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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第二章 それは剣戟の響き
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第三十七話 ――燃える『三眼』――

 意識を取り戻した俺の眼前には、お姉さんが居た。

 金の長髪に、メガネをした、日本人離れした――まぁ、簡単に言えば美形って奴だ。

「意外ですね。久留場さんに打ち勝つとは、思いませんでしたよ」

「そう言えば、朝からの付き合いだったな、お姉さんとは」


 立ち上がる俺。既に《バーレイグ》は臨戦態勢をとって居る。頼れる相棒だ。

『有悟、奴は『神格』だ――それも『流星群』と関係のない』

 だろうな。そうでなくては説明が付かない。

「結局、『誰』なんだ、アンタ」

「そうですねぇ、『久留場さんの部下』(貴方の敵)『綺麗なお姉さん』(貴方の味方)、好きに選んで頂いて結構ですよ?」


『全部の黒幕』(世界の敵)だろ」

「つまらないなぁ、そんな簡単な答えで、満足かい?」

『黙れ、貴様からは嫌いな匂いがする。良く知った匂いだ』

 そう言い、『槍』を向ける《バーレイグ》。良く知った匂いってのはよくわからないが、嫌な匂いってのはわかる気がする。


「有悟さん、『真名開放』を今行えば、死にますよ?」

 指差しながら、俺に釘を刺す『世界の敵』(お姉さん)

「オーディンさん、その『グングニール』を使うのでしたら、どちらかが盲目状態(光を失う事)になりますよ?」

 《バーレイグ》を指差しながら、嘲笑う。


「さて、問題です。この状態で、私に勝てる確率は幾つでしょう?」


「そんなものは決まってる!」

 たとえどれだけ絶望的な状況だとしても、可能性は残されている。俺と、《バーレイグ》ならばそれは確実だ。


 《バーレイグ》の『槍』が振るわれる。『真名』を一度でも開放された為か、その速さ、威力は段違いだ。並の神格であれば、『真名』を開放されて居ようが、【逸神(Trance)導態】(formation)とか言う状態で在っても致命傷は免れない。


「まぁ、簡単ですよねぇ」


――しかし、そんな一撃を、彼女は人差し指と中指の二指で止めてみせた。


「答えは0ですもの」


 軽く、冗談めかして、その手を振るう。叩く振りのような、そんな素振り。それだけで、《バーレイグ》が頭を中心に、360°(大回転)



「まぁ、今は貴方達を殺す気も、打ち倒すつもりもありません。まだ、『流星群』(ゲーム)は終わって居ませんからね」

「ゲームだって、この惨状がゲームだって言うのかよ!?」


「そうですよ――だって面白いでしょう?」


 彼女は屈託のない笑みを浮かべ、答えた。


「貴方のように、何の取り柄もない妄想癖の強い少年が、『グングニール』と『オーディン』に選ばれ、突如世界最強ランクの力を得る」

 半笑いで言葉を続ける。

「『オーディン』はカワイイ女の子――になったのはついさっきですが。そうして、貴方と共にある」

 もう堪え切れないと言った表情で、お腹を抱える。

「そして、神や悪魔の力を得た人間たちが、欲望のままにその力を振るう」

――直後、壁が弾け、人影が。


「前々から殺してやろうと思ってたんだよ!!」

「やってみろよザコ野郎!!」

 サラリーマン風の男二人。その後ろに、オドロオドロしいデザインの『神格』を浮かび上がらせながら、殺し合いをしている。


「パパ! これでずっと一緒だよ!」

 奥には、『神格』から借り受けたであろう、武器を持ち、女――恐らくは、自身の母親を殺す少女の姿が。その横で、ただ、頷くだけの父親を支える『神格』も何処か虚ろな眼をしている。


「欲望は素晴らしい。全ての始発点(スタート)であり。終着点(ゴール)に至る為の起爆剤でもある」


 人々が殺し合う。誰かを害し、誰かを傷つけ、誰かが不幸になる。


「誰かが不幸になりました。だからきっと誰かは幸せです。つまりは問題ないんですよ有悟さん」

「何が……」

「貴方は皆さんを救おうとしていましたが、駄目ですよ。そんな事したら、多くの人が不幸になります。だって、救われた人は幸せになってしまうんですから」

 彼女は、スキップで俺の前に、立ち、また一振り。360°(大回転)。故に、身体が言う事を聞かない。



「死んだほうが人の為になる人間は、沢山いるんですよ」


 一人の男の首根っこを捕まえて、地面に叩きつけ、その頭を踏む。

「例えば、彼。いい顔しいの癖に、自分より弱いと見た相手には何処までも強く当たる。そのせいで、どれだけの人間に恨まれているか。愛されるよりも強く恨まれて居ます」

――だから、殺しますね。そう言い、潰す。


 彼女の右手には、女性の首が掴まれていた。

「例えば、彼女。良妻で通って居ますがね、旦那さんを愛しては居ません。彼女の子供は、別の男との子供です。今の旦那にはお金さえ貰えればと思っています。旦那さんの家族を不幸にしています」

――だから、死んだほうが皆の為です。そう言い、千切った。


 彼女の左手、子供が抱きかかえられて居る。

「例えば、この子。こんな良い子みたいな顔して、何人もの人から、お金をスっています。こんな小さい子なのに、薬のバイヤーで、沢山の人を底なし沼(薬物中毒)に落として来ました」

――だから、生きていてはいけないんです。そう言い、心臓を抉り出した。


「さて、私の行動で、3人死にました。ですが救われた人間は数知れず、ですよ?」

「それでも、お前は間違っている」

「そうですか。まぁ、良いですよ、どうせ今殺したのは――」


「俺だ」

 彼女の顔が、潰れたトマトのように砕けた男性の頭に変わる。

「私ね」

 彼女の顔が、青ざめ、千切れた女性の顔に変わる。

「僕だよ」

 彼女の顔が、心の臓を奪われ、血に染まった少年の顔に変わる。


「つまりは――私なんですよ、このゲームの参加者は」

 笑う、彼女の顔。先程までの金髪の女性の顔に戻る。

――戻っている筈なのに、彼女の顔には、燃える三眼が浮かんで見えた。



 そして、俺の眼が、燃えるのを感じる。失った眼孔から、炎が上がる。残った眼球から、光が放たれる。額が熱い。触れずともわかる。コレも眼だ。


『貴方』()も、『私』(貴方)なんですよ」



お前達(俺達)は、同じ、『Nyarlathotep』と言うことか」



 目の前に、広がる、人々の殺し合い。全ての人のその顔に、燃える三眼が浮かんでいた。



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