10.イヤな予感
『ちなみに、フィリベルトの乗ってる馬車を見た鳥はいたの?』
『ううんー』
『まっすぐ山を越えてきた子は、誰も見てないって言ってたー』
山の中とはいっても、ニンゲンが進む道はある程度整備されてて、上から見ればちゃんと見えるようになってる。そうボクに教えてくれたのは、他でもない彼女たちだった。
ということは、山の中の見える道にはホントにいないのかも。もしくは、どっかで雨宿りしてるとか?
『やっぱり山の向こうは、雨がすごかったんだねー』
『言ってたもんねー』
『それが移動してきたってことかなー』
『じゃあもう少ししたら、ここも降るかもねー』
小鳥たちの会話に、そういえば前に渡り鳥がそんなこと言ってたみたいな話を聞いたなって、今さら思い出した。まさかボクたちにも関係してくるなんて考えてなかったから、すっかり忘れてたけど。
『そういえば、雨ってどのくらい前から降ってるのか知ってる?』
『なんだっけー?』
『山のこっち側は、昨日からだったっけー?』
『えー? おとといじゃなかったー?』
曖昧な彼女たちの返答だけど、少なくともここ数日の話ってことだけは分かった。ただ同時に気になったのは、山のこっち側っていう言い方。
(もしかして、山の向こう側でフィリベルトたちは足止めされてた?)
だから遅くなってる。そう考えられないわけじゃないし、そのほうが自然だと思う。誰だって濡れたくないはずだから。
でも同時に、イヤな予感もするんだ。だってもし、フィリベルトたちがいる場所の雨が止んだからって、出発してたとしたら?
(雨に追いついちゃってるか、もしくはその途中でなにか問題が起きちゃったのか)
どっちにしても、雨のせいでなにかがあったのは間違いないんだけど。それ以前に情報が少なすぎて、全然フィリベルトの状況がつかめない。
どうしよう、ビアンカになんて言えばいいのかな。
なんて悩み始めてたボクは、ふと空を見上げて。その瞬間、今までと空気の流れが変わったことに気づいた。
『……雨、くるかも』
『えー!』
『急いでごはん食べないとー!』
小さく呟いたボクの言葉に、小鳥たちが慌てだす。
濡れることが大嫌いなボクのヒゲは、天気の変化が起きる前にすぐ察知できるんだ。小鳥たちもそれを知ってて、しかも外れることがないこともよく分かってるから、焦ってるんだと思う。
『もしかしたら山の向こうで降ってた雨が、こっちにずっと移動してきてるのかも』
『えー! 大変だ―!』
『みんなに知らせなきゃー!』
直接すごい雨だったって聞いてた彼女たちからしたら、ホントに気をつけなきゃいけないことなのかも。体も小さいし、雨で濡れて冷えちゃったら大変だし。
フィリベルトの情報を教えてくれたお礼に、ボクはもう少しだけヒゲをヒクヒクさせて空気を調べてみる。
『この感じだと……今日の夜には、降り始めてるかもね』
『やだー!』
『急がなきゃー!』
結局、窓の向こうのニンゲンたちの会話も進展がないまま、全員どっかに行っちゃったみたいだし。なにも分からないままビアンカのとこに行くわけにもいかないから、ボクも今日はこのまま帰っちゃったほうがいいのかも。
『あ、そうだ。雨が通りすぎてもフィリベルトが帰ってきてなかったら、また協力してくれる?』
『うん、いいよー』
『なにか分かったら、会いに行くねー』
最後にそう約束して、ボクたちはこの場で解散した。
彼女たちはこのままごはんを食べに行くって言ってたし、ボクもジメジメしてきて気持ち悪くなる前に、お家に帰ることにしたんだ。ちょっとヒゲがムズムズし始めてきて、ゆっくり落ち着いて毛づくろいできる場所に早く行きたかったのもあるけどね。




