17.幸せでいられたら
結局その日はビアンカに言われるまま、まっすぐお家に帰って。やることもないから、ずっとセレーナと一緒にいたんだ。
古くなったから使わなくなっちゃったセレーナのリボンを、ボクの新しいおもちゃとしてもらって。それを上手に振ってくれるセレーナと一緒に、部屋の中でいっぱい遊んで。
「すごいわルシェ! 速いわ!」
狙いを定めて思いっきり飛びつけば、そう言って喜んでくれて。
「まぁ! そんなに高く飛べるのね!」
高い場所でクルクル動くリボンにジャンプすれば、嬉しそうに目を輝かせながらセレーナは何度も同じ遊びをしてくれた。
そのおかげで、外に出なくてもいっぱい運動できたから、最後にはさすがに疲れちゃって。床に伸びながらリボンの先をチョイチョイしてたら。
「うふふ、疲れちゃったのね。でも、怠惰に遊ぶルシェも可愛いわ」
優しい声で、そんなふうに言ってくれるセレーナ。
セレーナって、ボクのことなら全部肯定してくれるんだよね。やっぱり、ボクがカワイイからかな?
「お嬢様、そろそろよろしいですか?」
「あら、なにかしら?」
でも、あんまりにもボクがカワイイからって夢中になりすぎたセレーナは、たまにやらかすんだよね。
「夕食のご用意が整ったそうですので、お早めにご準備をお願いいたします」
「あら? もうそんな時間なのかしら?」
「先ほどからお声がけしていたのですが、一向にお耳に届く気配がなかったものですから……」
「まぁ! ごめんなさい。ルシェのあまりの可愛さに、夢中になって遊んでいたわ」
こうやって、周りの声が聞こえてない時があったりする。
とはいえボクも、セレーナに遊んでもらえるのが嬉しいのと集中しすぎてたのもあって、完全に他のニンゲンの声なんて無視しちゃってたんだけど。
『セレーナ、ボクもお腹すいたからごはんにしよう』
「あらあら。ルシェもごはんの準備が必要なのかしら」
足元にすり寄ったボクの気持ちを、セレーナはちゃんと理解してくれて。部屋の中にいたニンゲンにボクのごはんの用意を指示してから、セレーナ自身も急いで準備を始めたんだ。
こうやって、いつもの日常を過ごしてて、ふとボクは思ったんだ。あぁ、幸せだなって。
ビアンカは今きっと、こんな幸せが全然ない状態で過ごしてて。だから寂しくて悲しくて、不安になったんだろうな。
(早く、フィリベルトが帰ってきてくれたらいいのに)
もうお日様も隠れちゃって、外は暗くなっちゃったし。たぶん今日中には、クロたちは帰ってこない気がする。
そもそも小鳥たちって、夜はあんまり得意じゃないし。ボクやクロみたいに、ちょっとの光があればいくらでも動けるわけじゃないからね。そうなると、案内役は難しくなっちゃうから。
(戻ってくるとしたら、早くても明日かな)
むしろ、明日だったらいいなっていうボクの希望もそこにはあるんだけど。
「お待たせしましたー。ごはんですよー」
当たり前に用意されるごはんに、遊んでお腹がすいてたボクは飛びついて。でも今度は、これだってクロにとっては当たり前じゃないんだってことに気づいた。
(ボクって、すごく幸せなんだな)
大好きなニンゲンが、いつもそばにいてくれて。お腹がすいたら、ごはんが出てきて。あったかくてフワフワの寝床があって、帰る場所がある。
全部ボクにとっては当たり前のことだったけど、それが当たり前じゃなくなることもあるんだってことを、今回ビアンカとフィリベルトを見ててボクは初めて知ったんだ。
(ビアンカもクロも、みんなずーっと幸せでいられたらいいのに)
誰にお願いすれば、それって叶えてくれるんだろう。
「あぁぁ~、可愛すぎるぅ~。お嬢様の振るリボンに飛びついて遊んでる姿も、本当に本当に可愛かったぁ~」
少なくとも、ボクのことが大好きなこのニンゲンじゃないことだけは、確実だよね。それだけは、ボクにも分かるよ。




