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少女の小さな願い事  作者: Marimo
Side.D
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Side D-6


「院長先生、泣いてるのー?」

集まった子供たちは、手紙を読んでいた院長先生へと駆け寄ります。

院長先生は涙を拭うと笑顔を向け、立ち上がり

「ちょっとお出かけする用事ができたの、みんなにお留守番をお願いしていいかしら」

「うん、いってらっしゃーい」

一度家に入り、昼の支度をしていた女性達に声をかけると家を出て行きました。




よく晴れた日、家から森の中へ続く道は舗装がされていました。

舗装された道を少し外れると、とても綺麗な泉があります。


そしてその泉には一人の青年がいました。


「久しぶりですね……お手紙を読んで頂けたようで」

「……本当に、あれから何年経ったのかしら」

「ずっと軍の保護区になってましたから。あの村に向かいながら調査で分かったことをお話してもいいですか?」

「お願いするわ」


泉から出ると舗装された道には小さめの馬車が用意されていました。

「軍の整備のおかげで、このくらいの馬車なら通れるようになってます、どうぞ」

乗り込んだ馬車はゆっくりと進み、青年は一度外を眺めてから話始めます。


「あの火事の後の調査は難航していましたが1.2年ほどで村人全員の状態が分かりました、ほぼ遺体で見つかっています。……唯一残っていたのは村長と呼ばれていた老人だけです。その方の話によると、元々あの村は信仰の発端となった土地に作られ、古くから災厄には人身御供を持って遠ざけるという伝承があったそうです。元々地図には載っていましたが、村自体は外との接触を極端に避けていました。」


院長先生はゆっくりと頷き、時折外を眺めながら先を促します。


「調査という名目で侵攻してくると思ったのでしょう、それが彼らの言い方でいう災厄でした。元々村の中の女性を人身御供とするものでしたが、そのときはあの小屋に居たイリアが対象となったそうです。イリアが飼っていたというだけでリクも怪我を負ったようです。そして彼女はあの容姿から”魔女”と呼ばれていました」


院長先生は眉を寄せて目元を伏せます。

やがて馬車は少し広い空間の前に止まりました。

木の柵で囲まれたそこは、柔らかな草と花で埋まり広場のようになっています。

二人は降りるとゆっくりと足を踏み入れ、青年は先導します。


「ここが、あの村があった場所です。レックス大尉とともにここの処置を担当しました。少しでも綺麗な状態にしたいと思って」

「とても、綺麗なところね」

広場を少し進むと、院長先生はゆっくりと手を組み祈りを捧げます。

「ここが……あの子の最後の場所ね」

「はい」

「そう……」

しばらく祈りの時間が流れ、院長先生はゆっくりと立ち上がりました。

「ありがとう行きましょう」


二人を乗せた馬車はゆっくりと動きだしました。

「保護区にしたのは、村人が全員亡くなったことや儀式のことを懸念しての事だそうです。ようやく保護解除されたのが本当につい最近です。あれから8年ほど経ってますね」

「……レックスも貴方も色々なことをしてくれたのね、本当にありがとう、私の話も聞いて頂ける?」

「もちろんです」

上り坂を進む馬車の中で、院長先生は息を整えてから話を始めました。

「あの後、どのくらいかしら……長いような短い間ずっと後悔ばかりしていたわ。貴方にあのとき言われた言葉を何度も何度も噛み締めて……それでね、街で一人の孤児と出会ったの。」

ぼんやりと外を眺めながら院長先生は続けます。

「その子は顔の半分に怪我をしていたわ、家に連れて行って治療をして、ご飯を作ったらその子が泣き出してしまってね。泣き止むまで何度も何度も抱きしめてあげたわ。それがきっかけだったのかしら……私は親を失った子や捨てられた子を愛してあげようと思った。」


じっと見つめる青年を見つめ返し

「あの子の代わりにしたんじゃない、あの子が教えてくれたと思っているわ。それからクラリスの協力もあって私はあの家の設立を考えたの、この山の中に。森の中に甘い香りのするお家を建てたくてね」

そこまで話すと院長先生は微笑みます。つられて青年も口元に笑みを浮かべ、

「それがイリアの家……ですね」

「えぇ、たくさんの子供たちの笑顔が満ち溢れているわ」

二人は笑い合いました。

「家の名前をカノンと悩んだのだけれど、カノンという女の子が訪ねてくる物語だったでしょう……?」

「えぇ、そうでしたね」


馬車は止まり、少し坂道を登った先は小さな丘になっていました。

そしてそこには花に囲まれた小さな墓標があります。


「一番近くにあの家を建てたのに、ずっと来れなかったわ」

「ここは……イリアが居た小屋の場所です。ここも焼かれて……でも、きっとここから見える景色はイリアの好きな絵本の世界だったと思うんです」



墓標の前に座り込んだ院長先生は、静かに手を組み涙を流しました。



「……ごめんなさい。ずっとたくさん謝りたかったの。」


……たくさん愛してあげたかった。

一番伝えたかった言葉をずっと言えなかった。


とても簡単な言葉を言えないまま、


イリア

あなたの黒髪はとても素敵で、笑顔も大好きだわ。


ねぇ、届いてくれるかしら。


生まれてきてくれてありがとう。




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