第二十一話 ――心に科す『枷』――
膝の上に寝かしたサラが目覚める前に、俺にはやらなくちゃならない事が有る。
懐からまた四つの金属片を取り出す。指輪であったそれは既に形を変え、釘の様になっては居るが、その役目は果たせる。
(宝石自体に力が有る、ルビーは間違いなく『火』のエレメントだろう……)
そう考え、先に紅玉の付けられた一本を右手に取り、右足の先に軽く当て――そして走る激痛。ビンゴだ。
俺はハンカチを咥え、歯を食いしばると、その右足の先に力を込め釘を刺し込んだ。
「――ぐッ!?」
声を押さえる為にハンカチを咥えたのは正解だったようだ。サラは未だ目覚めない。時間を置けば決心が揺らぐ。俺は次の釘を左の足へ、その次を左の掌へと打ち込んだ。
そして、俺は傷の痛みと、奇妙な喪失感を最後に気を失った。
「……ゴ! ユーゴ! 起きて!」
身体を揺すられる感覚。俺は何とかその声を聞き、気を取り戻した。
「……サラか」
どうも胸が痛む。更にはくらくらと揺れる様な感覚すらある。と、辺りを見渡し気が付く――車の中だ。あの悪路を進む様な車がこうも直ぐ用意出来たとは……驚きだな。
「ふぁ……良く寝た」
伸びをしつつ、欠伸を一つ。犯罪者を運ぶ車の様に、後方が一つ部屋にされ、鉄格子と防犯ガラスで運転席とは分けられている。前には、運転席と助手席に一人づつ。助手席に座る男は無線機を使い外部と連絡をしている。
窓は無いが、運転席の方から少し見える外には他にも無数の車が有り、護衛の役割をしているのだろう。内から破られようと、外から破られようと、そんな気概を感じる。
まぁサラの『力』ならこの程度――と、彼女を見る。その首元、蒼玉が輝いていた。
「ユーゴ……大丈夫っ!? 本当に心配で!」
「どうした、ソレ」
本当に心配だったのだろう、俺に抱きつく彼女。だが俺からすれば、ソレの方が心配だ。なだめる様にその頭を撫でる。
「ボクが『施した』のです」
凛とした声が響く。俺は驚き、その声のする方を向く。気が付かなかった。外部に気を取られ過ぎたか――それとも、『契約』が弱まって居る事が理由か?
俺は『彼女』を見た。血色の長髪、赫灼たる瞳、人形の様な彼女、ローゼス=ヴァッサーその人だ。作り物の優雅さを取り戻し、大分落ち着いては居るが、その身は幾重もの皮と布で覆われている。
「お久しぶりなのです、ユウゴ」
「……会いたく無かったぜ、正直な」
「ォ、そレは同イデすゥ」
と、また声が。ロゼと同じ様な状態で投げ捨てられているペスト医師の男がそこには居た。
「……って事は真逆」
「あぁ、悪いが今度は僕の『勝ち』だ。」
そう言い、棺を背負う女と見間違うような『男』。物部 白。コイツは他の奴等と違い、処理されて居ない、普通のスーツだ。詰まる所、コイツのプランって事か。
「言ったろう? 僕の役割は『時間稼ぎ』、悪いが此処までが本来のプラン……だったらしい」
「濁しィマスネェ、ドー言ゥ事デ?」
「……今からキミ達四人には、この国の『頂点』の一人と会って貰う」
男の言葉に物部は答える。そして、『頂点』を聞き、ローゼスが慄く。
「『頂点』!? 【BIG3】の一柱と対面しろと言うのですか!?」
「はァイ!?」
二人はどうも知って居る様だが、俺には何のことやら。セラの方を見てみるが、同じ様にきょとんとしている。……コイツに知能系の事は無理か。
「ユーゴ、今失礼な事考えたでしょ?」
「……その『頂点』ってのはどんな奴何だ?」
訊くと、物部が自分の足元を見る。そこには和服を着た小さな少女が寝て居た。物部がその少女を軽く蹴ると、みるみる内にその姿を変え、一振りの剣へと姿を変えた。
「……《彼女》を手にした者、『八岐大蛇を殺した者』だ」




