4.しょんぼり
少しだけでもビアンカのこと元気づけられてたらいいな、なんて思いながらお家に帰ってきたボクは、結局なにも入ってない革袋をくわえたまま。フィリベルトの部屋に置いとくわけにもいかないから、とりあえず今はボクの部屋に隠しとこうかな。
(最悪ニンゲンに見つかっても、セレーナのとこに返されるだけだし)
なんて軽い気持ちでいたボクは、完全に忘れてたんだ。わざわざ空っぽにした状態で革袋を置いといてくれたセレーナが、ボクがフィリベルトからの手紙を運んでこないことに疑問を持たないはずがないんだってこと。
だって、そうだよね。いつもある場所から革袋が消えてたら、すぐに分かるもんね。
それにセレーナって、すごくカンがいいから。なんでか分かんないけど色々当てちゃうとこがあるってこと、ボクは知ってたはずなのに――。
「ねぇ、ルシェ。殿下はお戻りになられているはずなのに、あなたがお手紙を運んできてくれていないのは……もしかして、殿下になにかあったからかしら?」
ベッドに入る直前、セレーナにまっすぐ目を見ながら言われた言葉に、ボクは思わず飛び上がりそうになっちゃったんだ。
そもそも、この部屋から革袋がなくなってる状態で二日も経ってれば、さすがにおかしいって気づくに決まってる。それなのにボクは、熱は引いてきてるみたいだけど今日もまだ目を覚まさなかったフィリベルトから離れようとしないビアンカに、少しでもごはんを食べてもらおうと一生懸命になりすぎてて。革袋をセレーナの部屋に戻すのを、すっかり忘れちゃってた。
「それとも、お仕事が忙しいのかしら? 無理はなさらないでほしいから、お手紙は遅くなってしまってもいいのだけれど……。なんだか心配で、もしかしたら倒れてしまわれているのではないかって考えてしまうの」
『……ねぇ、セレーナ。もしかしてホントは、ボクたちの言葉が理解できてたりしない?』
「なぁに? ルシェは、なにか知っているの?」
『……うん、そうだよね。理解できてるわけない、よねぇ』
セレーナの予想通りすぎて、逆に疑いたくなっちゃったボクだけど。やっぱりボクの言葉、理解してくれてるわけじゃなさそうだった。
ってことは、ホントにただセレーナのカンがよすぎるだけ、ってことだよね。これはこれで、なんかちょっと怖いような気もするんだけど。気のせいかな?
「セリアから聞いたのよ、ルシェがお部屋に革袋を隠しているって」
『セリア、って誰?』
「きっとお友達のニオイがついていて気に入っているだろうから、そのままにしておいてあげてってお願いしたけれど……」
『セレーナ、セリアって誰なの?』
一生懸命聞いてはみるけど、たぶん答えはこのまま返ってこないんだろうなー。
だってほら、セレーナの視線がボクじゃないとこに向いてるもん。
「一度この部屋から持ち出したのは、殿下のところに持って行こうとしてくれていたからでしょう?」
『まぁうん、そうなんだけどね』
「それなのにわざわざ持ち帰ってきたのは、殿下がお手紙を書ける状態ではなかったから、ということ? ルシェは賢い子だもの。そうでなければ、お部屋に隠す理由もないものね」
『……セレーナって、なんか、こう……。そういう事件とか解決するの、得意そうだよね』
こういう時、毎回思うんだけどさ。セレーナって普段はすっごくおっとりしてるのに、どうして悪いことの時だけ、ものすごくカンがよくなるんだろうね。実はひっそり周りを観察してるんじゃないかって、ボクちょっと疑いたくなってきたんだけど。
あと、やっぱりセリアが誰なのかは、結局分からないままになりそうだなー。
「殿下のご様子も、ルシェのお友達にお礼ができていないことも、とても気になっているの。でも……どちらも私にできることが一つもないから、悲しくなってしまうわ」
『セレーナ……』
確かにフィリベルトもだけど、クロも『まだ疲れてるからもうちょっと待ってて』って伝言を小鳥たちから聞いてるから、ボクも会いに行けてないんだよね。
せめてどっちかだけでも解決してあげれたら、セレーナも少しは安心してくれると思うんだけど。こればっかりはボクにもどうしようもないから、結局一緒にいてあげることしかできないんだ。
いつもニコニコ笑ってくれてるセレーナが、珍しく眠りにつく直前までしょんぼりした顔をしてたから。ホントはボクにも、他になにかできることがあったらよかったのにな。




