第四十五話 「放浪」
アルカンジェロ・プリンチペ=イラツァーサ視点7
険しい山脈を越えている。かなりの高所で空気は薄い。イラツァーサ王国の解体から一年以上が過ぎようとしていた。
隣には変わらず元従士バジリオが律儀に供をしてくれている。もはや俺は王太子ではないのだから忠義立てする必要はないのだが、元々王国でも天涯孤独だったことから『自由になってもする事がない』そうだ。
彼のためにも落ち着ける場所を探したい。
王国を解体しようが依然三国からは命を狙われている身だ。なるべく人の来ない場所を目指している。
前方を進んでいたバジリオが指をさして叫ぶ。
「殿下、あそこに村落があります!」
「殿下はやめろバジリオ、俺はアルクだ」
「すみません、クセで・・・しかし助かります、もう食料も底をつきかけていたところですから!あそこに向かいましょう!!」
「ああ・・・これだけ山を越えた場所だ、三国のヤツラも追ってはこれまい」
俺とバジリオは村落に向けて足を運ぶ。そこにいた村人は突然やってきた俺達を温かく持て成してくれた。
村の最年長の老人-長老-にこの村に住みたいと頼むと快く受け入れてくれた。
この村落は遠くの町において戦争で家を焼かれた家族が14世帯いるだけで、未だ村の名前が無く人手も足りないらしい。
今は夏場なので気候が良く通行できたが、冬になると外界からは完全に断絶されるようだ。未だに追われている俺にはぴったりの場所だ。
「男手が一気に2人も増えた・・・みんな、これからはこのアルク殿とバジリオ殿にもしっかり働いてもらえるぞ!!」
「「「おおおおおおー!」」」
「おいお前ら!この方はそんな事をするために・・・」
「いいじゃないかバジリオ、『働かざる者食べるべからず』だ・・・俺もここに骨を埋める事にしたぞ?みんな、よろしく頼む!」
日々慣れない畑の開墾に苦戦する。自然環境が厳しいため草木を取り去って土を農業が出来るようにするには力も知識も必要だ。
そこで俺は開墾の合間に自分が今まで習い覚えて来た一般教養や理鬼学を村人達に教える。理鬼学の使用で開墾作業も楽になるだろうし、農業学ではないが一般教養も生活に直結する事を教えている。
元々全員が町の出身という事もあり村人達は必死に食らいついてくる。
◇
この村落で生活をして一年が経った頃、長老が俺達に「村の相談役になって欲しい」と頼んできた。
ここには互いに見知った顔しかないので世帯同士のトラブルが起ればまとめにくいとの事。世話にもなっている事だし長老の頼みを引き受け、俺は村人への相談役になった。
「さっそくだがご両人、この村に名前をつけてくれんかのぉ?」
「名前か、ならばアルカンジェロ村に決定だ」
「止せ、そんな物騒なもの付けられるか!俺の名前からでおこがましいが『アルクア』というのはどうだろうか?」
「アルクア・・・なるほど、呼びやすくていい名前ですな!ではそのままアルク殿が村長に」
「それはお断りさせてもらう、村長ならここに適任者がいるじゃないか」
「あ!アルク様!!」
村長の役目は長老の孫娘と結婚したバジリオに任せる事にした。元王族の俺を差し置いて村長になるのは嫌がっていたが、困った事があれば協力するという条件で引き受けさせた。
俺が村長になればもしコルムー・ウィザース・オヴロの三国のヤツラが村に辿り着いた時に村人達に迷惑を掛ける事になるからだ。
所帯をもったバジリオはだんだん村長としての風格を持ちつつある。
俺も村の娘との結婚を持ち出されるが丁重にお断りしている。どうあろうとも一人の女性を不幸にしてしまった過去は消えないからだ。
結局システィナとは再会することはなかった。隣国コルムーであんな痛々しい姿を見れば謝罪する事など到底出来ない。
俺にはもう彼女に関わる資格はない。悔しいが彼女を守っている「アイツ」に任せよう。
さんざん迷惑を掛けた俺が言える事ではないが、彼女にはどうか幸せになって欲しいものだ。
彼女の描いた三山の絵画を見てそう願わざるを得ない。
―――――
追記
アルクア村の名づけ親で村の相談役アルクが56歳の生涯を終える頃には14世帯しかなかった村民が一気に50世帯までに増加。
それに加えて一般教養や農業学に理鬼学の教育も進む事となり、ようやく村と呼べる規模にまで発展。自然環境が厳しい中で村人達は地道に生活していく事となる。
一方、初代アルクア村村長バジリオ翁の「念属性は神のごとき力と悪魔のごとき破壊をもたらす」との昔話が知識として広まる。
しかし代を重ねてきた村人の子孫が意味を取り違えて「念属性は悪魔の力なり」との誤解が拡散。
以来この村で念属性の保持者が現れると村八分となるか、村を追放される悪しき習慣が形成された。
https://ncode.syosetu.com/n5573hl/13/
アルクア村の経緯は拙作「決死のタイムリープ」の幕間ウィルマsideに繋がる設定となっております。本作の後にでも目を通して頂ければ幸いです。




