4.ネズミが悪い
「セレーナ嬢のストロベリーブロンドは、陽の下だとより一層輝くね」
そんなふうにフィリベルトがセレーナのことを褒めると、ちょっと恥ずかしそうに下を向きながら、でもやっぱり嬉しそうな顔をしてるセレーナ。
「ありがとうございます。殿下のプラチナブロンドも、さらに輝きを増していらっしゃいますね」
下からそっとフィリベルトを見上げる姿は、ボクから見てもカワイイんだけど……!
最近のセレーナとフィリベルトは、会うたびにこんな感じ。どんどん仲良くなってて、ボクとしても嬉しいよ。セレーナもすごく喜んでるからね。
「殿下、なんて他人行儀な呼び方は悲しいな。私たちは婚約者なのだから、セレーナ嬢には名前を呼んで欲しい」
「な、名前、ですか?」
「そう、名前」
驚いてるセレーナとは反対に、ニコニコ楽しそうなフィリベルト。そして、その様子を見守りながらついてくニンゲンたちと、ボクとネロ。
『ご主人様、嬉しそうだね。ね、ルシェ』
『そうだね。セレーナだけじゃなくって、フィリベルトもなんか嬉しそうだし』
今もたまに、ボクの知らないニンゲンと一緒にいるフィリベルトを見かけることがあるんだけど、その時はこんなに笑顔じゃないんだよね。やっぱりみんな、セレーナのことを知ると大好きになっちゃうんだろうな。だからフィリベルトだって、セレーナに会えるだけで嬉しいんだろうし。
「そ、の……。フィリベルト、様……」
「ふふっ、ありがとう。嬉しいよ、セレーナ嬢」
ちなみにこの会話と様子を、次に会った時にビアンカに話すと毎回『素敵ー! この目で実際に見てみたいー!』って、すっごく嬉しそうに言うんだよね。尻尾なんてもう、興奮しすぎて上を向くどころか、逆に先っぽが上を向きすぎて前に垂れちゃってるくらい。
いいんだけどね、別に。それはそれで楽しんでるというか、喜んでくれてるわけだし。
『セレーナが幸せなら、それが一番だよ』
『だよね!』
庭の花壇の間を歩くセレーナとフィリベルトを見ながら、少しだけ離れたとこで会話してるボクたちにも、時々ニンゲンたちから視線が飛んでくる。特にいつものボクたちのことが大好きなニンゲンのメスなんて、セレーナたちのことよりもこっちのほうが気になるみたい。分かるんだけどね。ボクたちがカワイイから、ホントはずっと見てたいんだってことは。それに、ボクたちのお世話係だし。
「そうそう。今日はこの間セレーナ嬢が気に入ってくれた、他国の菓子を持ってきているんだ」
「まぁ! では折角ですし、そろそろお部屋の中でお茶にいたしましょう」
「いいね」
ゆっくり庭の中を歩いてたけど、どうやらそろそろ中に入るっぽいね。
会話からもそんな気配を感じ取って、じゃあボクたちもって思って歩き出そうとした、その時だった。進行方向とは別の場所に、黒い影を見つけちゃって。
そっからは、あんまりよく覚えてない。っていうのも、今までの獲物よりもずっとすばしっこくて、一発じゃ仕留められなかったから。
急いで追いかけて、花壇の中から出てきたとこをようやく押さえ込んで、その首に思いっきり牙を立てて。しっかり骨を折って満足したボクが、ふと顔を上げた時には――。
『…………あれ?』
見える範囲に、セレーナとフィリベルトの姿はなくって。ニンゲンたちもほとんどいなくなっちゃってたんだ。
『ルシェー? あ、いた。ネズミ、仕留めた?』
『うん。それよりネロ、セレーナたちは?』
『ルシェがネズミを見つけて走り出したのに気づかなかったみたいで、先に中に入っていったよ』
花壇の向こうから顔を出したネロに疑問をぶつけてみれば、そんな答えが返ってくる。
っていうか、それってつまり!
『置いてかれちゃったー!』
だって、ネズミが……! ネズミがいたんだもん! 追いかけるでしょ!
いつもだったらセレーナ気づいてくれるのに、今日はなんで!? フィリベルトがいたから!? そっちに夢中だったの!?
『うわーん! セレーナが先行っちゃったよー!』
『ル、ルシェ? 落ち着いて、大丈夫だよ。今から追えば間に合うから』
『ネロー!』
『うわわっ』
セレーナに置いてかれたっていう事実がショックで、ネロの真っ白な胸に思いっきり飛び込む。
だってだって、悲しんだもん! まさかセレーナが、ボクがいないことに気づかないなんて!
あんまりにもショックすぎて落ち込むボクは、仕留めたネズミがニンゲンに片づけられてくのにも気づかないまま。ネロに励まされながら、足と口を拭かれたあとに、ようやくセレーナたちがいる部屋に入れてもらえたんだけど。
『うぅ~……』
「あらあら。ルシェったら、どうしたのかしら?」
「きっと、セレーナ嬢に甘えたい気分なんだよ。そういう気分屋な部分も、猫の可愛いところだからね」
「えぇ、本当にそうですね」
楽しそうに会話するセレーナとフィリベルトだけど、結局ボクの気分は晴れないまま。一緒にいたニンゲンのメスが、ボクが庭でネズミを捕まえたことも話してくれて、いっぱいセレーナたちも褒めてくれたんだけどさ。
(でもやっぱり、置いてかれたのはショックだよ……!)
あんまりにも悲しすぎて、フィリベルトが帰るまでの間ずっと、ボクはセレーナの膝の上で丸くなってたんだ。
ホントはジャマしないつもりだったんだけど、さすがにこのくらいは許して。今回だけのはずだから。
『ネズミが……ネズミが悪いんだ……』
『うん、そうだね。タイミングが悪かったよね』
このあとも一日ずっとネズミへの恨み言ばっかり呟くボクに、ネロもそう言って慰めてくれてたけど。結局、夜眠りに落ちる直前まで、そのことを忘れられなかった。
そして、ボクは誓ったんだ。次からはもっと、素早くネズミを仕留めてやるんだって。
これにて完結です!
この次は「あとがき」となりますので、興味のある方だけ、どうぞお進みください。
ここまでの方は、またどこか別の作品でお会いできたら嬉しいです!
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!m(>_<*m))




