24.自慢の友達
「そうだったのですね。確かに、大変賢そうな様子ではありました。途中、私も叱責されてしまいましたし。……ところで、馬車や他の者達はどうされたのですか?」
ボクの思いが届いたわけじゃないけど、ようやく本題に入ってくれたことに、ちょっとホッとした。いつものセレーナとフィリベルトの手紙みたいに、ボクたちのことだけで終わりにされちゃったらホントに困るからね。
「私個人としては騎士団長が猫に叱責されたという、その詳細が知りたいところではあるが。まぁ、今はそれどころではないな」
フィリベルトが言うには、こっから結構先のほうまで地面ごと馬車も流されちゃってて、無事だけど色々身動きが取れないんだって。小鳥たちも言ってたけど雨のせいで川が増水してて、山から下りるにはもう少し時間がかかるみたい。
「この崖だ。さすがに上ることもできない上に、いつまた地すべりが起きるとも限らない。危険を冒すよりも、川の水位が戻るのを待つほうが賢明だろう」
「そうなると、食事と毛布の用意が必要ですな」
「あぁ。少なくともあと数日は、同じ場所で過ごすことになりそうだ」
それにしても、フィリベルトってビアンカがいないとこだと、すっごいキリッとしてるよね。ホント、別のニンゲンみたい。
「伝達係に、城に戻って殿下発見の報告と、人数分の食事と毛布の用意の指示を」
「は! ただちに!」
さっきのことがあったからクロに気を遣ってくれたのか、おっきいニンゲンは近くにいたニンゲンにフィリベルトと会話してる時と同じくらいの声の大きさで、そう伝えてた。受けたニンゲンは、ちょっとおっきな声出してたけどね。
「ルシェ。君にはビアンカ以外にも、大勢の友がいたんだな」
それでも今回はクロも怯えてなさそうだからよかったって思ってたら、今度はボクが下からフィリベルトにそう話しかけられた。その目は、クロや小鳥たちに向けられてる。
『そうだよ! ボクの自慢の友達なんだ!』
「……そうか。言葉は分からないが、君にとって彼らが大切で信用に値する存在だということは、よく分かったよ」
やっぱり言葉は通じてないけど、それが分かってもらえたのならボクは満足だよ。それに、いつも手紙を入れてた革袋を見てちゃんとボクの友達だって判断してくれたんだから、なおさら。
ビアンカ狂いなだけって思ってたけど、ちょっとフィリベルトのこと見直したよ。
「色々と助かった。君たちには後日、礼をしなければならないな」
『お礼ー?』
『なにくれるのー?』
いつの間にか頭上の木の枝にとまってた小鳥たちが、ちょっと嬉しそうにフィリベルトに話しかけて。それを見上げて、フィリベルトが笑う。
「人間の言葉を理解しているようで、君たちは本当に不思議だな」
理解してるんだけどね、とは思うけど。あえてここでは、それを口にしないでおく。
完全にニンゲンの言葉を理解してるって思われると、それはそれで不利になっちゃうことがあるからね。ボクたちに都合のいい部分だけ分かってますよっていうフリをするのが、一番得するからいいんだよ。
「だがまぁ、騎士団を連れてきてくれたのであれば、もう大丈夫だ。ルシェ、君は遅くならないうちに帰ったほうがいい」
「ルミノーソ侯爵に、協力感謝すると伝えてくれ。おそらく城にも、使者を出してくれているのだろう?」
「はい。侯爵家で最も足の早い馬に、主からの書状を届けさせております」
え、初耳なんだけど。
フィリベルトがボクに向かって話しかけてくれたのと同じように、おっきなニンゲンがマルツィオの背中にボクと一緒に乗ってるニンゲンに話しかけてたんだけど、まさかジョヴァンニにも役目があったなんて。
(でもそっか。やることがないなら、普通に考えてジョヴァンニがこっちに来るはずだもんね)
そうじゃなかったってことは、別にやらなきゃいけないことがあったってこと。
そんなふうに考えてたら。
『手紙を書き終えるのを待ったところで、ジョヴァンニさんの足ならすぐだからな!』
なぜかマルツィオが、ジョヴァンニのことを自慢気に話してた。
手紙ならフィリベルトからのがあったのにって一瞬思ったけど、もしかしてこっちにフィリベルトからの手紙を持たせたのは、このおっきなニンゲンたちがいるかもしれないって考えたからかな?
(ってことは、新しく書いた手紙を急いで届けるために、ジョヴァンニは待機する必要があったってことだよね)
前にビアンカと不便だねって話したけど、ニンゲンって直接会いに行くのも簡単じゃないみたいだから。フィリベルトのことを伝えるためには、手紙じゃないとダメだったのかも。
なんかホント、改めてニンゲンって色々面倒くさいなって思うよね。
『とりあえずフィリベルトも見つかったし、ボクたちは帰ろっか』
『うん』
『帰ろー』
『帰ろー』
来る時とは違って、ゆっくり歩き出したクロ。その背中に、なぜか小鳥たちが乗ってるけど。
「それでは、失礼いたします」
ちょうどあっちの会話も終わったみたいで、ニンゲンがマルツィオを方向転換させて、もと来た道をクロのあとをついて歩き始めたから。
「……なんで、犬の上に鳥が?」
『ワタシたち疲れちゃったしー』
『こっちのほうが楽だからー』
目の前に見えた光景に対して疑問を素直に口にしてくれたおかげで、ボクもすぐに理由を知ることができたんだ。
確かに、彼女たちは色々頑張ってくれたし。クロも時々背中に乗ってる小鳥たちを見て、なんだか嬉しそうにしてるから、いいんじゃないかな。




