第47話
リューは私を大事にしてくれている。愛してくれている。
その気持ちは有難いし、嬉しい。でも――。
「カネラ王子とふたりで話をさせてください」
「!?」
肩を掴んだまま身体を離し、リューは怖い顔でこちらを見下ろした。
「ダメだ」
「話をするだけです」
「後ほど晩餐の席を用意する。そのときに話せばいい」
「ふたりで話したいんです」
肩を掴む手に痛いほどの力が入る。
それでも私は彼の瞳を強く見返して続けた。
「魔王の復活はなんとしても阻止しなくてはならない。ですよね? 竜帝陛下」
「……っ」
「カネラ王子と話をさせてください」
もう一度同じ言葉を繰り返す。
しばらく見つめ合った……いや、睨み合った後で、リューはゆっくりと私から手を離した。
「……わかった。だが15分だけだ」
「ありがとうございます。充分です」
お礼を言ってから見上げると、またあの不貞腐れた顔があって苦笑する。
……リューは分かっている。
なぜ私が急にカネラ王子とふたりで話したいと言い出したか。
そして、私の決意にも気付いているのだろう。
「私、一応これでも聖女ですよ? だから大丈夫ですって」
いつかのように言ってみたけれど、彼の答えはあのときとは全く真逆のものだった。
「コハルは紛うことなき立派な聖女様だ」
「なんですか、それ」
小さく笑いながら彼の背中に手を回す。
すると彼はそんな私を包み込むように抱きしめ返してくれた。
「だが、コハルは俺の妃、竜帝妃だということも忘れないでくれ」
「わかっています。……すみません、従順なお妃様じゃなくて」
「コハルが何にでもハイハイと従うような女ならそもそも妃になどと考えていない。いつかはこういう事もあるだろうと覚悟もしていた。だが、いくらなんでも早過ぎだ。式の日取りがどんどん遠のいていくではないか」
その恨めしそうな愚痴を聞いて思わずまた笑みがこぼれてしまった。
「ごめんなさい、リュー」
もう一度謝罪の言葉を口にすると、私を抱きしめる腕にぎゅうと力がこもった。
そして、その後すぐにカネラ王子とふたりで話す場が設けられた。
場所は先ほども使われた会議室だ。
「それでは、カネラ殿下をお連れいたしますので少々お待ちください」
「お願いします」
セレストさんが一礼して会議室を出て行き、私は一息つく。
窓の外はもう暗い。窓際に寄ると、城内の灯りに照らされてベルデさんがお世話してくれている花壇が見えた。
(ここから私とベルデさんが話しているのが見えたんだ)
リューが会議後に急に不機嫌になったときのことを思い出して微笑んでいると、ドアがノックされた。
はい、と返事をすると扉が開いてカネラ王子が中に入ってくる。
扉が閉まり、彼は私に向かって丁寧に頭を下げた。
「聖女様、この度は私のために時間を作ってくださりありがとうございます」
そんな仰々しいとも思える態度にやっぱり違和感を覚えて、私は口を開く。
「私しかいないので、そんなに畏まらないでいいですよ」
「え?」
カネラ王子が不意を突かれたように顔を上げて目を瞬いた。
「というか、すみません。正直言うとなんかムズムズするので、出来たら以前のようにお話ししたいんですが……ダメですか?」
そうお願いすると、少ししてカネラ王子はふぅと息を吐いて目を伏せた。
「……やっぱり、変だった?」
力なく笑って彼はコテンと首を傾げた。
それは先ほどまでの作られた笑顔ではなくて。
(カネラ王子だ)
その覚えのある気怠げな雰囲気に安堵して、私も肩の力を抜く。
「いえ、王子様としてはあれが普通なんだと思うんですが、私は7年前の王子を知っているのでどうしても違和感があって」
「そっかぁ。まぁ、そうだよねぇ。俺もやってて違和感半端なかったし。あ~~疲れた」
彼は手近な椅子を引いて腰掛け、そのままテーブルに突っ伏してしまった。
……そりゃあれだけ自分を作っていたら疲れもするだろう。
と、彼がその体勢のままちらりと私を見上げた。
「聖女サマは、本当に竜帝と結婚するの?」
「え?」
「いやぁ、意外でさぁ。それもなんかめちゃくちゃ愛されてるみたいだし? どうしてそういうことになったの?」
「え……」
まさかの質問につい顔が熱くなってしまった。
「あ~、えっと、私もびっくりしたんですが、また召喚されてそういうことに……って、あの、あまり時間がないので本題に入らせてください!」
慌てて表情を引き締める。
そんな浮ついた話がしたくてこの場を設けてもらったわけじゃない。
「本題、ねぇ」
と、カネラ王子が億劫そうに身体を起こした。
「それで、聖女サマはやっぱうちの国には来てくれないんですか?」
「……やっぱり、私を呼ぶためにカネラ王子はここに来たんですか?」
訊くと彼はこくりと頷いた。
「そ。魔族の情報が入って、丁度同じ頃聖女サマがこっちの世界に戻って来たらしいって話が入って来たもんだから。……まぁ、ぶっちゃけ言うとさ、竜騎士団よりも聖女サマに来て欲しいんだよね」
「……」
やっぱりと思った。
多分、リューもそのことに気付いているのだろう。
「それで、君と面識のあるこの俺に白羽の矢が立ったってわけ。だから、君が来てくれたら俺の顔も立つんだけどなぁ」
「……私、」
「まぁ、個人的に君にまた会いたかったっていうのもあるんだけどね」
眠たそうな目にじっと見つめられて、自分の口から小さな声が漏れていた。
「え?」




