【ミッション】時間内に目標を達成せよ?
「エ、エレーナ! 貴様との、こんやっ、こんやっくはき……を、ここに宣言しゅる!」
王城の輝かしいシャンデリアの下、第一王子ルードヴィヒの声が裏返り、見事に噛んだ。
静まり返る貴族たち。顔を真っ赤にする王子。
(……あーっ! もう! だから直前のセーブポイントで『滑舌のポーション』を飲めって言ったのに!)
扇子で口元を隠しながら、私、悪役令嬢エレーナ(前世:限界RTAゲーマー)は内心で頭を抱えていた。
この世界は、私が前世でやり込んだ乙女ゲーム『きらめき☆王宮デイズ』の世界だ。
ただし、この世界には「絶対的なシステム」が存在する。
王族の婚約破棄を成立させるためには、**『大勢の前での宣言』『証拠となる三つの罪状の提示』『ヒロインの涙』『王子の右腕の角度45度による指差し』**という厳密なイベントフラグを、制限時間5分以内に連続で満たさなければならない。
失敗すればフラグは折れ、私は明日、このポンコツ王子と結婚させられてしまう。
それだけは絶対に嫌だ。私はさっさと婚約破棄されて、辺境の領地でスローライフ農業シミュレーションを始めたいのだ!
「る、るーどヴィヒ様ぁ……」
王子の腕に抱きつくヒロインの男爵令嬢。しかし、緊張のせいか一滴も涙が出ていない。
(ヒロイン! お前も泣きポーズだけで涙のパーティクルが出てないぞ! イベントが進行しない!)
タイマーはすでに2分を経過。このままではタイムアップ(強制結婚ルート)だ。
私は覚悟を決めた。こうなったら、力技でイベントを強制進行させるしかない。
「ふふ、王子殿下。私に何か言うことがあるのではなくて?」
私は優雅に微笑みながら、ドレスの影で密かに【無詠唱・不可視の風魔法(レベルMAX)】を展開した。
「そ、そうだ! 貴様は! マリアの教科書を破り、階段から突き落とし、さらに、ええと……」
王子が三つ目の罪状をド忘れしてフリーズする。
私は即座に【念話】を王子の脳内に直接叩き込んだ。
『(……噴水! 噴水に突き落とした、でしょうが! 早く言って!)』
「そ、そうだ! 噴水に突き落としたであろう!」
よし、罪状フラグクリア!
次はヒロインの涙だ。私は風魔法を極細の針のように収束させ、テーブルの上にあった『激辛オニオンサラダ』の汁を弾き飛ばし、ヒロインの目元へクリーンヒットさせた。
「痛ぁぁぁいッ!? ぅ、うわぁぁぁん!!」
よし! 【ヒロインの涙】フラグ、強制クリア!
残るは王子の『右腕45度の指差し』。しかし王子はパニックになっており、両手で頭を抱えている。
(腕を下ろすなバカ! 判定がシビアなんだよ!)
私は風魔法を物理的な力場に変換し、王子の右腕を無理やりガシッと掴んで引っ張り上げた。
「な、なんだ!? 右腕が勝手に……ッ!?」
「殿下! もっとビシッと指を差してくださいませ!」
「こ、こうかぁぁぁッ!?」
私が魔法で微調整を行い、王子の右腕が完璧な45度(システム許容誤差±0.5度以内)で私を指差した。
ピロリンッ♪
その瞬間、天上からファンファーレが鳴り響き、システム音声が脳内に響き渡った。
『【婚約破棄イベント:条件達成】。これより、悪役令嬢エレーナの国外追放ルートへ移行します』
「勝った……!」
私は思わず両手でガッツポーズをした。
記録、3分42秒。ガバガバな王子をキャリーしたにしては、悪くないタイムだ。
「えっ? エレーナ、お前なんでガッツポーズして……」
「それでは殿下! 今までお世話になりました! 辺境でのスローライフが私を待っているので、これにて失礼しますわーっ!!」
私は呆然とする王子と、玉ねぎの汁でガチ泣きしているヒロインを置き去りにして、王宮の扉を文字通り蹴破って走り出した。
明日からは念願の農業無双だ。まずは鍬の素振りから始めよう。
【完】




