16.ビアンカに
『持ってきたよ!』
ニンゲンたちの間をくぐり抜けつつ急いで戻ってきたボクは、くわえてた中身の入ってない革袋をクロの前に置く。
『クロ、お願いしていい?』
『もちろんだよ! ルシェのためだもん!』
普段の頼りなさそうな感じとは全然違って、すごく元気に答えてくれるクロは、なんだか輝いて見えて。もしかしたらクロは、頼られることが嬉しいのかも。なんて、一瞬考えたりもしたんだけど。
『じゃあ、行ってくるね』
『うん。行ってらっしゃい』
それ以上に、革袋をくわえて立ち上がったクロがすごく凛々しくて。いつもはちょっと小さく見えてたクロが、初めてちゃんとボクよりも大きく見えたんだ。
それがなんだか、ボクはすごく嬉しくて、誇らしくて。こんな時なのに、ボクの友達はすごいんだよってみんなに言いに行きたい気分になった。もちろん、今は行かないけどね。
『行くよー』
『ついてきてー』
小鳥たちが空に飛び立って、先行してくれる。彼女たちを見失わないように、後ろをしっかりとした足取りと速さでついてくクロ。
あっという間に見えなくなった、その後ろ姿を見送って。
『……ボクも、やるべきことをやらないと』
ボクは、ビアンカのとこに向かうことにしたんだ。
だって、約束したから。フィリベルトが今どうしてるのかを知りたいって言われて、調べてみるって。
ホントのことを話すのが正しいのかどうか、今もまだ少しだけ迷ってるけど。でもやっぱり、ビアンカだけ知らないまま仲間外れって、それはなんか違う気がするから。
(もし、ボクが逆の立場だったら……)
やっぱり知りたいもん。せめて、どこにいるのかだけでも。
だからビアンカのために、通い慣れた道をひたすら歩いて、フィリベルトの部屋を目指す。
でも、どうしてもいつもみたいに楽しい気持ちにはなれないから、尻尾もなんだか下がり気味。ヤダなって思いと、教えてあげないとっていう思いの両方が交互にくるせいで、足取りもなんだか重くなっちゃう。
でも歩いてれば、いつかは結局着いちゃうんだよね。
『……よし。行こう』
いつもの窓を見上げて、決意と一緒に後ろ足に力を込める。そのまま一気に枝まで飛んで、その勢いのまま寝室の窓に飛び込んだ。
『あら、早いわね。なにか分かったの?』
ビアンカに頼まれたのが昨日で、今日さっそくボクがやってきたってことは、彼女からすれば情報を手に入れられたと思うのが普通だよね。実際、その通りだし。
ただ、やっぱりちょっとビアンカを前にすると言いにくくて。
『一応、分かってることだけ伝えておこうかなって思って』
そんな前置きをするボクに、ビアンカは大きくため息をついたんだ。
『ワタシのところに連絡がこない時点で、いいことじゃないって分かってるわ。一応、色々覚悟はしてるのよ』
悲しそうな目をしながら、そんなふうにビアンカが言うから。伝えるべきかどうかなんて迷って遅くなったことが、すごく申し訳なくて。同時に、恥ずかしくなっちゃった。
だって、ビアンカはちゃんと全部分かった上で、ボクに情報が欲しいって言ってくれてたのに。ボクはもう少しで、その信頼を裏切るとこだったんだから。
『それで? フィリベルトは、どこでどうしていたの?』
急かすようなビアンカの声に、ボクも覚悟を決める。
っていっても、まだ全部が分かってるわけじゃないから。ホントに今ボクが知ってることしか、教えてあげられないけど。
『地すべりが起きて、山の中で馬車ごと遭難してるって小鳥たちが教えてくれた』
馬車は転倒してなかったらしいから、おそらく無事なんじゃないかってこと。今ボクの友達にお願いして、場所を確認してもらってること。さっきまでのこと全部、ベッドの上で丸くなってるビアンカにちゃんと伝えて。最後に、友達が帰ってきたらボクがニンゲンを誘導する予定だってことも教えてあげたら。
『……そう』
そんなふうにビアンカは小さく呟いて、脱力するみたいにポスっと頭をベッドの上に乗せたんだ。
そのまま。
『…………よかったぁ~。もし……もし、フィリベルトがいなくなったら、二度と会えなくなってたらどうしようってっ……。ずっと……ずっと不安だったのっ……』
今までの気持ちを全部口にしてるから、きっとようやく希望が持てたんだろうなって。なんだか、ボクも少し安心したんだ。
『また色々分かったら、すぐ伝えにくるから』
『えぇ。ありがとう、ルシェ』
フィリベルトがどこにいるのかだけでも分かったからなのかな。ようやく尻尾が、少しだけ揺れて。
でもこのあとすぐ追い返されちゃったのは、照れ隠しもあったのかも。『いつ戻ってくるか分からないのなら、ちゃんと待機していなさい!』とも言われたから、早く情報が欲しいっていうのも本音なんだろうけどね。




