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始まりの妖育師《フェアリー・テイマー》  作者: 吉寺 真
第二章 それは剣戟の響き
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第三十四話 ――隠されていた『真実』――


 ガタガタと大きな揺れが一つ。それを過ぎると、周囲の様子が一変する。

「なんだ、コレ……」


 眼前に広がるのは、狭苦しさを感じさせる航空機内ではなく、海と砂浜だった。振り返るが、そこには石造りの建造物がそびえるばかり。

『……なるほど、これは』

 ニマニマと、笑みを隠そうとするが、隠しきれていない様子で《バーレイグ》は言う。短い付き合いだが、こういう場合はどう言ってやれば喜ぶのか、少しだがわかって来た。

「なぁ、これは一体何が起こっているんだ?」

『知りたいか!』

 声色が明るい。声量も大きい。つまりは、語りたくて堪らない、と言う事だ。

「出来れば、教えて欲しい」

『良かろう、今の我は機嫌が良い、タダで教えてやろう』


 見ればわかるほどに、機嫌が良い。瞳はキラキラと輝きを増し、こちらを見つめてくる。少し、気恥ずかしさがある。

『召喚だ、『流星群』によるな』

「その結果がこの島か? 召喚というよりは、転移だとか、幻術にでも掛けれてるような気分だが……」

 足元の砂を一握りし、手を開く。さらさらと、こぼれ落ちる。

『召喚よ、これは《アトランティス大陸》だ』


「……は?」


 何を言っているのか、そんな気持ちで《バーレイグ》を見るが、フフンと鼻を鳴らし悲しくなるほど薄いその胸を張るだけ。

『我ら『神々』(悪魔)の力は弱い。言うなれば、伝承に残る我らの影だけが、存在の全てとなっているからな』

 腕を組み、むふーと偉そうに語る《バーレイグ》。

『それはつまり、伝承さえあれば、我らと同じ。存在しないが、存在する、概念的信仰対象まれびととなりうるのだ』

 あー、つまりは。

「つまり、これは、神格《アトランティス大陸》って事か?」

『それが最初かのう、他の神格の放つ力場の影響を受けたのだろう。これは間違いなく、《アトランティス大陸》そのものだ』

「はぁ……」


『わからんか!? かつての《アトランティス大陸》は、今この『流星群』に呼ばれてしまったからこそ、歴史から消滅したと言うことだぞ!? 知識欲が駆り立てられんのか!? かつての彼らの生活、文化、信仰もそうだ! 消えていった情報が、ここには現実として存在している! 興奮せぬか!?』

 そう言い、泣きそうな顔で、こちらを責める《バーレイグ》。真っ赤に染まったその顔に、表情。確かに――

「――確かに、興奮、する……」

 顔が赤くなるのがわかる。あー、ちょっと、こういうのだめだ。



『そうだろう! そうだろう!』

 俺の一言を聞き、ぱぁっと明るい表情に変わる。

『既に、ココは異界と化している。今の我の力では脱出は出来ん。しかし、時が来ればこれは消えてしまうだろう。そのために、時間を潰そう。しかし、どのようにして時間を潰すかのぉ――』

 早口で、まくし立てる。本当に言いたい台詞が見えてきた。しかし、それを言うのは恥ずかしいのだろう。

「そうか、なら『アトランティスを少し、見ていかないか?』」

 だから、代わりに言ってやる。

『ッ!! そうか! そうか! 仕方あるまい、お主がそうまで言うなら、やぶさかではない!』

 そう言い、頬が緩んでいるが、そのことをわざわざ指摘してやる気はない。楽しそうだから、それだけで良いんだ。


「……切り替えよう」

 溜息を吐き、頭を振る。今の俺に出来ることはあまりにも少ない。こんな場に連れてこられてしまった以上は、飛行機の中に居た時よりも、更にだ。


 リズは大丈夫だ。あの歯車は良い触媒に成るはずだ。彼女は良い神と縁を結んでいる。


「目標は、帰ること。リズと一緒に、家に帰る。それ以上は望まない」


 口にして、少しだけ気が軽くなった。それだけのことだ、ならば今はただ楽しめばいい。気をこれ以上張る必要もない。

 

『どうした、早く往くぞ!』

 ぴょんぴょんと跳ねながら、《バーレイグ》が俺を呼ぶ。

「待ってくれよ」

 俺はそれに、置いていかれないように走った。







『素晴らしい時間であった。素晴らしい知識であった』

 満足気に頷く《バーレイグ》。未だ興奮冷めやらぬと言った所で。犬のように尻尾があれば、千切れそうなほど振っているであろう。

「そうだな、凄かった」

 小学生みたいな感想になるが、仕方ない。なにせ、俺は《バーレイグ》しか見えていなかったのだ。語ってくれれば、返せる程度には覚えているが、自分の脳裏に映るのは、嬉しそうに走り回る《バーレイグ》だけ。


(随分と、惚れ込んでるな……)

 自分の事だというのに、何処か他人事のように思う。


『多くを知る、多くを学ぶ。堪らない物があるのう』

「随分と貪欲に知りたがるもんだ」

『かつての『名』はわからぬが、自分の本質はそう変わるものではあるまい?』

 つまりは、知識欲の深い神性であったと言う事か。


「しかし、知りたいだけか」

『と、言うと?』

「知識として得ても、体感として得ていなけりゃ、意味が無いんじゃないか?」

 これは父の言葉だが、真理だと思って居る。『知る』とどうしても、わかった気になってしまうが、『体感』が伴ってこその理解だ。


『何が言いたい?』

「知識だけじゃなく、身体を使って体感した方が良いんじゃないか? ってな」

 まぁ、今の俺としては、あまりアトランティスには興味が無い。なので、まだ時間がかかるのなら、その話よりは遊ぼうぜ、と言うところだ。


『ふむ。体感のう……』

 考えこむ《バーレイグ》。俺は、少し眠くなったので、砂場に横になる。夏だからと、半袖で居るが、これだけ日差しが強いと、長袖の方が良かっただろうか。そんなことをぼんやりと考えながら日向ぼっこを楽しむ。


 と、急に冷たい水が、俺の顔を濡らした。


『体感、のう。有悟、こういうのは海らしいかのう?』

 にやりと笑って見せる《バーレイグ》。


 つまりは、コイツが犯人だ。


「やりやがったな!」

 俺は立ち上がると、同じように海に入り、その水を《バーレイグ》に掛ける。

『ハハハ、冷たい、冷たいな! 海とは、遊ぶとはこういう事だったな!』

 夏の太陽が、濡れた《バーレイグ》の銀髪を更に輝かせる。


「あぁ、クソッ!」

 どれだけ時間がたったか。俺は気持ち悪さから、ベッタリと肌に張り付くシャツを脱ぎ捨てた。

『ほう、なるほどのう』

 そう言うと、よいしょよいしょと、来ていたローブを脱ぎ捨てる。

「なっ!?」


 銀の長髪。それだけが、身体を隠している。身に着けている物は、眼帯一つ。スラリとした、陶磁器のような四肢が、あまりにも眩しい。ボディラインは悲しいほどになだらかだが、そこに美がある。


『なに、裸の付き合い、と言う奴であろう? 『知って』は居る。『体感』は無かったがな』

 ニヒルに笑って見せる。一切隠す気の無い《バーレイグ》にどうしても、ドキマギしてしまう。


「か、隠せよ!」

 顔を逸らそうとするが、どうしても、その眼から視線が離せない。少しだけ、羞恥の混じった瞳だった。


『見られたとて、恥ずかしい物ではない。自信はあるでな』


 確かに、そうだろう。その身体は、画になっている。だが、それを見せられる自分が恥ずかしく無いかどうかは、別問題だ。

「だからって!」

『それにのう――』


 胸を張る《バーレイグ》。色々と、見えてしまえば問題のある部分が、なんとかその銀髪で隠れていた部分が、ふわりと、露わになる。


『――男同士、そう隠すこともあるまい』



 俺は、現実に打ちのめされた。


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