第二十話 ――『手』段――
俺とサラは下水道の中を確認していた。
「水が全部無くなってるねっ!」
「だが、ヤベェ臭いがする……」
恐らくはシィールの一撃により下水と言う下水全てが電気分解されたのだろう。俺はサラを見る。彼女は体から火花を散らしながら、何処か楽しそうにしている。
――つまり、中は『危険』と言う事だ。
「マンホールの蓋で思い付いたが、やめた方が良さそうだな……」
「えっ? どーして?」
心底不思議そうにするサラを無視し、俺は考える――危険だが、これは『手』だ。
「いや、正々堂々真っすぐと、な。サラも居るし安心だろ?」
「――っ! うんっ! 大丈夫だよっ! ボクに任せて!」
「おう、よしよしサラは頼りになるなぁ」
俺は彼女の頭を撫でる。サラは何処か嬉しそうに体を揺らす。そして飛び散る火花。俺は急いで彼女をマンホールから逃すと、彼女に訊く。
「なぁ、お前その火花漏れるの何とかならねぇ?」
「こ、コレは……っ! ユーゴのえっちっ!!」
――ちょっと待て、お前の体から出てる火花ってそんな類いの話なのかよ!?
顔を赤くし、火花を散らし、フシューフシューと威嚇する彼女を前に、俺はただ謝る事しか出来なかった。
「ねー、こっちで良いの?」
「あぁ、これで正解だ」
俺は携帯電話を使い、確認していた。一つ、あの一撃はどのように扱われて居るか。二つ、近隣の正確な被害。三つ、俺を狙う『敵』の動向。
『――御掛けになった番号は』
精気の無い女性の声が聞こえた瞬間、俺は掛けていた電話を切った。四つ、妹の現状。これだけはわからなかった。
「だが、他は大体わかった。セラ、力を借りるぜ?」
「うんっ! 任せてっ!」
そう言い、元気に笑って見せるセラ。俺は向うから向かって来る男達を見据えた。
一つ、あの一撃はテロとして扱われた。
「投降しろ!! 貴様は包囲されている!」
周囲から声が聞こえる。恐らくは『敵』の人間だろう。四方八方、それも全て『水』に属する『神格』と契約した魔倣士だ。
「ユーゴっ! 相手は全員!」
そうだな、俺は溜息を一つ吐く。
二つ、近隣では電気までもが止まり、上下水道もまともに機能していない。更には瓦礫が酷く、元の道はほぼ見えない。そんな大惨事。
「貴様らに勝利は無い、直ちに投降せよ」
声が聞こえる。勝利を確信した声色――だが俺には滑稽な声にしか聞こえない。
「なぁに、サラ。大丈夫だ、俺達には『手』がある」
三つ、『敵』はほぼ全ての『水』に属する『神格』をこちらに向かわせている。確かに、今の俺が一番弱い。『真名』の解放さえなければ、今こそ殺しの時だ。
「『手』?」
そう言い、両の掌を見つめるサラ。俺はそんな彼女の動作がおかしくて、可愛らしくて。その頭をワシャワシャと撫でると、地面を指差し一言。
「サラ、覚えてるか?」
敵が最大の力で攻めて来た――つまりはこちらにとってもチャンスだ!
「――『下水道』を狙え! そしたら『防御』ッ!」
俺の言葉が終わった丁度その瞬間、サラは地下、マンホールを狙い灼熱の槍が放たれ――そして、轟音が鳴り響く。
どれだけの時間が立ったか、俺の耳が何とか聞こえる様になった頃には、辺りに立っている人影は俺だけになっていた。
――電気分解。水が電気により分解されると水素と酸素へと変わる。そして水素は可燃性、それもかなり反応しやすい。水素の濃度の高い場所で火花が起こればそれこそ大きな問題になる。
「とっさ、ってのが効いたな。他の奴等も防御は出来なかったか」
瓦礫に飲まれ、伸びている『敵』。そう簡単には立ちあがらない事を確認し、俺は溜息を吐く。
「まぁ、『成長』してるってことだな」
こうやって処理されるとは思わなかっただろう。奴等も――
「きゅぅ……」
――サラも。
「はぁ……」
俺は胡坐をかき、膝の上、未だ伸びているサラを寝かせた。
まぁ、急いでもしょうがない。ここは『待て』だ。




