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第二十二話 ――三貴神の『一柱』――


 『力』を封じられたサラ、『契約』を無くした俺――牙を抜かれた獣だな。


 俺は一つ溜息を吐くと、物部の後を付いてゆく。


 あの後、車で数時間揺られた。窓等の外部を確認しうる所は全て塞がれ、現在地もわからない。懐を確認したが携帯財布も盗られており散々だった。

 そうして嘆いて居ると、あの二人が先に車を下された。物部が引きずる様にして外へ運ぶ様はなかなか見物だった。それから数十分すると、「付いて来い」と次の順番が回ってきた。


「しかし、こうして会うと、ちょっと恥ずかしいんじゃないのか?」

 物部がこちらを振り返り、悪い顔で言う。俺は苦笑いを浮かべつつも返す。

「……そうだな、正直恥しいわ」

 俺の後ろには七人の美女が居た。大人から子供まで、様々な年代の――俺の家で自殺を『謀』ったあの七人だ。皆、何食わぬ顔で俺達の周りを歩いている。

「人の命を軽く扱う様な奴は許さねぇ、だったかな?」

 そう言い笑う物部。それを受ける俺をサラは可哀想な物を見る目で俺を責める。

「うるせぇ。善人面しやがって」

「顔まっか」「照れてる」「かわいい」「でも」「白の方が」「かわいい」「良い」

 七人が口々に言いたい放題言ってくれる。彼女等の『神格』は確かに低い、しかし足し合わせた場合のそれは物部の三歩後ろを歩く――

「白様。『彼女』までも連れて来るのは、やりすぎでは……?」

――《天羽々斬》。


 物部の手を引き、楽しそうにじゃれる――

「白や、久々に遊んだが、負け越しと言うのは面白くない。また『や』れぬかのぉ?」

――《天叢雲剣》。それらに匹敵する。詰まる所、俺は今かなりの『力』に囲まれている、と言う事だ。


(……精霊だけでもやり様によっては《天羽々斬》、『真名』を解放すれば《天叢雲剣》は処理できる筈。問題はこれらの内二つないしは三つを[効果的/同時]に(上手く)使われた場合だ)

 ノゥのような神ですら、危険のある『毒』(穢れ)に、軽い『神格』ならばその身一つで倒しうる身体能力。危険な相手に相違ない。さらにこうして囲まれて居るのも問題か。


「ユーゴ、大丈夫かな、とって食べられたりしないよね……」

 『力』を失っているからか、おどおどと元気の無いサラの頭を撫でる。これは本格的に不味いかもしれない。


「……僕は『時間稼ぎ』、と言ったね」

 ぼそりと漏らす物部。俺は彼の言葉に耳を傾ける。

「僕の目的。最初は君の契約解除。《天叢雲剣》と共に君と対面した時点で、目的は変更された。君の確保にね」

「何が変わったってんだ? 同じにしか聞こえないが?」

 俺は出来る限り余裕を持って答える。強がりにしか見えないだろうが、仕方ない。

「『契約の解除』では無く、『仲間に引き入れる事』を目的としたのさ。どうだい、大分気が楽になったろう? それに悪い話では無い筈だ」

 成程な、『力』を制御する目途が付いたって所か。だが、なら何故噂の『頂点』なんぞに挨拶参りに行かないとならないのか――

「――スサノオの傘下って事か」

「あぁ、僕達の『組織』は《須佐之男》を含む三貴神――いや、この國の文字通り『頂点』の為に働く『組織』だ。だからこそ、君には《須佐之男》と会って欲しい」


 そう言うと、彼は歩みを止め、俺に向き合う。丁度眼の前には巨大な鳥居が有った。ここが入口か。鳥居の先には石段が続き、その先にはまた鳥居が……。

「というか、ここ俺の家の近くの神社じゃねぇか!?」

「悪いね、流石に君を長く拘束しておく事は僕達の力じゃ不可能なんだ。『場』は設けた、後は『君』と『彼』で決めておくれ」

 物部がそう言うと、《天叢雲剣》と《天羽々斬》がサラを捕まえた。

――逃げればどうなるか。彼女達の眼が言う。成程、完全な善人では無いと。


 石段を昇る。そう古臭さは感じさせない。確か裏にはホテルが有り、この神社の系列だったはずだ。まぁ大分前に倒産して、今じゃ良くわからない結婚式場になってたが。

「逃げてぇ……」

 三つの封印と、サラの『力』が弱まって居る為か、大分『地』が出て来た。だが、ここで逃げだしてアイツを死なせるのも寝覚めが悪い。それも『俺』の『思い』だ。


(テメェが信じられねぇと、我侭言ってこの様だ、最初から信じれば良かった)

 『俺』を――『彼女達』を。

 また溜息が洩れる。ちょうどその位だ、俺が境内に上がったのは。



「やっぱ社殿の所にでも居るのか?」

 そうして辺りを見渡すが、特に誰も居ない。神主さんも、巫女さん(一瞬物部の顔が浮かんでちょっと萎えた)すらもだ。俺は眼の前の大きな建築物へ向かい歩こうとし――


「だーれだ!!」


 その視界を奪われた。


「うぉ!?」

「『魚』? ぶっぶー! ちっがいまーす!」

 俺はその声の主を振り払う様にして身体を揺らすが、びくともしない。どうも背に乗られているようだ。キンキンと甲高い声が耳に痛い。

「わからない? わからない? 降参? 降参?」

「だ、誰だよテメェ!?」

「そう言う『勝負』じゃんっ! チャンスは後二回! さぁ、だーれだっ!?」

 そうして楽しそうな声が未だに聞こえる。俺は疲れ、地に手足を付いた。


(力が強い。敵……ならば首を狙うか、視界を奪うなら眼を潰せば良い。愉快犯?)

 思考を繰り返す。どうも甘いミルクの様な匂いと温かい体温から嫌な予感と言うか、なんか変な感じがするし、長期戦は此方が不利だ――ならば。

「……『こうさん』だ」

「ふふん、降参? なら、我の勝ちじゃん! 我はスサノー!! 我の勝ちだー!」

 俺の目を覆っていたその手を離し、嬉しそうに叫んで居る。視野が開けた俺は、その声の主を見る。


「ふふん、我に勝とうとは十世紀近く……」

「負けてないぞ?」

「えっ!?」

 少女だった。可愛らしい黒のドレスに、白いアクセントとしてのレースが袖口等に付けられ、とても眼を引く服装だ。ゴスロリと言ったか?

 だが、それよりも気になるのは彼女のその顔立ち。日本人離れした、とは言えない、正に日本人らしい顔立ちの筈なのだ――だが、とてもじゃないが同じ日本人とは思えない。部分部分の美しさと調和。幼さやあどけなさの残るその顔付きは、だと言うのにとても美しく、人を魅了する『力』が有った。――『神格』か。鳩が豆鉄砲食らったような顔だと言うのにこうも綺麗なのな。

「負けて無いってどういう事じゃん?」

「『チャンスは二回』なら、後一回チャンスが有るはずだ」

「駄目だよ! さっき降参って言ったじゃん!」

「おやぁおやぁ、俺は『こうさん』とは言ったが、ギブアップの意味じゃないぞ? 『黄さん』かと思ったんだよなぁ、あぁ違って残念だなぁ」

 ニタニタと笑って居るのが自分でもわかる。そして俺の考えと言いたい事がわかったのか、スサノーと名乗った彼女は指を刺し、鼻息荒く叫ぶ。

「ずるっこ! ずるっこ! 汚いじゃんそのやり方!」

「『だーれだ』、答えは『スサノー』、俺の勝ち、だ」

――嫌な予感がするんだよ、『神格』との戦いで迂闊に負けたら面倒臭い事になりそうだって予感が。だから、ちょっと苛めてやりたくなる可愛さだったとかそういう理由では無い。

「はっははは! ばーか! ばーか!」

「うわああああああああん!!!」

 いやぁ、これで何の問題も無く《須佐之男》に会えるなぁ、スサノーとか良いわ、知らん。さぁ《須佐之男》何処ー?

 俺は出来るだけ『その』可能性を見ない様にしながら、境内を見回った。どうも天気が悪い……嵐でも来そうだ。



 結果だけ言うと失敗でしたし、嵐が来て雷落ちました。てへっ。

「はい、『ごめんなさい』は?」

「……ごめんなさい」

 泣き喚くスサノーを慰めながら、俺を叱るサラ。どうやらある程度時間が立ったらサラを連れてくる予定だった様で。ちょっと遠くには物部と剣の御二人、おまけに七人が居た。

「悪いが、そこまで頭が悪いとは思わなかったよ……」

 物部が白い目で俺を見ながら言う。うるせぇ。

「で、コイツが《須佐之男》、で良いんだな」

「……そう言ってるじゃん」

 不機嫌そうに少女、スサノーが言う。……ん?

「《須佐之男》?」

「うん、そうでしょう?」

 サラが言う。多分サラは駄目だな。俺は物部に訊く。

「那須の『須』?」

「佐川の『佐』、之は言わずもがな、だろう?」

『男』()?」

「……恰好については訊かないでくれ」

 目尻を押さえながら物部が言う。あ、泣いてるアイツ。

「ワシの趣味じゃよ」

 そう言い笑う《天叢雲剣》。あ、物部が《天叢雲剣》片手にダッシュで逃げた。

「まぁ良いじゃん。恰好なんて! 可愛ければ問題無いじゃん?」

  今鳴いたカラスがもう笑う。ウィンクとピースで媚びた恰好(ポーズ)を作る《須佐之男》。

「スサちゃん可愛いねっ! ねっ!」

 サラはそう言い、俺に同意を求めてくる。お前それでいいのか。



 俺はこの国のTOPがこんなので、少し泣いた。



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