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wink killer  作者: 優月 朔風
第5章 友達
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第39話 義務

 すっかり日も暮れ、風が季節に合わぬ生暖かい風を運んでいる。

 マンションの外は車の往来の一つもなく、部屋の中を異常な程の静寂が包み込んでいた。


 明かりのない暗い部屋の中で私は一人、ベッドの上に座っていた。


 父が今日事情聴取をしている。

 でも――そんなことを何度繰り返したって、結果は変わらない。


 《あの子を逮捕することはできないんだ。警察では、証拠を掴むことができない》

 あいつが犯人だという証拠が掴めない限り、私達はあいつを「連続殺人犯」として罰することはできないのだ。


 《何……演技してるの……?》

 《演技じゃないよ? 永美》


 あいつは――私達の前で、ずっと「お人好し」の未玖を演じ続けてきた。

 そんなあいつが、警戒している相手に対してそう簡単に自白をするとは思えない。


 だから――私がやるしかない。


 もはや意味のない事情聴取も、これで最後になる。

 私は殺人を行おうとする者を未然に殺害し、これから起こり得るであろう様々な悲劇を防いだ、正義の救世主となる。


 ……これしか、方法はないんだ。


 《あなたのような駒がいてくれるから、私はこのゲームをよりたのしむことができるの》


 あいつを生かしておいてはいけないんだ。

 あいつがやっているのはゲーム感覚の人殺し。

 そんな人間を生かしておいて何のためになる?


 ……殺してしまわなければならない。


 《あんたは……人の命を何だと思ってるんだ……!》

 《別に……何とも思ってないけど?》


 私を真っ直ぐにとらえる、「連続殺人犯」の濁った瞳が脳裏に浮かび、両手が震え出した。


 (私も――殺されるかもしれない)


 吐き気のするような恐怖が、私の全身を覆う。

 私は震える両手を必死に抑え込み、ゴクリと唾を呑んだ。


 ――覚悟を、決めなければ。


 だって――あいつを止めることができる人間は、私しかいないのだから。


 警察では、証拠を掴むことができない。

 でも、私なら――油断させて自白させることができるかもしれない。


 この殺人鬼を止めることができるのは、もはや私しかいないのだ。

 そのためなら、私はやってみせる。

 ――やるしか、ないのだ。


 《私は、永美の友達だから》


 やめろ。

 違う……あんたの言うことは全部嘘だ。

 ならない……そう、これは義務……。

 何故なら、あいつは……。


 《俺は、あの子のところに行くんだ》


 堀口君はあいつに利用されて、殺された。

 あいつは私から彼を奪い、彼を弄んだ。

 私の苦しむ姿を見るために、そのゲームの一環として彼は殺された。


 左の掌に握りしめたキーホルダーを眺めて、涙が零れ落ちて止まらなかった。

 彼からもらった、たった一つのプレゼントだった。

 私に残された、彼との唯一のつながり。


 あいつを許してはいけない。

 あいつは、私から大切なものを奪った人間……

 他人の命を何とも思わない、そんなクズみたいな人間……


 警察にできないのなら、私がやるしかない。

 私が諸悪の根源を排除することで救われる人が、必ず居るはずだから。


 明かりのない部屋で私は一人、声にならない泣き声を上げ、

 堪えきれない怒りで震えながら、拳を強く握りしめた。

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