表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
wink killer  作者: 優月 朔風
第5章 友達
43/96

第41話 雨の日の放課後

 今日は雨が激しい。

 黒く淀んだ雲が時折雷を落とす、悪天候。

 私は外の景色を眺めながら、何だかつられて気分も重たくなってきた。


 「何か浮かない顔だけど、なんか嫌なことでもあった?」


 後ろの席から花が私に話しかけてくる。

 私は何でもない、と笑って誤魔化しながら、再び窓の外を眺めた。


 お昼頃から突然振り出した雨。

 天気予報では一日中晴れだと言っていたのに、とんだ誤報だ。


 教室内には、外の景色を見ながら今日の帰りを嘆く生徒が多数いた。

 私は奇跡的に持ちあわせていた(実際には、鞄から取り出すのが面倒でそのままにしていた)折り畳み傘を眺めながらひとまず安堵するものの、教室内のジメジメとした空気感に、再びどんよりとした重怠い気分に陥った。


 昨日の夜――それは突然のことだった。

 ミタが意識を失った。

 今までこんなことなんてなかったのに。

 部屋に戻った私が見た光景は、カーペットに倒れているミタの姿だった。


 何度も声をかけた。しかし、彼が目を覚ます気配は一向になかった。

 そんな彼を部屋に置いて今学校にいる私が、彼のことを心配してないと言ったら嘘になる。


 本当は、今でも叫び出したいくらい心の中が不安でいっぱいだ。

 本当は、彼が目を覚ますまでずっと、そばに居てあげたかった。

 本当は、学校が終わってからすぐに彼の元へ飛んで行きたかった。


 それでも、今日の放課後は、彼を置いてでも行かなければならないところがある。


 永美との約束――今日の放課後、私は彼女と会うことになっている。

 それも、今朝、彼女の方から持ち掛けてくれた約束だ。


 彼女としっかり話をするチャンス。

 これまで心を開いてくれなかった彼女が、初めて、私の方に歩み寄ろうとしてくれているのかもしれないのだ。

 それに、この約束を破ったら、もう二度と永美は私に心を開いてくれないかもしれない。


 それでも――灰色の空を眺めていると、不吉な予感がしてならなかった。


 それに何だか、背後から不吉なものが近づいてくるような感覚がするのだ。

 そう、それは今にも私に襲い掛かろうとしている。

 この感覚は、一体――。


 そんなことを考えていた次の瞬間。

 突如、背後から異様な殺気めいたものが私を襲う。

 私がその方を振り向こうとすると、その途端――視界が真っ黒な闇に包まれ、私の両目を何か温かいものが覆った。


 「あはは、だーれだ」


 ……はあ、そういうことか。


 張りつめていた緊張が一気にほどけ、思わず安堵と呆れの混じったようなため息がこぼれる。

 殺気の正体は、これだったか。


 「はいはい、どうしたの、花」

 私に手で目隠しした犯人を見やると、そこには意外な人物が立っていた。


 「ぶぶー、実は満咲だったのでした!」


 そう言って後ろの席でしたり顔をするのは花で、その横で遠慮がちに手を引っ込めるのは満咲。

 ――そうか。この二人……グルか。


 「いつも私がやるって思ったら大間違いだよ? 未玖」

 私を出し抜いてやった、とでも言わんばかりの、勝ち誇った笑みを浮かべる花。


 「ずるいよ、声は花だったじゃん」

 「でも、本当の犯人は満咲だもん。ね、満咲?」

 「そ、そうだね。花ちゃん」


 満咲は苦笑してから、「でも、未玖がぼーっとしてるからだよ」と言って私にほがらかな笑顔を向けた。


 ああ、何か温かいなあ。


 外の天気が最悪で、教室の中がこんなにジメジメしていて、私の気分がどんなに落ち込んでいようとも、二人の笑顔が私のそんな気分を吹き飛ばしてくれるんだ。


 そう、二人はいつも私を励ましてくれた。

 私が弟を失って、ひとりで塞ぎ込んでいたときも――。


 「ありがとね、二人とも」


 「急にどうしたんだ」と驚く花に対し、私は「何でもないよ」と笑ってはぐらかす。


 二人といると、私は自然と笑顔になれる。

 それが友達なんだ。

 それが、本当の……


 「未玖、何か隠してるでしょ」

 「……花?」


 花が私の目を見ている。

 真剣な表情だった。


 「未玖って顔に出るからさ、分かりやすいんだよ」

 花が小さく笑う。


 「な……何のこと?」

 花がたまに見せる真剣な表情には、いつも何か深い意味があった。

 一体、何を言おうとしているのだろう。


 「私聞いちゃったんだよ」

 私はごくり、と唾を呑み込んだ。

 「未玖さ、今日……永美に呼び出されてるんでしょ」


 どうして花がその事を。

 様々な思考が駆け巡る中、私は言葉を返せずにいた。


 すると、花は笑いながら「あいつ、未玖と二人っきりでデートでもする気かよ」と言って私の肩を叩く。

 が、しばらくして「って、冗談にしては悪すぎるか」と小さく呟いた。


 「で、行くの、未玖?」

 花が真剣な顔つきに戻る。

 私が小さく頷くと、花は「そっか」と小声で呟いていた。


 しばらくの間、沈黙が流れる。

 満咲は黙ったまま、私のことを見つめていた。

 次に口を開いたのは、花だった。


 「未玖、今までトイレとか言ってさ、本当は永美と話してたんでしょ」

 「…………」

 「図星、って感じだね」


 ――さすが、花だ。

 やっぱり私なんかの嘘、全部見抜かれてたんだ。


 「あいつとは関わるな、ってあれほど言ったのにね」

 「ごめん……」

 花はあ~あ、とため息をつきながら、「まぁしょうがないか」と呟く。


 呆れた顔で私を見ながら、ふいに花が笑った。


 「まぁ、未玖ってそういうヤツだよね」


 花の示すニュアンスがどういう意味なのかを理解できないまま、私に花からの質問が飛んできた。


 「未玖はさ、本当は永美のことどう思ってるの」


 花は少し俯いて言った。

 満咲は一層真剣な表情で、私のことを見つめている。


 永美のこと……

 そんなの、決まっている。

 いつも私の目の前に居てくれたのは、満咲と、花と……


 「永美は大事な友達だから……また皆で、一緒に過ごせるようになりたい。それが、私の願いだよ」


 諦めたくない。

 最後まで、頑張ってみせる。

 たとえ永美に嫌われたとしても、何度でも、自分にできることをやりきる。


 私の言葉を聞いた花は顔を上げると、ふいに吹っ切れたように、「やっぱ、未玖って面白いわ」と言って笑いだした。


 ――な、何だと。真面目に答えたのに、失礼な!

 何がだ。一体何がどう面白いっていうんだ。


 「いやいや、なんかさ、未玖って一見気弱そうに見えてさ、肝だけは据わってるっていうか」

 君は私を褒めたいのかい? それとも、けなしたいのかい?


 「でもさ、そういうあんたの真っ直ぐなところ、あたしは好きだよ」


 花の言葉が、その笑顔が、素直にとても温かく感じた。

 満咲は黙っていたけれど、その優しい表情が、私の心を和ませてくれるのが分かる。


 「やっぱりさ、あたしらはあんたの味方だから」

 「……?」

 「永美に何言われても、気にしないでさ。あんたが泣きそうになったら、あたしらのこと頼っていいんだからね」

 「花……満咲……」


 ありがとう、二人とも。

 私、今度こそ永美を説得してみせるよ。

 今度こそ――。


  ☆★☆


 放課後。

 話があるから付き合ってほしい、と言われていた私は、永美の元へと向かった。


 校舎の裏口。そこが、永美に指定された場所だった。


 滅多に人も通らない裏口に雨除けの設備があるはずもなく、悪天候の中、私は傘を差しながら目的地へと向かう。


 そして、ようやく目的地に辿り着いたとき、永美は既にそこに居た。

 だが、彼女の様子はいつもとは違っていて――


 「永美?」


 彼女は傘もささないまま、その場所に立っていた。


 一体何があったというのだろう。

 傘を忘れたのだろうか。

 彼女が? そんなはずはない。

 なら一体、どうして……


 「どうしたの、永美! 傘は……」

 「要らない……そんなもの」

 「え……永美……?」

 彼女は俯いたままだった。


 「私に傘なんて必要ない……そんなもの、邪魔なだけだから」

 彼女から、いつもの覇気が感じられなかった。


 「何言ってるの、永美?」

 「…………」


 彼女は黙ったままだった。


 「と、とにかく、風邪ひいちゃうから! 私のに入ろ、ね?」

 「…………」


 明かにおかしい。いつもの永美じゃない。

 とりあえず私の傘を差しだすと、永美は小さく呟いた。


 「そう……ありがとう、未玖」

 彼女は静かに言葉を続けた。

 「ちょっと、着いてきてくれる? そこで話をしよう」


 彼女は笑っていた。

 久しぶりに見た彼女の笑顔。


 でも、彼女が私に向けたその笑顔は昔とはまるで違くて、

 私はただひたすら――嫌な予感がするのに、気がつかないふりをしていた。



 裏口から学校を出て、人通りのない通りを永美についていく。

 学校の表側とは全く雰囲気の違う静かな通りには、人の気配が全くなくて、何だか寒気がするのを感じた。


 すっかり日も暮れた放課後。

 山道のように暗い道を、無言の永美の背中を追いながら、歩いていく。

 次第に違和感が募っていった。


 「永美……? どうしてこんなところを……?」


 彼女の返事はない。

 ますます、私の嫌な予感が増していく。

 私達を包み込む静かな空間に、雨音だけが響く。

 雨の日独特の生暖かい風が、不気味に感じられた。


 黙々と歩いていく永美。

 しかしその瞬間、彼女がふいに振り返って私に言った。


 「ここでいいよ。ちょうど……人もいないし」

 「永美……?」

 「じゃあ……早速、本題に入ろっか」


 彼女は傘の下でうつむいていた顔を上げる。

 私が傘を持つ手を少し上にあげると、彼女は小さく呟いた。


 「未玖はさ――今まで何人、殺してきたの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ