表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第二章 それは剣戟の響き
PR
37/58

第三十六話 ――彼の『名』――戦いの神

 無垢な純白色のその髪、黄金のその瞳は欲望に燃える。

「……そうだろう、それがお前の名前だ」

 自分の胸の内に、抱きとめられる彼。その見た目その物は、最初に会った時と変わりはない。つばの広い三角帽子、黒のローブ。想像上(イメージ)の魔法使いその物だ。しかし、黄金に輝く『槍』。存在感、形状、全てが圧倒的に違う。機械音を立てながら、その『槍』は眩いばかりの輝きを放つ。


「そうだな、間違いない。『槍』が起動している、これが何よりの証拠だ」

 『真名』の開放により、四肢を取り戻した《バーレイグ》は、嬉しそうにその『槍』を握る。

「さて、もう一度呼んではくれぬか? 子が親を呼ぶように、妻が夫を呼ぶように」



――隻眼に、白の長髪。煌めく『神槍』。遍く知識を渇望する。

『焔の眼』(バーレイグ)『滅ぼす者』(ヴィズル)『槍を持つ者』(スヴィズル)。汝の名は」





「――『オーディン』」




「そうだ。『オーディン』。我は汝に知恵を授け、勝利を与える者」


「そして、汝と婚姻(エンゲージ)を結ぶ者」

「さっきは、こんな『契約/呪い』(エンゲージ)は解約しろと叫んでた癖に、な」

 俺の言葉を受けて、鼻で笑う彼、いや――

「条件が変われば、答えも変わる。そうであろう?」

 指先から、青白い光が放たれ、象形文字を形作る。ルーン魔術だ。それを自らに、刻み込むとすぐさま変化――は見られない。


「これならば、なお嬉しかろう?」

 俺の手を取り、触らせる――男であれば、あるべき物が無い。魔法(マジ)でやりやがったコイツ……。


「はッ、『真名』を得れば勝てるとでも?」

 支郎は笑う。真逆、ここまでの三下台詞を吐かれるとは、驚きだ。

 《オーディン》が俺に『槍』を向ける。そうして、幾つかのルーンを描くと、ニヤリと笑ってみせる。今まで以上に、惹かれる笑みだ。

「さて、あの調子付いた三下を、懲らしめて来るがよい」

 俺は、その言葉に頷くと、支郎に向かい、進む。

「何だ、気でも触れたか? 神でも無く、貴様が戦おうと言うのか?」

 彼の周囲の空間が、歪み、今一度、《時の氏神デウス・エクス・マキナ》がその姿を表す。


 だが、関係は無い。俺は真っ直ぐ、確りと、地面を踏みしめ、支郎の前に立ち――その顔面を殴ってやった。


「なっ……!?」

 支郎の顔から笑みが消える。奴の口から流れる血――効いてる(殺せる)ようだ。


「『第四(Fourth)障壁( wall)』、それが何をされようと、傷一つ付かなかった理由であろう?」

 『真名』を得たことにより、《オーディン》に最初に開放された力が、この 『全知の座』(フリズスキャールヴ)。知りたいこと全てを知れる、そう言う階位に押し上げられている。


「ようは、『全知の座』(フリズスキャールヴ)の相互互換か」

 『第四(Fourth)障壁( wall)』は不可視不可侵(アンタッチャブル)の概念的な壁だ。使用者は多くの知識を無理矢理落とし(ダウン)込まれる(ロード)。まぁ、簡単に言えば攻略wiki()を見ながら()デバックモード(全能)と言う状態だ。ただし、得られる情報は推測に近く、取捨選択も出来ない。全能も、自分の支配領域(第四障壁)の中だけ。


「否――有悟よ、間違えるでない。下位互換(我らが上)だ」

 そう言い、笑う《オーディン》。

『第四障壁』(その玩具)は、物語(ストーリー)を優先する。我が『槍』の持つ逸話(ストーリー)、「槍を向けられ(必勝)た者は勝利する(の槍)」を、奴は自ら再現しようとしている」

 どうやらこっちのwiki(『全知の座』)は攻略法もバッチリ教えてくれるようだ。


「wikiだの、デバックモードだの、ガキ臭ぇ事考えてんじゃねぇぞ!!」

 支郎が俺を殴る。痛ぇ。ルーン魔術が無意味かよ。

「すまん、遠距離無効(矢止のルーン)魔法反射(呪返しのルーン)武器無効(敵のルーン)即死無効(盾のルーン)では、ステゴロは防げん」

「テメェが何だって『世界の中心』なんだよ!!」

 だいたい、わかってしまった。コイツの言うことが。

「貴様の『第四(Fourth)障壁( wall)』、情報源が、有悟なのであろう」

「そうだ、コイツの考えが流し込まれるんだよ。延々とな」

 俺は全力で殴る。それを返すように支郎も殴る。何が悲しくて、神の力を借りた人間同士、戦いの手段が殴り合いなのだろうか。

「貴様が素直に死ねば良いだろうッ! 殴り合いが嫌ならなッ!」

「死ぬほうが嫌に決まってんだろッ!!」


 痛みは大きい。だが、殴り合いは長くは続かなかった。

「ッ!?」

――拳が届かない。


「使いたくなかった。貴様を殺せる確信も無しに、コレをバラし(手の内を明かし)たくなかった」

 彼の身体を包むように、歯車が、木目調の外殻が、鎧を形成する。

「――【逸神(Trance)導態】( formation)

 全身が、鎧に包まれた支郎は、俺を殴ろうとして――《オーディン》が間に入る。『槍』を持って、防ごうとするが、俺ごと吹き飛ばされる。


「――自分を媒介に、召喚を行う、か」

 《オーディン》が呟く。『全知の座』(フリズスキャールヴ)のおかげで、だいたいわかる。内宇宙(ミクロコスモス)内を神格で埋めて、『人=神』(どっちつかず)に変換する技だ。神なら、逸話により、弱点が存在し、過去の勝敗を覆せない。だが、人間であれば、変化の可能性がある。勝ち得ぬ相手に、打ち勝てるかもしれない。そしてなにより、あの状態ならただの人間よりも丈夫だ。


魔倣士(ミミクリーメイガス)は、神格を無視して、契約者を殺せばそれで終わりだ。だから、編み出した。身を守る術として」

 だが、と支郎は言葉を続ける。

「攻めの手段としても、これは悪く無い」

 いつの間にか、俺達の後ろに居た士郎がまた、俺達を殴る(それよりも先に)――《オーディン》が全力で『槍』を振るう。吹き飛ぶ、支郎。しかし、無傷だ。


 まるで、人間大の《時の氏神デウス・エクス・マキナ》だ。大きさが小さい分、密度が高い。速い、硬い、強い、だ。


「チッ……。外宇宙と、内宇宙の狭間に第四障壁を置くか」

 外部から干渉できない位置に存在する、無敵の障壁――つまり、傷付ける事能わず(Immortal)


「思ったよりは、調子が良い。君達のwikiでも、今の私の攻略法は出ないようだな」

 俺は、ちらりと横目で『オーディン』を見る。彼女の瞳が告げる――手はある。


「『真名』が開放されただけの神格相手に、ソコまで手が必要か」

 小さい奴め、と一言文句を言ってやろうかと思ったが、思った時点で伝わっているので、コレ以上は不要だ。

「ふん、手があるか。やって見給え」

 ほらな。


「『真名』の開放により、得られるのは神格の励起だけではない――むしろ、こちらが本命だ」

「テメェの言った事だろう? ”王の”『槍』だ」


 機械音を唸らせる『槍』。その穂先が、開く。そこには、水面があった。深く、澄んだ泉が、その内に存在している――ミーミルの泉、対価により、知恵を与える。

「――ッ!? 対価()強請る(のぞむ)かッ!」

 答えは分かってる。俺は、自らの左目を抉り出す。ルーンのおかげか、怖いほど痛みはない。

「ほらよ、さっさと決めるぞ」

「――有悟ッ!? お主何をしているのか、わかっているのか!?」

 わかってるさ、そんなこと。

「残った眼入れたら、何も見えねぇだろお前は。全知(フリズスキャールヴ)に相乗りしたんだ、駄賃は払うさ」


「お主と言う奴は……。わかった、目にもの見せてくれようぞッ!」

 彼女は穂先を、俺の前に置く。俺は、その穂先、その中に存在する泉の中に、自らの眼を入れた。


 けたたましい駆動音を上げながら、黄金が更に輝き、光が『槍』を更に巨大な姿に変える。


二次(Second)励起状態(Ignition)ッ! 導けッ! ――『剣戟の響き』(グングニル)ッ!!」


 それは、巨大な槍だった。大剣かと、勘違いするほどに肥大化した光の穂先。その中心部分は、黄金で出来た機械のようで、演算、駆動を続けている。

 それを持つ、《オーディン》の姿もまた、変わっていた。黄金色の鎧を纏う、高貴なる戦神。銀の長髪が、槍より放たれる光と風により、更に輝きを魅せる。スラリと伸びた肢体。鎧の内からでもわかる、女性らしい身体付き。美しき女神が、そこに居た。


「なるほど、『グングニル』にミーミルの泉が「Syncretism(混ぜられ)」、我と戦女神(ヴァルキリー)が「syncretism(混ぜられたか)」」


御主人(契約者)の影響かのう? こういうの、好きかえ?」

 そう言い、笑顔を向ける《オーディン》。

――俺は、彼女を綺麗だと思った。



「イチャついてんじゃねぇぞ!!」


 支郎が迫る。しかし、恐怖は無い。俺には勝利の女神(オーディン)が付いているのだから。


 《オーディン》が『グングニル』を振るう。支郎の姿は変わらず、傷一つ無い。だが――

「あ……あぁ……!?」

 ぶらりと、振り上げた右腕が落ちる。

「我が槍は決して射損なう事は無い。例え、この世界にあらずとも、な」


 そう言い、大きく振りかぶり、グングニルを――投げた。




「逃げたか」

「アイツにとっては、逃げることが負けだったようだのう」


 プライドが高いってのも面倒だな。グングニルは確実に、奴の心臓を貫いたが、死と言う敗北を与える事は叶わなかった。《オーディン》の言うには、第四障壁の物語優先により、逃げるという敗北に結果を書き換えて、逃げたとの事。今の俺には良くわからん。


 既に『槍』は、、一次励起状態に戻っており。その担い手も背丈の小さい、子供のような姿に戻っている。《バーレイグ》の頭に手をやる。そうすると、嬉しそうに俺の手に頭を押し付けてくる彼女? 彼? 俺はコイツの頭を撫でつつ言葉を掛ける。


「《バーレイグ》……今の俺達なら、助けられるか?」

「ここまでの被害者は救えん。だが、これ以上傷付く人間を増やす必要もあるまい」

 つまりは、出来ると言うころだろう。今更になって痛みだした左目を抑えながら、俺はしゃがみ込む。否、立っては居られなかった。


「無理をするな。お主は初めての戦いで、気が高ぶっていただけのこと。終われば、そうなるだろう」

 段々と意識が薄れていく。


「今は、しばし休め。我が愛しの御主人(契約者)よ」


 その言葉を最後に、俺は意識を手放した。




「クソッ……」

 溜息と共に、悪態を吐く支郎。彼は、ぷらりと皮一枚で繋がった右腕を振り回し、寄り添う少女に叩き付ける。血塗れの姿、銀の長髪、黄金の瞳――その姿は、《バーレイグ》に瓜二つだった。異なるのは、両の目が有る事、身に纏うのが純白のペプロス一枚と言うこの二点程度のものだ。


「無様だな、我が主(マイロード)

「黙っていろ。舞台装置如きが、私に口出しするんじゃない」

 そう言い、残った左腕で頭を抑える支郎。右腕、胸元から止まらぬ出血。それをただ少女は舐め続ける。少しずつ、少しずつ、その傷は癒えてゆく。


「あの小僧、気を失ったな。どうだ、聞こえるだろう『奴ら』の声が」

「お陰様でな」

「そう、睨むな。布石は打った。この負けに意味はある」

「――『有悟の強化』、確かに覚醒は促した。だがあの程度の神格で『奴ら』に勝てるものか」

「アレも『手』の一つだ。『奴ら』相手に、一人で勝てるわけがないだろう」


「なに、今に揃う。永劫神族(アイオーン)に挑む刃が、周回世界に終わりをもたらす者達が」


 少女は、笑った。まるで出来の悪い人形のように、不気味に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ