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恋の成就も、ネコしだい?  作者: 朝姫 夢
第四章 力を合わせて

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13.カンがいい

 なんて思ってたら、セレーナもボクも夜ご飯の時間になっちゃって。結局ちゃんと話すことができたのは、夜寝る前の時間だけだった。


「すごい雨……」


 ベッドに行く前に、そっとカーテンを持ち上げて窓の外を見ながら、セレーナが小さく呟いた。確かに雨の音は、夕方よりもずっと強くなってる。

 もし、こんな中で外で過ごしてたとしたら……。


(フィリベルト、大丈夫かな?)


 この雨だから遠回りしてたとか、出発を遅らせてたとか、そういうことだったらいいんだけど。それで、次にボクが遊びに行った時にはとっくに帰ってきてた、とか。そういう結末が一番嬉しいんだけどな。

 ボクも外を一緒に見るために、セレーナの足にすり寄ってからジッと窓の向こうを見つめる。風も強いみたいで、窓を叩く雨の粒がすごい勢いでこっちに向かってきてた。どうりで音が強くなってるはずだよ。


「ルシェ……」


 名前を呼ばれたから、外の景色から視線を外してセレーナを見上げれば、どこか不安そうな顔をしてて。どうしたんだろうと思ってもう一回すり寄れば、そっと抱き上げてくれた。


「……ねぇ、ルシェ。殿下は、大丈夫かしら」

『……!』


 頭をひと撫でだけしてくれたセレーナが、また窓の外に視線を向けて。そのままポツリと呟いた言葉に、ボクは本気で驚いたんだ。

 だって、セレーナはフィリベルトがいつ出発したのかも、いつ戻ってくる予定なのかも、全然知らないんだよ。それなのに、まるでフィリベルトが行方不明になっちゃってることを知ってるみたいに、そんなふうに言うんだもん。


(……前々から思ってたけど、セレーナって時々すごくカンが鋭いよね)


 フィリベルトが出かけた時も、もしかしたら誰かから聞いたとか予想できたとかじゃなくて、カンだったのかも。

 それに考えてみれば、時折セレーナはボクの言葉を分かってるみたいに返してくれてた。あれももしかしたら、カンがいいからだったって考えたら、ちょっと納得しちゃう。

 逆にそうじゃないと、説明できないんだもん。どうして知らないはずのボクの行動を当てられるのかとか、そういうこと全部。


『フィリベルトのこと、心配?』

「……ルシェがお手紙を運んできてくれていないのは、殿下がまだお戻りになっていないからでしょう?」

『うん、そうだね』

「だとすれば、少し遅すぎる気がしているの」


 試しに話しかけてみれば、まるで完全にボクの言葉を理解してるみたいな返答が返ってくる。相変わらず、視線は窓の外だけど。


「そんな中、こんなに強い雨でしょう? なんだか、心配で……」


 その言葉通り、すごくフィリベルトのこと心配してるだろうし、なにより不安なんだと思う。ボクを抱き上げてくれてる腕に、少しだけ力が込められたから。

 帰ってこないことをビアンカが不安に思うのは、フィリベルトの普段を知ってるからだけど。手紙が届かないだけのセレーナの場合はボクと同じで、フィリベルトがしばらく出かけるっていう経験は今回が初めてのはず。


(なのに、分かっちゃうんだね)


 今までなんとなーく感じてはいたけど、今回のことでよく分かった。セレーナはたぶん、普通のニンゲンよりもずっとカンがいい。だから色んなことに気づいて、ボクとの会話も成り立つことが多いんだ。


(特に、セレーナ本人が無意識の時とか)


 たとえば今みたいに、ボクにあんまり意識が向いてなくて自然に話してる時みたいな、ムリに意味を理解しようとしてない場合。思い出してみるとそういう時って、基本的にいつも会話が成立してるからね。

 なんか、だからセレーナってボクのこと色々と分かってくれてるんだなって、すっごく納得したんだ。

 けど、同時に。


『心配しないで。雨が通りすぎたら、ボクたちがフィリベルトのこと探してあげるから』


 セレーナが心配して不安になってるなら、なおさらちゃんとフィリベルトのこと見つけなきゃって思った。


『だから、今日はもう寝よう?』


 外を見てばっかりのセレーナの顔に、ボクはそっと頭をこすりつける。あんまり心配しすぎちゃって、寝るのが遅くなるのもよくないから。

 不安そうに雨の先に向けられてた、ボクよりも薄い色だって言ってた淡いグリーンの瞳が、ようやくこっちを見てくれて。目が合った瞬間、小さくだけど笑ってくれた。


「そうね。私が心配しすぎていても、仕方がないものね。今日はもう寝ましょうか」

『うんうん、そうしよう』


 やっといつものセレーナに戻ってきて、ボクも少し安心する。セレーナはやっぱり、笑ってるのが一番だよ。

 でもきっと、まだまだ不安だろうから。


「あら? 今日は一緒に寝てくれるの?」

『うん!』


 いつもの定位置の、セレーナの顔の近くのクッションじゃなくって。同じベッドに潜り込んで、頭だけ出してセレーナを見つめる。


「うふふ。ルシェったら、本当に可愛くてお利口さんね」


 セレーナのマネして横になったら、すごく喜んでくれたから。今度からはこうやって寝るのもアリかもね。


「おやすみなさい、ルシェ」

『おやすみ、セレーナ』


 優しく頭をひと撫でしてくれてから、セレーナはそっと目を閉じる。それを見届けてから、ボクも目を閉じたけど。


(晴れたら、まずは小鳥たちに会いに行こう)


 ちゃんと情報を集めて、フィリベルトを探して。ビアンカだけじゃなくて、セレーナにも安心してもらえるように。

 そう決意して一度ゆっくり息を吸ってから、一気に吐き出すことで全身の力を抜いて。そのままボクも、本格的に眠りについたんだ。



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