エピローグ
昼間、ボナおばさんと買い出しに行く。ホントはルカお兄ちゃんから外に出るのを止められているんだけど、おばさんを手伝いたくて付いてきた。
港町だからお魚がたくさん獲れているので何を買っていいのか迷っちゃう。
色んなお店を見ている内にいつの間にかボナおばさんとはぐれちゃった。どうしよう、家までの道が分からない。
困っていると薄汚れた服を着た怖そうな三人の男の人達が私に声を掛けてくる。
「お?道に迷ったのかお嬢さん?」
「俺らが案内してやるぜ?楽しいトコになぁ!」
「白い髪だけどずいぶんべっぴんさんじゃねぇか、高く売れるぜぃ」
私を助けてくれるような言葉だけど気持ち悪い感じがする。この人達についてっちゃダメだ!
「ご、ごめんなさい!一人で帰れますから!!」
「シス・・・お嬢様、こちらでしたか!」
ボナおばさんが息を切らせながらやってきた。手を取ると安心して崩れ落ちそうになる。おばさんはそんな私を抱きかかえて守ってくれる。
「何なんですか貴方たちは!お嬢様から離れて下さいまし!!」
「なんだこのオバさんわ・・・いや待てよ?」
「トシは食ってても顔はなかなかイケてるじゃねぇか!」
「2人まとめて食ってや・・・るげぇ!!」
突然3人の内の1人が倒れた。その後ろから現れたのは若い金髪の男の人とこげ茶の髪をした男の人だった。
2人とも髪形が少し乱れて着ている服もしわが多くて何日も旅をしていた様子だった。鞘に入ったままの細長い剣を持っている。
「な、なんだテメェ!俺達を誰だと思って・・・がふっ!!」
「ただの悪党、だろう?さぁ後は貴様一人だ」
「へっ、俺らがたったの3人だけと思ってやがるようだなぁ!おいオメェら!!この小僧をぶっ飛ばしてやれ!!!」
「「「おおおぅ!!!」」」
その声に合わせて武器を持った8人の男の人達が出てくる・・・ダメだ、こんな人数じゃ金髪の人達まで・・・。
「殿下、お下がりを」
「殿下はやめろバジリオ、俺もや・・・」
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
金髪の人達が立ち向かおうとする時、風を切る音がした?
「がっ!!」
「ぃげぇ!!」
「ぶへぇ!」
「げはぁっ!!」
「ぅごぉ!」
突然倒れる8人の人達。そのそばには石ころが転がっている。何が起こってるの?そう考えてたら私を後ろから優しく抱きしめる人がいた。
「シスタ、怖かっただろう?もう大丈夫だよ!」
「ぉ、お兄ちゃん!」
「ルカーノ様!」
急いで来てくれたお兄ちゃんに抱きつく。ボナさんも安心したのか力が抜けていた。
「あ・・・何だお前は!俺の舎弟どもに何しやがった!?」
「今こちらに町の自警団が向かっています、大人しくしていなさい!」
「くそが!余計な事しやがって・・・覚えて、ろよわぁ!!」
「逃がす訳ないだろ?」
逃げ出そうとした男の人を金髪の人が動けなくしていた。鞘に入れたままの剣で叩いたのかな?
金髪の人が私達に向って話し始める。
「ご婦人方、あんな手合いはどこにでもいる・・・買い物も気を付けるように」
「どなたかは存じませんが助けて下さって有難うございます」
「あの、有難うございました!」
「ああ、気にする・・・・・・な!」
金髪の人は私の顔を見て驚いている。どうしてかすごく悲しそうな顔になっていた。その顔は見た事があるのに思い出せない。その姿と悲しそうな目とが合っていない気がする。
見兼ねたボナおばさんがたずねる。
「あの・・・お嬢様が何か?」
「い、いや人違いだ・・・それに俺達がいなくとも貴殿がいれば問題ないか、どうやら余計なお世話だったようだな」
金髪の人はお兄ちゃんに向って言う。どうしてか機嫌のよくない顔だ。お兄ちゃんも同じくらい不機嫌なお顔で話す。
「いえ、彼女を・・・妹を助けて頂いた事は感謝致します」
「気にするな、偶然通りかかっただけだ・・・悪いが俺達は行かせてもらう、後は任せた・・・いくぞバジリオ」
「はっ」
そう言って金髪の人とこげ茶の髪の人はこの場を離れて行った。そしてさっきまでとは変わって頭を深く下げるお兄ちゃん。
「・・・どうかお気をつけて」
◇◇◇
それから一年が経った頃、ルカお兄ちゃんに大陸の向こうにある世界一のエーゼスキル学園から「教授職の推薦」の手紙が届いた。何でも仕事の合間に頑張って書いた理鬼学の論文が優秀だったから学園の教授をして欲しいそうだ。
でもルカお兄ちゃんは学園にお断わりの返事を書いた。どうして?ひょっとして私のために?!
「シスタ、明日はお休みだからどこか遊びに行こうか?」
「私は・・・お兄ちゃんとお話したい」
「うん?何でも聞いてくれ!本のお話ならいくらだって」
「そんな事じゃない!どうしてエーゼスキル学園のお話を断ったの?アンジョラさんから聞いたわよ、お兄ちゃんは学園の卒業生だって!!」
アンジョラさんというのはお兄ちゃんがお仕事をしている「ネローニ商会」の店長の代わりをしてる人。商会に来る前からルカお兄ちゃんと知り合いだったみたい。
「・・・そうか、まぁ別に隠す事でもないし」
「知っているところならお仕事もしやすいハズじゃない!もしかして私のために遠慮してるの??」
「・・・シスタ」
「だったら大丈夫!私、もう一人でゴハンも作れるしお掃除もお洗濯もできるようになったんだから」
「シスタ」
「もうお兄ちゃんに迷惑はかけない!だからせっかくのチャンスを自分で潰さないで!」
「シスタ!」
お兄ちゃんの大きな声にびっくりすると突然抱きしめられた。それも強い力で。
「る、ルカお兄ちゃん?」
「僕が本当に欲しいのは・・・シスタなんだよ、僕は今の生活が続けられれば一番嬉しいんだ!シスタはこんなオジサンと一緒にいるのは嫌かい?」
「・・・ぅ、そんな事ない!私だってお兄ちゃんが大好きなんだから自分でオジサンなんて言わないで!」
私の返事を聞いてから身体を離すお兄ちゃん、両手は肩に置いたままで優しいお顔で私の目をじっと見つめる。
「だったら・・・ずっと一緒にいよう!シスタは僕のお嫁さんになってくれるかい?嫌なら妹のままでもいいんだけど・・・」
ルカお兄ちゃんの言葉が嬉しくて涙がこぼれちゃう。返事をしようとするとどうしてか口が勝手にしゃべりだす。
「お慕いしております教授・・・初めてお会いした時からずっと」
―終―




