ。
「へ、へー、そうなんだ……大人だね」
「大人!」
大人という言葉に嬉しそうにするサーシャ。それを見たルシードも、もう子ども扱いすると失礼だな、と行動を改めようと心に誓う。
「できた!」
そこへ、元気一杯なベルの声が届いた。記入した紙を振上げ、リリーに渡している。
「はい、よくできました。今確認するから待っててねー」
「うん!」
すっかり見た目にマッチした喋りに違和感はない。
「えーっと、名前はベル・ミレットちゃんだね」
どさくさに紛れて名前まで変えているとは抜かりない。流石は賢者とでも言うべきか。
「他は……あ、年齢の欄が抜けてるね。お年はいくつかなー?」
「え!? えーっと、えーっと……」
百歳から数えていないと言っていたことから記入できなかったのだろう。ベルは慌てたように考え――
「ろ、六ちゃい!」
どこから出てきたのか、ありえない数字を口にした。
「はい、よく言えましたー」
拍手してから満面の笑みでベルの頭をなでるリリー。ルシードも含め、全員がベルの言った年齢には耐えることはできたが、リリーの行動に笑いが吹き出しそうになるのを誤魔化すため、咳き込んで隠すも、ベルの一睨みでそれも収まる。
「ルシードさんの方はどうですか?」
リリーに呼ばれ、ルシードは慌てて続きを記入し、最後に全員から隠すように誕生日を記入してからリリーへと渡す。
「……はい、記入漏れはありませんね。名前は『ルシード』のみでよろしいですか? ご兄妹ですよね?」
「は、はい。ダメですか?」
ベルに習い、ルシードもミレットと記入しようとはしたのだが、自分の名前と並べて書いた場合、どうにも語呂が悪い気がしたこともあり、ミレットの名を泣く泣く削除した。まるでベルのために用意されたような名前に悔しい思いをするが、自分の名前をつけてくれた両親に文句を言うつもりもない。
それに何より、ベルは幾度となく名前を変えていることからも変には思われないだろうが、ルシードがミレット村出身であることを公言した場合、どこからかミレット村まで伝わる可能性がないわけではないのだ。ルシードの名前が届き、それは誰だとなってしまっては、お互いに困ることになるであろうことからも、名乗るわけにはいかないのである。
「いえいえ、大丈夫ですよ。本名で登録してない人もいるくらいですからね」
そんな杞憂もむなしく、リリーは偽名でも良いと言う。ルシードはなんのための記入用紙かわからなくなったが、ベルもある意味で偽名になることからも、よかったと取るべきだろう。
「では、最後に書類の上に手のひらを押し付けてください」
ルシードとベルは言われるがままに手のひらを押し付けるようにして乗せると、紙が淡い輝きを放ち、ゆっくりと静まる。
「はい、これで登録は終了です。確かに受領しました。この紙は登録者の状態を知らせてくれるもので、死亡した際には黒ずんで教えてくれるものなのです。それを管理するのも私たちの仕事なんですよ。先程、偽名でも大丈夫だと言った理由は名前を知りたいわけではなく、生存状況を知りたいからなのです」
リリーの説明でルシードも理解した。紙が光った時にももしやと思ったが、この紙も魔道具と呼ばれるもののようだ。
「なんだかあっさり終わったな」
「実際はもっと講習だとか色々あるんですけど、この街も色々と苦労してるので特別ですよ。本部からは『今年も新人がいないのか?』とか、ぐちぐち言われますし、今年もすでに残り少ないですけど、これで新年会で大きな顔ができるってもんです!」
胸を張るリリーに、それで良いのかと思うルシードだったが、とにかく冒険者にはなれたのだ。文句を言って講習を受けることになり、時間を取られることを考えれば、何も言い返すつもりはない。
「何はともあれ、今日からお二人はランクGの冒険者です。まずはこちらをお渡ししておきますね」
リリーに待望のアイテムを渡され、笑顔で受け取るルシード。それはもちろん、冒険者カバンだ。
しかし、隣に小さなカードも置かれており、なんだろうかと手に取る。
「ありがとうございます。こっちのカードはなんでしょう?」
「簡単に説明致しますと、ギルドメンバーであることの証明書――ギルドカードです。登録者の名前や、記入していただいた内容が記載されていますので、なくさないでくださいね。それと、ギルドで依頼等を受ける場合は必ず提示してください」
ギルドカードの説明を受け、ルシードはカードをよくよく見てみると、確かに登録用紙に記入したはずの内容が書き写したかのように記されていた。
「こちらのカバンは最初に登録した人物、その人物が許可した人物、それとは別に、ギルド職員のみ使用が許されています。何を入れていただいても構いませんが、生きているものなどは入れられない仕組みになっていますので、くれぐれもご注意ください」
冒険者カバンについてはシャルニアの説明と同じだ。ルシードは頷くだけで終わらせる。
「それと、定期的にギルドへ立ち寄っていただき、中身と何を入れたかの履歴を拝見させていただきますことをご容赦ください。期限内にギルドへ報告に来られない場合がありましたら、先もって連絡するか、魔電通信などで連絡いただけると対応いたします。もしも期限内に報告に来られない場合、高価な冒険者カバンを貸し与えるデメリットとでも申しましょうか……自動的に犯罪者としてハンターギルドのリストに載ってしまいますので、そこも注意してくださいね。これは、冒険者としての役柄でもあり、ついうっかり、を防止するためでもあります。ついうっかり犯罪者になってしまわないようにお気をつけください。お二人はランクGですので、一月に一回はギルドの方へ顔を出していただくことになります。今の内容で疑問などございますか?」
なんとも恐ろしい話ではあるが、大きな怪我でも負わない限りは、一月の間にギルドに立ち寄らないこともないだろう。ルシードは今までの話を頭の中で繰り返し、特に聞きたいことはないな、と軽く返す。
「いえ、大丈夫です」
「私も!」
「では、ギルドカードはそのまま、カバンは口を開いてそれぞれ手を押し当ててください。それで所有者の登録が終了します」
ルシードが冒険者カバンの口を開き右手を、左手をギルドカードに乗せると、二つのアイテムは淡く輝き、次第に静まる。
「はい、これで登録は終了です。次にこちらをお受け取り下さい」
リリーはルシードとベルに、それぞれ布の包みを手渡す。中を確認すると、大銀貨が入っていた。それも三枚だ。
「……これは?」
「支度金です。これから冒険者になるというのに、何も準備されていない方もいるものですからね。……そこで登録時に限り、支度金として大銀貨三枚をお渡ししているのです。二度はお渡しできませんから、無駄遣いはしないでくださいね」
「わかりました、ありがとうございます」
次の街へ行く準備をしようにも、手持ちがないと嘆いていたところだ。何もしないうちから受け取ることに抵抗はあるものの、これから依頼を受けることで返していけばいいだろうと、ルシードは有難く受け取っておくことにした。
「依頼内容はあちらのボードに張り出されますので、受けたい依頼があれば私までお持ちくだされば処理致します。ギルドから発行した依頼は報酬額が決まっていますが、個人から依頼されたものはそれぞれ報酬額が違ってきますので、依頼を受ける際はご注意ください」
リリーは右の手のひらでルシードたちの左を指し示す。ボードを見ると何枚もの紙が張り出されているのが見えた。
「わかりました」
「依頼は自分のランク以下と、一つ上のランクまでしか受けられませんので、そこも注意してくださいね。お二人の場合、FとGの依頼を受けることが可能ですが、ランクを満たしていても私たちの方で危険と判断したものはお断りさせていただく場合もあることを知っておいてください」
自分の実力に見合ったものしか受けられないのは当たり前だ。だが、ルシードの目的は冒険者カバンだったことからも、ランクを気にする必要はない。
「そういうことだから、ベルちゃんも討伐系は危険だし、しばらくは住人のお使いで我慢しようねー」
「えー、どうしよっかなー」
リリーはベルのためを思って言ってくれているのだが、当のベルはリリーの反応で遊んでいるのか、楽しそうに言う。
「ベル、リリーさんを困らせてはいけないよ」
一応、兄妹という設定らしいので、ルシードはそれらしく注意しておくことも必要だろうと思い、口を挟んでおく。
「はーい!」
「お兄ちゃん子なのかな? 仲良しでいいですね」
「うん! お兄ちゃん大好きー!」
ベルは演技が過剰すぎて困る。ルシードは気苦労が増えそうだと思わずにはいられない。
「ふふっ、それではギルド施設を説明致します。私の左手の奥、皆さんから右手ですね。そちらの奥には訓練場がございます。ギルド員同士で力を競いたい場合や、訓練を行いたい場合、無償で貸し出していますのでご利用ください。私が座るこの場を抜けた先は鑑定室となっておりますが、こちらは討伐系の依頼を受けたあとに利用することになるでしょう」
次に左手で示していた手を下げたリリーは、右手でルシードの左側を示す。
「次に皆さんの左手、ここからも見える壁際に、先程説明させていただいた依頼ボードがあります、その奥の部屋は――」
「しつもーん!」
「はい、何かなー?」
リリーはまだ説明の途中だったが、ベルは聞きたいことがあるのか、手を上げて大きな声で言う。
相変わらずルシードと話す時とベルと話す時の話し方が違うが、ルシードはリリーが子ども好きなのかもしれないと推測する。この街のギルドに勤めて五年と言っていたことから、今は二十歳といったところだろうか。結婚しないのかな、とルシードは思ったが、この街ではそれもままならないかと思い至る。
「今すぐランクアップはできないのー?」
ルシードがリリーのことを考えていた間にも話は進み、ベルはランクアップがしたいと言う。
「……え、あ、うん。ランクアップかー。あるにはあるんだけど、ベルちゃんにはちょっと早いんじゃないかなー?」
「えー、やりたーい!」
リリーは困った顔でルシードをチラリと見る。止めてくれということだ。
しかし、ベルは出会いを求めて冒険者になろうと決めたのだ。ベルのランクが制限されては、出会いも減ってしまうということになる。それではベルにギルドに入ることを勧めたルシードも困ってしまう。
「えーっと、どんな内容なんですかね? 難しい内容なんですか?」
「……そうですね。普段は登録時を限定に、高ランク冒険者に相手をしてもらって強さを見てもらい、開始ランクを決めることができます。高ランクの依頼は魔獣討伐などの強さを求められるものが多いものですからね。我々も即時戦力は喉から手が出るほど欲しいと申しますか……いえ、私は住人の悩みを解決するのも大切だと思っているのですが、本部はなかなかわかってくれなくて、そちらを専門にされてる冒険者のランクがなかなか上がらないのも問題の一つなんですよね」
リリーは物憂げな表情で頬に手を当てる。確かに住人の悩みを解決してくれる冒険者と、討伐系をメインとする冒険者との間に差があれば、不満も出るというものだろう。
「あ、そうでした。ランクアップでしたね。今この街にいる高ランクの冒険者といえば……」
リリーはルシードのうしろへと視線を送った。
「あー、今日はちょっと体調が悪いんだよなー」
「奇遇ね、私もよ。さっきから体調が優れなくって……」
「わ、私も遠慮しておきます」
「ふん。神様の妹を名乗るとは許しがた――じゃなかった。先輩として小生意気な子どもにお灸を据えてや――む、むぐっ!」
「お、お前、何言ってるかわかってるのか!」
サーシャが前に出て不敵な笑みを浮かべたところで、ルーファが慌ててサーシャの口を押さえて塞いだ。
「と、とにかく私たちは無理かなー? ほ、ほら、小さい子を相手するのも気が引けるって言うかさ……」
ルシードにも気持ちはわかる。サーシャはやる気なようだったが、相手が賢者だと知っていれば腰も引けるというものだ。
「うーん、そうですよね。だから私も賛成できなかったのですが……仕方ありません。リミテッドアーマーを使ってみましょうか」
そんな様子に気づくでもなく、リリーは別の案とばかりに口を開いた。
「リミテッドアーマー?」
「はい、訓練場専用の魔道人形なのですが、訓練場の中でだけなら強さの設定を変更できるので、訓練の相手に最適なんですよ。訓練場なら賢者様が開発された防御結界と治癒結界がありますから、怪我をしてもすぐに治りますからね」
「へー、そんなものがあったんだ?」
「最近開発されたばかり……と言うか、昨日届いたばかりですよ。この街に住む方が開発されたこともあり、試作品として回って来たのは役得といったところですかね? 私もちょっと性能を見てみたかったというか……」
冒険者カバンのような魔道具の最新版と聞いて、ルシードは興味が湧く。リリーの言葉を信じるならば、かなりの性能が期待できそうだ。治癒結界とやらもベルが作ったと聞くと不安が残るが、賢者が作ったと聞くと安心できるものがある。
「それは楽しみね、私も訓練で使ってみようかしら」
「はい、訓練場の利用予約をしていただければ、ご使用できますよ」
「へへっ、じゃあ、ここにいる全員登録しといてくれよ」
「かしこまりました。それでは、今は利用者もいませんので、このまま移動しましょうか」
「オッケー。みんなもそれでいいよね?」
反対する者もおらず、全員で訓練場へと移動する。先程説明を受けた一階の右奥にある部屋だ。




