第49話
初めてではないのだから、身体的にも気持ち的にも少しは余裕があるだろうと思った。
でも全然、そんなことはなくて。
(やっぱり、めちゃくちゃ恥ずかしい……!)
前回は月明かりだけだった。今回は部屋の灯りもあって、より相手のことがはっきりと見える。
改めて間近で見るリューは本当に綺麗に整った顔をしていて、身体は無駄なく引き締まっていて、そんな完璧な人の前で自分の全てをさらけ出しているのだ。恥ずかしくないわけがない。
「――っ、リュー、それ嫌です」
じゅっと音を立てて首筋にキスを落とされて、慌てて手でガードする。
すると彼は不満そうに眉をしかめた。
「その、痕が付いて恥ずかしいので……」
先日付けられた痕、キスマークは結局消えるまでに数日かかった。
その間ずっとローサが気を利かせて首元を隠すドレスを選んでくれていたのだ。
それを知ったときの恥ずかしさと言ったら……。
「わざと付けているんだ」
「え?」
首筋をガードしていた手を取られて、その手のひらのすぐ下、皮膚の薄い部分に強く口づけられる。
ぴりっとした小さな痛みと共に赤い痕がくっきりと付く。
「これは、コハルが俺のものだという証だ」
「……っ」
竜の瞳に見下ろされてぞくりとする。
「……リュー、まだ怒ってます?」
なんとなく、そこはかとない怒気を感じて訊くと、彼はスっと目を細めた。
「コハルに怒っているわけじゃない。このタイミングで動き出した魔族と砂漠の国の連中に腹が立っているだけだ」
「それ、は……っ」
やっぱり怒ってるんじゃないかと続けようとして、今度は鎖骨の下あたりを強く吸われてびくりと身体が震えてしまう。
……彼の怒りはわかる。
私だって、こんな事態にならなければこの城でやりたいことが色々とあったのだ。
文字も早く覚えたいし、竜帝妃になるための勉強もしたい。
それに……。
「!」
私は彼の首に手を回して、その首筋に強く吸いついた。
「――っ、コハル?」
「お返しです」
リューの首筋に小さく付いた赤い“証”に満足して、私は彼を睨め上げる。
「離れて寂しいのはリューだけじゃないです」
私だって不安がないわけじゃない。本音を言えば、リューに一緒に来て欲しい。
でもリューはこの国のトップで、万が一にも何かあってはならない存在で。
だから、一緒に来て欲しいなんて言えない。……言ってはいけないのだとわかっている。
――と、
はぁ~、と呆れたような長い溜息が降ってきて、そこで私はハっとする。
そうだ。リューはこの国のトップで、人前に立つことが多い。
そんな彼にこんな分かりやすいキスマークを付けてしまった。
おそらく位置的に立て襟に隠れるだろうけれど、やはり軽率だったかもしれない。
「リュー、あの」
「コハル……」
「は、はい」
「今日は手加減してやれないからな」
「!?」
こちらを見下ろす目が完全に据わっていて、さっと血の気が引く。
「煽ったコハルが悪い」
「煽ってなんてな……あっ、ちょ、まっ……!」
――そして、私は自分の軽率な行動をひたすら後悔することになった。
「すまない。大丈夫か、コハル」
「……大丈夫じゃ、ないです……」
ぐったりとベッドに身を預けて、自分でも驚くほどの掠れ声で答える。
確かに初めてではなかったけれど、随分と無茶をされた気がする。
どのくらいの時間身体を重ねていたのだろう。
(もう無理ですって、何度も言ったのに……)
結局最後の方は何も考えられなくなって、ただひたすら思い出したくもない恥ずかしい声を上げていた気がする。
“証”はあの後も全身、脚の際どい場所から多分背中にもいくつも付けられて確認するのが怖い。
……でも、嫌ではなかった。
身体は疲れ果てているけれど、心は確かに満たされている。
彼から求められて嬉しく思っている。
そんな自分に気付いてしまって、それがまた無性に恥ずかしかった。
「しばらくコハルに触れられないと思ったら歯止めがきかなくなってしまった。すまない」
二度目の謝罪。
さすがに反省している様子のリューをちらり見上げて。
「機嫌、治りました?」
「え?」
目を瞬いているリューに、私は力なく微笑む。
「私、聖女としてだけじゃなくて竜帝妃としても頑張ってくるので、明日は笑顔で見送って欲しいです」
「!」
リューが瞳を大きくして、それからまたぎゅうと強く抱きしめられる。
「努力する」
その曖昧な答えに思わずふふっと笑ってしまう。
「お願いします」
でももう目を開けているのも限界で、私は彼の温もりの中襲い来る睡魔に身を任せることにした。
「……俺は、コハルを……」
眠りに落ちる直前、リューが何か言っていたような気がするけれど聞くことは叶わなかった……。




