SS 春に咲く、優しい花(エルリック視点)
※本編後のSSです。
重い展開を経た二人が、ようやく辿り着いた「その後の春」を描いています。
ダーク要素・トラウマ描写を含む作品ですので、苦手な方はご注意ください。
空から優しい日差しが降り注ぎ、ミリィと俺を明るく照らしてくれていた。
満開の桜の下で、俺と彼女は並んで座っている。
花がヒラヒラと舞い落ちて、とても美しい光景だった。
ミリィが幸せそうな笑顔で、大きくなったお腹を撫でながら、オルゴールについて、ゆっくりと語りかけている。
小さなオルゴールから、澄んだ旋律が流れ出す。
柔らかく、少しだけ不器用で、それでも不思議と心に残る音。
優しいその音色は春の風に溶けていった。
「これはパパからの大切なプレゼントなんだよ」
「お腹の赤ちゃんも、ママは音痴だなぁって思ってるんじゃない?」
その光景があまりにも眩しくて、少し照れてしまい、軽い口調で言った。
「もう! だから、そこまで酷くないってば!……でもいいの。この曲で、この音程で私を見つけてくれたんだから」
――あの春の日。入学式で。
君を見つけた時の、俺の震えを知らないだろう。
刻まれた痛みとともに、それでも。
それ以上の喜びが胸をいっぱいにした、あの瞬間を。
「……音楽がなくても、音痴じゃなかったとしても、俺はすぐに『優花』を見つけ出したよ」
軽く笑いで終わらせたかったのに、上手く笑顔が作れなかったみたいだ。
「こら、なにそんな顔で笑ってるのよ……。泣かない泣かない」
ミリィはそう言って俺の目元に優しく指を添えた。
「でも、乙女ゲーム設定がエルリックの嘘だったなんて、まんまと騙されちゃったわ。……何、自分までちゃっかり攻略対象にしてるのよ」
「俺にもチャンスが欲しかったんだよ……。もう、いいだろ、そんな事」
二人を、いや――三人を包むように、優しい春の風が通り過ぎて花を空に舞い上がらせた。
春は始まりの季節。
優しく花を咲かせ、新しく芽生えさせる季節だ。
「そんなの、『あなた』以外を選ぶわけがないでしょう?」
美しい旋律が静かに響く中、彼女の少し照れた声が俺に届いた。
おわり。
この物語では、
「守られること」も「依存」も、
生き延びるための一つの選択肢として描きました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




