025 初めての……?
◆
正座をさせられ、二人の妹たちから説教を受けるテオを、ルシードは少し離れた位置から見つめていた。
自分の命可愛さに未来の英雄を差し出してしまうとは、俺も情けない、と反省し、心の中でテオに謝罪する。
「それにしても、模擬戦は上手くやったじゃない。万人をも騙せる、良い演技だったわ」
そこへ、ルシードの隣に腰を下ろしたアルマリーゼが語りかけてきた。
「……なんのこと?」
「とぼけたって無駄よ。あなた、わざと負けたでしょう?」
万人をも騙せると言うのなら、アルマリーゼも素直に騙されていて欲しかったところだ。ルシードはテオたちがこちらに注意を向けていないことを確認し、アルマリーゼに向き直る。
「……テオたちには言わないでくれよ? 挫折を知ることも大切だと思うけど、自信は力にもなる。それに、テオにはあまり挫折は知らないでいて欲しい。妹に負けるならいざ知らず、田舎の片隅で、無名の……それも年下に負けたとなれば傷つくかもしれない。今後のためにも、テオの方が強いんだと思っていてもらいたい。それに――」
実際にテオの方が強いことは確かだ。
テオは成人になってから冒険者になっている。剣を始めたのも同じころだろう。歳は十七。剣を始めたのは今から二年前になる。それなのに、野盗の頭であったヴィーノをも上回る強さなのだ。本来の自分では到底及ばない域にいる。その才能を、ルシードは羨ましく思う。
「それに?」
「いや、なんでもない」
「でも……ふふっ、やっぱりね」
「やっぱり?」
アルマリーゼの態度が気になり、ルシードは聞き返す。まるで確証を得たとばかりに笑っているのだ。気にならないはずがなかった。
「私にも演技には見えなかったから、確かめておこうと思ったのよ。あの程度の動きで苦労してもらっては、この先厳しいもの。少し心配になってね」
アルマリーゼの辛辣な言葉に、鎌をかけられ、自分はそれに簡単に引っかかってしまったようだとルシードは気づく。
「次は騙しきってみせるよ」
「ええ、期待しているわ」
苦し紛れの言葉も、アルマリーゼはそ知らぬ顔だ。
だが、テオたちの方に動きがあり、そちらを見ると、どうやら説教は終わったようでルシードたちの方へと歩み寄って来るではないか。まだ言いたいことはあったが、これ以上会話を続け、テオにバレてはいけないと、ルシードは口を噤むことにした。
「ルシードさん」
「は、はい」
セフィーリアに呼ばれ、ルシードは先程のこともあり、丁寧に返してしまう。
「身構えないでください。私たちがルシードさんの命を狙うなど、ありえません」
「ハートは撃ち抜こうとしているけれどね」
「え? ハート? ……心臓!?」
アルマリーゼの言葉に、ルシードはまだ命を狙われているのかもしれないと肝を冷やす。
「アルマさん!」
「大丈夫よ、ルシードはわかっていないから」
シャルニアがアルマリーゼに怒鳴る。この二人も仲良くなった……のだとルシードは思いたい。
「まあまあ、そのへんにして、このあとの話に移りましょう」
「元はと言えば、兄さんが変なことを言ったからじゃありませんか」
「僕も迂闊だったのは謝ったじゃないか。それよりも、今はのんびりしていると陽が暮れてしまうよ。暗くなる前に村の周囲を調査しておこう」
「むぅ、わかりました」
結局のところ、ルシードには何が何やらさっぱりだが、話がまとまったことだけはわかる。
「それでは二手に分かれましょうか。安全を考慮して全員で移動したいところですが、一方のみだと、もし同じ方向へ魔獣が移動していた場合、見逃すかもしれません。村の入り口は東側なので、村を囲む柵に沿って北回りと南回りで分かれましょう」
テオの提案に、ルシードは頷く。
「では、チーム分けですが――」
「こういう時はじゃんけんだな。グーとパーで分かれよう」
テオがチームを分けると言い出したところで、ルシードは嬉々として口を開いた。
ただのチーム分けだとしても、じゃんけんをするのは久しぶりで、少しテンションが上がってしまったのだ。
「じゃんけん……ですか?」
「ダメ? 久々にやってみたかったんだけど」
「い、いえ、ダメと言うわけでは……。まあ、ルシードがそう言うなら、じゃんけんにしましょうか。では、二人と三人で分かれた時は、それで決まりとしましょう」
「ああ」
アルマリーゼは面白がっている感じだが、テオたち兄妹は浮かない顔だ。
やはりじゃんけんは子どもすぎたか、とルシードが反省していると、テオたち兄妹は何やら目配せを始めた。
「あら? 談合はダメよ? じゃんけんの意味がなくなってしまうわ」
アルマリーゼもやけにテンションが高い。まあ、五十年も眠っていたなら仕方ないと言えなくもないか。
「ハハハ……やだなぁ、アルマリーゼさん。僕たちはそんなことしませんよ」
「フフフ……そうですよ、私たちがそんなことするわけないじゃありませんか、アルマ」
「アルマさんは疑り深い人ですね!」
ルシードは三人の笑顔を逆に怪しく思うが、シャルニアの言うことももっともだと、口には出さない。たかがチーム分けのじゃんげんで談合もないだろう、と。
「そう? それじゃあ、さっさと決めてしまいしょう。じゃんけん――」
アルマリーゼは勝手に音頭を取り、掛け声を出す。
「え、ちょ、ちょっと待って!」
セフィーリアの制止もむなしく、ルシードとアルマリーゼ以外は慌てて手を出した。セフィーリアも制止の際に手を広げていたことからパーとみなされ、そのおかげもあって一回で決まることとなった。
「俺とセフィで一組、テオ、アルマ、シャルでもう一組だな」
テオは困り顔、シャルニアは頬を膨らませて不満顔だったが、異論はないのか口にはしない。しかし、ルシードは、失敗したかな、と思う。
シャルニアの魔眼解決からそれほど時間も経っていないのだ。ここは兄妹水入らずで気を使う場面だったかもしれないが、あとの祭り。大人になると決めたばかりなのに、いきなり子ども心全開にしてしまった自分を反省する。
「では、僕たちは北回りで行きます」
「なら、俺とセフィは南回りだな」
「はい、よろしくお願いします。村の西側で会いましょう」
「了解、またあとで」
ルシードは三人に別れを告げ、セフィーリアとともに村の入り口から南回りで西側を目指す。
◆
「うーん、何も見つかりませんね」
「まだ森にも入ってないしね。何かあるなら森の中だとは思うけど……」
ルシードたちは南側の柵を右手に、西側を目指している。
今のところ収穫はなし。テオたちは何か見つけられただろうかと考えることしかできない。
「どんな魔獣か、わかるだけでも大収穫なんですが」
「魔獣か……アルマは大型の昆虫だって言ってたけど、レゾナンスウルフに天敵とかいないかな?」
「レゾナンスウルフは魔獣の中でも実質最低ランクのFということもあり、天敵ばかりですよ。数が多いので見なくなることはありませんが、他の高ランク魔獣の糧になったりもするので、見かけたらすぐに処理しないと厄介です」
ルシードはセフィーリアの言葉で、アルマリーゼが魔獣同士で争った場合、勝った魔獣は負けた魔獣を取り込んで強力になると言っていたことを思い出す。
「魔獣を糧にして強くなった魔獣は、天井知らずで強くなっていくの?」
「いえ、魔獣たちにもそれぞれ限界があり、一定値で成長を止めます。ただ、中には例外もいて、突然変異で異形な姿に変わる魔獣もいますけどね。まあ、この国じゃ一生に一度、出会うかどうかって話です。私も出会ったことはありません」
魔獣同士で共食いした結果、上限なく強くなるのであれば、誰も勝てなくなってしまうだろう。ルシードはセフィーリアの説明に納得し、胸をなでおろす。
「なるほどね。ああ、そろそろ森に入るな……周囲に注意して」
「はい!」
ルシードたちは注意深く森に入り、木の上にも異変はないかと確認するが――何も見つけることはできない。
「何もありませんね」
「そうだな。でも、本当に何もない。動物たちの姿も……」
「そうですね。冬でも、このあたりの森なら動物はいると思うのですが、鳥の声一つしないのは不思議です」
セフィーリアの言葉に、ルシードも頷く。
ルシードの住む村は寒さから山へ入っても動物の姿を見かけることはないが、このあたりはルシードの村よりもかなり暖かい。野盗が近くにいたことからもこの森ではないだろうが、村の大人たちもわざわざ山を越えて狩りに出かけるのだ。ルシードは本の知識からも、動物がいないのはおかしいと思う。
「と、ところで、まったく関係のない話なんですが、一つ聞いてもいいですか? ……アルマのことなんですけど」
セフィーリアは急に話を変え、意を決した表情でルシードへと尋ねる。
ルシードはそんなセフィーリアの態度を少し疑問に思うが、アルマリーゼのこととなれば話は別だ。聞かないわけにはいかない。
「アルマ? 何かあったのか?」
「その……アルマって大き目の外套を、まるで下に着ている物を隠すかのように羽織っているじゃないですか? それが気になって聞いたら、あっさり見せてくれたんですけど……下は黒いドレスだったんです!」
セフィーリアの言葉に、ルシードは母からもらった外套を着せて隠してはいるが、アルマリーゼの着ている服は黒いドレスだったことを思い出し、アルマリーゼが見せたと聞いたところで、嫌な予感を覚える。
「……そうだね。それで?」
「『旅をしてるのになんでドレス?』って聞いたら――」
セフィーリアは言いにくそうな表情だが、ルシードも聞かないわけにはいかない。
「……聞いたら?」
「――ルシードさんの趣味だって。ルシードさん、ああいうのが好きなんですか?」
セフィーリアの言葉に、ルシードは絶句する。
きっとアルマリーゼは精霊ということを隠したいが、良い理由が思いつかなかったのだろう。適当な言葉を並べて誤魔化したようだが、ルシードも変な濡れ衣を着せられたままでは終われない。
ルシードはにっこり笑うと、
「セフィは騙されたんだ」
アルマリーゼに反撃すべく、セフィーリアを諭すようにして言った。
「だ、騙された?」
「アルマは、ああ見えて少女趣味なんだ。可愛い物やドレスなんかに目がない。ドレスも自分が着たくて着ているのに、恥ずかしいのか人のせいにしてるんだよ。アルマが本当の理由を隠すために、俺をだしに使ったんだね」
「そ、そうだったんですか! あの子、大人ぶってる癖に……それで」
ルシードの思惑通り、セフィーリアはすっかり騙されてくれたようだと安堵する。
しかし、ルシードも男だ。好きか嫌いかで聞かれれば好きだが、アルマリーゼに着てくれと言った覚えもないのでセーフだろう。
「まあ、このことはアルマには黙って、温かい目で見てやってくれないか」
「はい! ふふっ、なんだかアルマが可愛らしく見えてきました」
なんとか危機は脱出したように見えたルシードだったが、今度はルシードのことをチラチラと横目で見てくるのに気づき、アルマリーゼが他にも変なことを吹き込んだのだろうかと邪推する。
「どうかした?」
「あの、もう一つ聞きたいことがあって……その、シャルと何かありました?」
「……シャル? どうして?」
どうせまたアルマリーゼだろうと考えていたルシードは、シャルニアの名前に少し驚く。
「いえ、今朝までなんの変化もなかったのに、見かけなくなって帰って来たと思ったら、小さいころ――魔眼のことで塞ぎこむ前のあの子に戻った感じで……。しかも、いつの間にかルシードさんと仲良くなっていたものですから、ルシードさんと何かあったのかなーって……私、ちょっと嫉妬してるのかもしれません」
ルシードには弟や妹がいるわけではないが、いつも一緒だった妹が、いきなりよく知りもしない男と仲良くなって帰って来たなら、嫉妬する気持ちはルシードにもわかる。ここは少し本当のことも織り交ぜて話した方がいいと判断した。
「うーん、そうだね。朝食を食べて宿泊所を出た時に、シャルを見つけて少しだけ話をしたんだ。テオやセフィのね」
「私のことも!? な、何か変なことを言ってませんでしたか!?」
「どうかな? 俺にはシャルがセフィのことを好きだってことと、セフィが良い子だってわかったくらいかな」
「へ? わ、私ですか?」
ルシードに良い子だと言われ、セフィーリアは目に見えて顔を赤くし、うろたえた。
「シャルはセフィが小さいころからずっと側にいてくれたことを感謝して、いつまで経っても魔眼を制御できない自分を気遣って、行きたいはずの学校にも行かせてあげられないことを謝ってた。きっと俺に話す時にそのことを再確認できたんだろうね。今のままの自分じゃダメだという思いが、魔眼の制御に一役買ったんじゃないかな? それでちょっとした切っ掛けになった俺と仲良くしてくれてるんだよ」
「そう、だったんですか……私のことをそんなふうに。でも、私はそんなに偉くありませんよ。私はただ、あの子と自分を重ねただけなんです。私たちは双子。もしかしたらあの子は私だったかもしれない。そう考えて……私は神に感謝してしまいました。私じゃなくてよかった……なんて。偉いどころかひどい姉です。……そんなこともあって、私は自己嫌悪からあの子の側にいようと考えました。きっと自己満足だったんです」
ルシードに褒められたようで喜んでいたセフィーリアは、一人浮かれていた反省も相まり、懺悔するように語る。
「それは違うよ。最初はそうだったかもしれない。けど、本当はそんなことは関係なく、妹を護りたい気持ちで一杯だったはずだ。そうじゃなければ、自己満足でいつまでも続けられることじゃない」
「……そうでしょうか?」
「ああ、俺が保証する」
「ありがとうございます。ルシードさんがそう言ってくれるなら、私もそう思うようにします」
セフィーリアは今の気持ちを忘れないためか、押し込めるように両手を胸に押し当て、一筋の涙を流した。
「えへへ、ありがとうございます。なんだか気持ちがすっきりしました」
「いいんだ。ところで今話したことだけど、シャルには内緒にしてくれるかな? シャルが話したことは、セフィに知られたくない気持ちもあったかもしれないし」
「そ、そうですね。私も面と向かって今の話をするのは恥ずかしいですし、内緒にしておきます」
ルシードは口止めも完了したところで改めてセフィーリアを見ると、まだ何かありそうな雰囲気で落ち着きがないことを知る。
「まだ何か聞きたいことがあるのかな?」
「い、いえ! 質問とかじゃなくて……よく考えるとなんだか、で、で、でで」
「で?」
セフィーリアが何を言いたいのか掴めず、ルシードは聞き返す。
「こ、これが調査じゃなくて、二人で森にピクニックに来たと考えたら……まるでデートみたいだなって」
セフィーリアのだんだんと小さくなっていく声に、ルシードは考える。
デート。確かに周りから見ればそう見えなくもないのだろうか、と。セフィーリアも年頃の女の子だ。学園には通っておらず、シャルニアのこともあり、男の子と一緒に出かけることがなかったのだろうと想像し、もしかして憧れているのかもしれないと推測する。
「あ、あの聞こえなかったかな……あはは、忘れてください」
ルシードがなかなか返事しないことから聞こえなかったと思ったのだろうか。セフィーリアは乾いた笑いで誤魔化すように言うが、
「そうだね。それじゃあ、テオたちと合流するまでデートってことにしようか」
ルシードはそんなセフィーリアには気づかず、話を続けた。
「……えっ!?」
「あ、そういうふうに見られるのが嫌だって話だったか」
セフィーリアの驚きようを見るに勘違いしてしまったのかとルシードは焦り、いくら年頃の女の子が憧れているとは言っても、好きでもない男とのデートは、流石になしのようだと痛感する。
「ち、違います! そうじゃなくて……あ、あの、よろしくお願いします……デート、嬉しいです」
気を使わせてしまったかもしれない、とルシードは消沈する。セフィーリアの顔は真っ赤で、言いたくもないセリフを言わせてしまったのは、一目瞭然だと感じたのだ。
しかし、ここで断るとせっかくの好意を無駄にしてしまうかもしれないと、受け入れることにした。
「ありがとう、俺も嬉しいよ。……ところで、男がリードしなくちゃいけないことは知ってるんだけど、デートって何をすればいいのかな? ごめん。俺、デートってしたことがなくってさ」
ミレット村では暇さえあれば幼馴染の三人や、小さな子どもたちと一緒だったのだ。村の女の子と二人だけで過ごしたことは、一度としてなかった。それに、いつも英雄に思いを馳せていたことも重なり、デートなどと考えたことがないルシードは、カルロに聞いておけばよかったと後悔する。
「え!? な、ないんですか!?」
「う、うん」
ルシードは、しまった、と思いながらも焦りを隠そうと努力する。十五も近いというのにデートをしたこともないというのは、一般的にはありえないことなのかもしれないのだ。年上としては恥ずかしい限りだった。
「へ、へー。そうなんだー。私が初めて……えへへ」
セフィーリアはなんだか嬉しそうだが、小馬鹿にしている感じではないことに、ルシードは少し安堵。
「えっと、デートはですねー……すみません、私も初めてでした」
目を瞑り、胸を張って説明してしようとしたセフィーリアは、自分も経験がないことを思い出したのか、しょげてしまう。
「いや、俺もそうだしね」
「すみません。次までに勉強しておきま――つ、次? ……次もありますよね?」
セフィーリアはよほど残念だったのか、肩を落としたままルシードを上目遣いで見上げる。
何と言って元気づけようかとルシードが考えたその時、ふと昔に父が言っていたことを思い出す。
「セフィがそれでよければそれでもいいけど、いつだったか父さんが言っていたことを思い出したよ」
「え?」
「父さんは、母さんと二人ならどこへ行ってもデートだって言ってた。家の中だってね。きっと特別なことをする必要なんかないんだよ。仲良しな二人なら、いつだってデートなんじゃないかな?」
「そ、そうですよね! ただ一緒にいるだけだって、デートみたいなものですよね!」
なんとか元気づけられたようでよかったとルシードは思う、酔っ払いながら語る父の姿に、小さいころは何を言っているんだと思っていたが、今は父に感謝すべきだろう。
ただ、この理論でいけば、アルマリーゼが当てはまりそうなものだが、アルマリーゼはルシードとデートなどという考えは持っていないだろうとし、数には入れないことにした。
そこで今が良い機会だと判断し、懐から布に包まれたスピリティア・ストーンを取り出す。
シャルニアには贈ったのにセフィーリアに贈らなかったと、あとでセフィーリアが知ることになれば、喧嘩になるかもしれないと懐に忍ばせておいたのだ。特にセフィーリアには食事も作ってもらってお世話になっている。
マーカスが言うには好きな男からもらうと不幸から護ってくれるらしいが、友だちに対する好きでも効果があって欲しいものだ、と考えた結果でもあった。
「セフィ。初デートの記念と、今まで頑張ったセフィにご褒美ってことで、これをもらってくれるかな」
「な、なんでしょう?」
セフィーリアはルシードから布の包みを受け取り、紐を解く。
「青い――石? へぇ、綺麗な石ですね。え? も、もらっちゃっていいんですか!?」
「うん、そんなに珍しい物でもないから、気にしないでいいよ。ただ――」
「ただ?」
「できれば誰にも見つからずに持っていて欲しい」
「だ、誰にもですか?」
シャルニアに見つかってしまえばすぐにでも秘密がバレてしまうかもしれないと、ルシードは念を押す。
「うん。……ダメ?」
「い、いえ! 秘密にします! 誰にも見つからないように持っておきます!」
「ありがとう。そんな物しかなくて悪いね」
「そんなことないです! 大事にしますね!」
セフィーリアが大切な物を扱うように冒険者カバンへと仕舞う姿を見て、喜んでもらえたのなら、贈って正解だったとルシードは思う。
「それじゃあ、調査――じゃなかった、デートを続けようか」
「はい!」
◆
村の西側、森に面した方角を囲った柵の外側で、ルシードはテオたちと合流した。
「そちらは何か見つかりましたか? 僕たちは何も見つけることができなかったのですが……」
「俺たちの方も何もなかったよ。テオの話から聞いた森の様子と変わらない。動物もいないし、これと言って新しい物も見つからなかった。魔獣もね。静かなものだよ」
「そうですか……やはり森の奥まで行かないことにはわかりませんね」
「ああ、そう――」
――――――――ギチ。
「どうかしましたか?」
言葉を途中で切ったルシードを不審に思ってか、テオが聞く。
「今の……聞こえなかったか?」
「聞こえ? ……音ですか?」
ルシードには確かに何か聞こえた気がしたが、ルシードを含めた全員が耳を澄ましてみるも、変な音は聞こえない。
ルシードはアルマリーゼに目をやるが、アルマリーゼも聞こえなかったようだ。
「ごめん、俺の気のせいだったみたいだ。多分、風で木がこすれたか何かだったんだろう」
「そうみたいですね。では、宿泊所へ戻りましょう。もう暗くなってしまいましたし、今日は夕食を取って早めに休み、明日に備えることにします」
「ああ、そうしよう」
「ふふっ、今日の夕食は期待しててください。明日のために英気を養う意味も込めて、持ってきた素材を使ってちょっと豪勢にいきますよ」
「焦げていなければ、私はそれだけで満足よ」
「もう! アルマは本当に意地悪な人ですね!」
アルマリーゼとセフィーリアのやりとりを笑い、全員で帰路につくべく歩き出した。
◆
宿泊所へと戻ったルシードは、干していた洗濯物を取り入れて屋内に戻ると、台所で女性陣が食事の準備をしている姿が目に入り、次にテオが冒険者カバンから剣を取り出し、手入れしている姿が目に入った。
そこでシャルニアの冒険者カバンを預かったままだったことを思い出したが、返却しようにもアルマリーゼが持ったままである。食事のあとにでも返してもらわねばと頭の片隅に記憶し、テオのもとへと歩み寄る。
「それがテオの剣?」
白銀に輝く刀身に、豪奢な装飾。これが聖剣だと言われれば、信じてしまうかもしれない。
「はい。旅に出る際に、父からいただきました。レプリカですが、父が学生時代に使っていた剣と似せて作ってあるそうです。少し張り切ってしまったのか、装飾は少し大げさですが……僕にはまだ過ぎた剣です」
「そんなことないさ。剣だけでも美しいけど、テオが持つと一段と映える」
「はは、そう言われると照れますね。振ってみますか?」
「いやいや、たとえ持つだけにしろ、俺が持つなんておこがましい真似できないよ。ましてやその剣を振るだなんて、論外だ」
「そんなことはありませんよ」
テオはなおも勧めてくるが、ルシードは断る。
レプリカとはいえ、かつて英雄が使っていた剣を自分が持つなど恐れ多くて持てないと言った方が正しいかもしれない。どうやら、かつて英雄が使っていた剣を所持していることなど、すっかり棚に上げているようだ。
「ふふっ、持ってみたくなったら言ってください。……そういえば、まだルシードの剣を見たことがありませんが、どんな剣です? 携帯しているようにも見えませんが」
テオに言われてルシードは焦る。剣は影の中だが、見せてもいいものかと迷ったのだ。テオならばレナードから剣の姿形を聞いているかもしれない。一目見て、精霊の剣だとバレたりしないだろうか、と。
だが、その時――
「キャアアアアアア!」
宿泊所の外から叫び声が聞こえてくる。
「なんだ!?」
「外からです、急ぎましょう!」
「ああ! アルマ、聞こえたな!? 先に行く! 火の始末を忘れるな!」
ルシードは台所にいるアルマリーゼへと呼びかけ、先に行くことを伝える。
ルシードとテオは宿泊所を飛び出し、声のした方角――村の西側へと急行した。




