第六話 学園
「・・・『生命エネルギーたる鬼力を常に自由に循環させる事で支援術であるスキルの任意的発動が可能となる』、という理由によるものです」
「ふむ、見事だソァーヴェ嬢・・・入学して1ヶ月も経たないのにここまで完璧に暗記しているとは・・・全員彼女を見習うように!これにて授業を終える」
カヴァルカント学園、今から10年ほど前に大陸の向こうから招いたエーゼスキル学園の教授が学長となり建設された学園。理鬼学を中心としたカリキュラムが組み込まれている。
私は国王陛下の命でこのカヴァルカント学園に一年間の一般教養を交えた普通科生としての在席となった。
通常なら三年間の学習を経て学園を卒業し仕官する事になるけど、私は王太子妃候補だからと短い時間で理鬼学の学習をする事になった。卒業後は晴れて王太子アルカンジェロ殿下と結婚する予定だ。
念のためにと学園側から出されたテスト―理鬼学を除く一般教養の問題―も卒なくこなす事が出来たので受講しない二年間分の単位も特別に与えられた。
陛下曰く「王太子妃の勉強はほぼ合格」との事だったけどそのまま学園の勉強にも役立つとは思わなかった。私とは違って騎士科の在籍となったアルカンジェロ殿下も成績優秀との事だ。
学園での勉学は順調だ。全て実践の上で成り立つ知識だから身に付きやすい。その上今まで受けてきた王太子妃教育での勉学方法が役に立っている。
「ソァーヴェ令嬢、相変わらずのご活躍ですこと」
「さすがに王太子妃候補の方はご優秀で・・・」
「そんな方がよもや戦闘の支援術たる理鬼学に堪能とは意外な事ですわ」
この3名のご令嬢はクラスメイトの方々。どうも私が気に食わないようだ。公爵令嬢だから?王太子妃候補だから?理鬼学の成績が良いから?
ともかく次の用事に向わないと。
「お誉めに預かりまして光栄でございます、申し訳ありませんが所用がありますので失礼致します」
「なっ!何よその態度は公爵令嬢のクセに!!」
「ぉ、王太子妃候補だからって!!」
「理鬼学なんて野蛮な事、貴族のやるものではないのに!!」
後ろで騒いでいるご令嬢方を放置してこの場を後にする。確かに公爵家令嬢だし王太子妃候補だけど、理鬼学が野蛮ならこの学園には何を学びに来られているのかしら?
「相変わらず幅を利かせているわね、お姉様」
「王太子殿下、ご機嫌麗しく存じます・・・ラウレッタも」
廊下を歩いているとまたもや声を掛けてきたのは・・・義妹のラウレッタ、顔をしかめている。その横にはアルカンジェロ王太子殿下がいる。
殿下とラウレッタは学園の生徒会のメンバーだ。生徒会は学園の生徒達の意見をまとめ上げてよりよい学園生活を運営するのがその役目。
殿下は王太子という地位を期待されてか生徒会長の役職に推薦され、ラウレッタは生徒会の資料や決算報告書などの書類をまとめる書記。彼女は治療専科―戦時中に兵士を治療する衛生兵の育成機関―で私よりも先だってこの学園で活躍している。
やはり私には目を合わせて下さらないまま殿下が話し始める。
「おい、また今日も研究室か?」
「はい・・・仰る通りです」
研究室、教授達の要望で未整理の文献を整理する役を仰せつかっている。常に座学で首席の成績を修めている私に白羽の矢が当たったとの事。
あろう事かラウレッタは王太子殿下の手を取って気安く話しかける。
「アルク様ぁ、つまらないお姉様なんかほっといて生徒会室へ行きましょう?みんな待っていますわ」
「・・・・・・」
ラウレッタの不躾な物の言いようと態度に思わず口を出してしまう。
「控えなさいラウレッタ、気安く殿下に触れるだけでなく勝手に名前呼びどころか愛称呼びなど不敬ですよ?」
「どうして?婚約者がお姉様ならアルク様は私にとってもお兄様なんだから、それにここは平民も貴族も関係ない学園でしょ?だったら私もお姉様もアルク様もいち生徒なんだから問題ないわ、そうですよねアルク様?」
彼女のあからさまに礼儀作法を無視した発言に言葉を失う。私が王城にいた3年間お父様はこの娘にはマナー教育をしなかったのかしら?仮にも公爵令嬢の身分なのに。
殿下は妹の無礼な物言いに対して手を振りほどいてから私に顔を向けて一言。
「・・・教授達に気に入られているからと言っておだてられるな、苦しむのはお前なんだからな?・・・いくぞソァーヴェ嬢」
「あん、名前で呼んで下さいよぉアルク様ぁ!」
殿下はそう言い捨てて足早に去りラウレッタが後を追いかけていく。殿下も私と同時に入学したのに生徒会でラウレッタと親しげにしているなんて・・・殿方はラウレッタのような自由奔放な性格を好まれるのかしら?
いけない、学園ではどうあれ私は殿下の婚約者なのだから毅然と振る舞わないと陛下や王妃様からの期待にも背いてしまう。
暗い気持ちを振り払って研究室へ向かう事に。