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Herobrave's Hope -英雄たちが遺した希望-  作者: かげ2500
第1章 『プロローグ』

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第1話 救い

 この物語は【追放した元パーティーメンバーが伝説の武器【神器】を手に入れて復讐しに来たんだが!?】に登場する人物に焦点をあてた作品です!

 また、【異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~】の登場人物もちょくちょく出てきます!


 あらかじめ前作をお読みになることで、さらに本作を楽しめると思います!











 エリスは生まれながらの奴隷だった。


 薄暗い檻の中、鉄格子の外に広がるのはただの闇。

 母の腕に抱かれ、父の低い声を聞きながら、彼女の人生はそこから始まった。両親もまた奴隷であり、その身に自由の概念すらない日々を過ごしていた。


 エリスの記憶が形を成す頃、彼女は既にこの環境が異常であることを本能的に悟っていた。


 日の光が届かない冷たい石の床、乾ききった空気、腹を空かせて呻く周囲の囚われ人々。

 その中で、両親だけが彼女にとっての温かさだった。


 数日に一度だけ配られる一切れのパン。その貴重な食料を、父も母も嫌な顔ひとつせずに彼女に与えた。その姿を見て、エリスは幼心に幸せを感じていた。


 だが、その平穏は永遠には続かなかった。

 エリスが九歳を迎えた年、違法な奴隷商人たちが活発に動き出した。


 貧乏貴族たちが大量に奴隷を購入するという恒例の一斉取引の時期が訪れたのだ。

 その日、エリスと両親はある男によって買い取られた。薄暗い牢屋から引きずり出された時、エリスは初めて太陽の光を見た。

 眩しくて目を細めたその瞬間、彼女は心の奥底で自由を知った。しかし、それも束の間だった。


 新しい主人となった男は、貴族の身分を持ちながらも残酷な趣味を抱えていた。


 エリスと母親はその男の屋敷でメイドとして働き始めたが、日々の仕事は決して楽なものではなかった。

 食事も満足に与えられず、労働は過酷だった。それでも両親が一緒にいることでエリスは耐えることができた。


 しかし、ある夜、全てが変わった。

 母が男の部屋に呼び出され、家中に響いたのは母の叫び声だった。掃除をしていたエリスは、心臓が凍る思いでその声を聞きつけ、恐る恐る男の部屋を覗いた。


 目に飛び込んできたのは、床に転がる父の無残な遺体だった。首と胴が分離し、血の海が広がっている。その隣では、母が男と密着しながら涙を流していた。


 当時のエリスには、男と母親の間で行われていることが理解できなかった。

 しかし、父を失った現実と母の泣き顔に、怒りと悲しみが爆発した。


 彼女は涙を浮かべながら、傍の机の上にあったナイフを握りしめ、男に向かって突進した。


「ああぁああああ!!」


 エリスの叫び声は鋭かったが、非力な少女の力では男に傷を与えることはできなかった。

 何度も何度もナイフを突き立てたが、男は笑いながらそれを受け止めた。


 やがて怒りを露わにした男は、エリスの腹に拳を叩き込んだ。その衝撃で彼女は宙を舞い、壁に叩きつけられた。


「折角買ってやったのに。とんだ不良品だ」


 男の冷酷な言葉が耳に届いたが、エリスはすでに意識が遠のいていた。

 腹を殴られた衝撃で内臓が破裂し、彼女は瀕死の状態に陥っていた。薄れる意識の中、最後に見たのは母が男に抗議し、それに逆上した男が母の首を刎ねる光景だった――。



―――。



 目が覚めた時、エリスは再び薄暗い牢屋の中にいた。

 だが、かつての両親はもういない。彼女は叫ぼうとしたが、体を起こそうとした瞬間、腹部に激痛が走った。恐る恐る腹部を見下ろすと、膨らんだ皮膚は赤紫色に変色し、蛆が湧いていた。


「っっっつ!!!!」


 エリスは痛みに耐えきれず、涙を流しながら身をよじった。

 それからの日々、彼女は痛みと衰弱に苦しめられた。腹の傷は癒えるどころか悪化し、食べ物は与えられず、体力は奪われていった。両親を失い、希望を失い、彼女の心には死への渇望だけが残った。


 次第に痛みが引いていく中、エリスはゆっくりと目を閉じた。闇の中で、彼女は両親の姿を追い求めた。それが幻であっても、彼女にとっては救いだった。


 エリスは、死の淵にいた。


 痛みさえ感じなくなり、薄れゆく意識の中で彼女は死を受け入れつつあった。

 両親と再会できるかもしれない、そんな微かな安らぎを胸に抱きながら。


 しかし、その瞬間だった。地面が震え、牢屋の遥か上から轟音が響き渡った。

 埃が舞い、金属の擦れる音が続く。だが、エリスの体はすでに感覚を失いかけており、これが何を意味するのか理解することはできなかった。


 すると、暗闇の中で短い生涯を閉じようとしていた彼女を、突然温かな感覚が包んだ。


 それは生きる希望とは無縁だった彼女にとって、あまりに異質で心地よいものだった。死とはこんなにも穏やかなものなのか、そう思いながらも、エリスは薄れた意識の中でそれを享受していた――。


 ――耳に声が届いた。


 低くも優しい若い男の声。

 その周囲には、さらに複数の女性たちの声が交じり合う。彼らの言葉はエリスには理解できなかった。

 奴隷として育てられた彼女は、文字も言葉も教えられずに生きてきたのだ。


 それでも、その声のトーンに、彼女は安らぎを覚えた。


 恐る恐る目を開くと、そこには柔らかな表情を浮かべた若い男がいた。

 男の手はエリスの体に触れ、何か不思議な輝きを放っている。その背後には、涙を浮かべながら笑みを交わす女性たちの姿があった。


「……! やっと起きてくれた! よかったぁ、俺の治癒魔法が効いてないのかと思ったよ!」


 男はそう言うと、安堵の表情を浮かべながらエリスをそっと抱き上げた。


 エリスは混乱しながらも、自分の腹部を確認した。

 信じられないことに、深く腐り蛆が湧いていた傷は完全に癒え、肌は元の滑らかさを取り戻していた

 空腹感も消え去っており、体の中に久しく感じていなかった力が湧いてくる。


 しかし、その男の表情が一変する。瞳には怒りが宿り、口元が硬く結ばれた。


「やっぱり、あいつらは許せないな」


 男が言うと、女性たちもその言葉に同調するように険しい表情を見せた。エリスはそれを理解する術を持たなかったが、自分を抱く男の背中にしがみつくと、そこから感じる温かさと安心感に身を委ねた。


 男たちはエリスを抱えたまま、地下牢から脱出すると、ある部屋へと歩みを進めた。

 エリスにとって、それは忌まわしい記憶が蘇る場所だった。父と母が命を奪われた、貴族の男の部屋。


 エリスはその道のりに見覚えがあり、恐怖に震えた。


 部屋の扉を勢いよく開けると、中には貴族の男が怯えた様子で縮こまっていた。


「ひぃい! え、英雄様! い、一体何のご用でしょうか! もう奴隷はいませんよ!」


 男の取り繕うような言葉に、抱きかかえられたエリスの心臓が高鳴る。しかし、その言葉は一瞬で打ち砕かれた。一人の女性が無言のまま杖を振るうと、杖の先から出てきた光る何かが男の両手を切り落としたのだ。


「ぐぅぎゃあああ!」


 貴族の男は痛みに悲鳴を上げ、床を転げ回る。


「この屋敷の地下からこの子が見つかった。奴隷はいないと言うなら……彼女は何だ? なぜ瀕死だった? なぜ奴隷の紋様が背中にある?」


 エリスを抱きかかえていた男は冷酷な声で問い詰めた。その瞳には、怒りと決意が宿っていた。


 貴族の男は言い訳をしようと口を開いたが、言葉を紡ぐ前に見えない力で押し潰され、肉塊と化した。

 その一部始終を見て、エリスは一瞬恐怖に包まれたが、抱きかかえる男の優しい表情に触れ、再び心を落ち着けた。


「よし、それじゃあここを焼き払おう」


 男は軽い調子で言うと、手のひらに大きな火の玉を生み出し、それを部屋の中へ投げ入れた。火は瞬く間に広がり、死体と共に貴族の部屋を炎で包み込む。

屋敷全体が燃え盛り、崩壊していく様子を、エリスたちは外で静かに見守った。


「君の名前は?」


 炎の光に照らされた男の優しい瞳がエリスを見つめる。

 しかし、その言葉の意味は分からない。エリスは首をかしげた。


 それを見た女性の一人が口を開く。


「たぶんこの子、言葉が分からないんじゃない?」


 男は驚きながらも、身振り手振りを交えて話しかけた。


「俺の、名前は、ガイル。君の、名前は?」


 その問いかけに、エリスは一瞬戸惑ったが、自分の知る唯一の言葉を口にした。


「え、りす」


 ガイルは大きく頷き、満面の笑みを浮かべた。


「エリス! 良い名前だ!」


 その日、死の淵にいた少女エリスは『英雄』と呼ばれる男――ガイルに救われ、新たな人生への一歩を踏み出すこととなった。

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