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再びの異世界、可愛かった皇子様が俺様竜帝陛下になってめちゃくちゃ溺愛してきます。  作者: 新城かいり
新たな再会

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第20話


 アマリーに案内されたその場所は庭園の隅っこの方にひっそりとあった。

 レンガ造りの花壇には色とりどりの花が植えられていて、その一画だけが目に鮮やかに映った。

 メリーが嬉しそうにそちらへ飛んでいく。


(へぇ、こんなところがあったんだ)


 一昨日リューに抱えられてこの庭園に降り立ったときも、もう薄暗かったからか全然気づかなかった。

 と、その更に隅っこの方にしゃがんで作業している人が見えた。


「ベルデ!」


 アマリーがそう声をかけると、麦わら帽を被ったその人は慌てたように立ち上がった。

 メリーはそこに人がいたことに気付いていなかったようで飛び上がって驚き急いでこちらに戻ってくる。

 ベルデと呼ばれたその人はひょろりと背の高い、想像よりもずっと若い男の子だった。


(なんとなく勝手におじさんだと思ってた)


「こ、これは聖女様……!」


 私たちが近づいていくと、おそらく私と同じか少し下くらいの歳の彼は帽子を取って深々と頭を下げた。

 私も同じように頭を下げて挨拶する。


「こんにちは。あなたが庭師さん?」

「はい! こちらの庭園を任されております。ベルデと申します」

「ベルデさん。昨日も今日も、綺麗なお花をたくさんありがとうございました」


 そうしてもう一度頭を下げると、彼は慌てたように手を振ってからはにかむように笑った。


「いえ! アマリーから聞きましたが、喜んでいただけたようで何よりです」


 ふんわりとした優しい雰囲気の人だと思った。

 これならメリーも人見知りを発揮せずに話せるのではないだろうか。


「ほら、メリーもお礼言って」


 背中に隠れていたメリーにそう声をかけると、メリーは少しだけ顔を出し、


「……ありがとうございました。美味しかったのです」


それだけ言ってまたぴゃっと隠れてしまった。

 ベルデさんはそんなメリーの様子にぱちぱちと目を瞬いていて、私は苦笑する。


「すみません、この子人見知りが酷くて」

「あ、いえ」

 

 すると彼はメリーの視線の高さに合わせるように腰をかがめ、人懐っこい笑みを浮かべた。


「喜んでいただけて良かったです。明日もご用意いたしますね。――あ、そうだ。メリー様、特に好きな花はありますか?」


 ベルデさんが訊ねると、メリーは私の背中に隠れたままぼそっと答えた。


「青色のお花が一番美味しかったのです」

「青色……」


 そう繰り返して、ベルデさんは花壇の方へと足を向ける。

 そしてスズランに似た青色の可愛らしい花を指差した。


「こちらですか?」


 メリーはまた少し顔を出して頷いた。


「……そうです。それ、花の国にもありました」


 するとベルデさんは嬉しそうな顔をした。


「そうですそうです。これは花の国から取り寄せたんですよ」

「あ、そうなんですね」


 ティーアが治める『花の国』を思い出しながら私が言うと、彼は頷いた。


「はい。僕、実は『花の国』出身で、この『竜の国』もあんなふうに花であふれた国にしたいと庭師を始めたんです」

「そうだったの」


 そう驚くように言ったのはアマリーだ。


「花であふれた……素敵ですね」


 彼の言う通り、この国も花の国のように色とりどりの花々であふれたらどんなに素敵だろう。


「はい。この竜の国にはまだ魔王に支配されていた頃の名残があちこちに見られますし、まずはこの城からと思っているのですが……」


 でもそこでベルデさんの笑顔が少し曇ってしまった。


「僕一人の力ではなかなか思うようにいかなくて。花の国とは地質や気候が違うのも勿論ありますが……今はこれが精一杯です」


 そうしてベルデさんは花の城の庭園に比べたらあまりに小さな花壇を見つめた。


「……リューに、陛下に相談してみます」

「え!?」


 私が言うと、ベルデさんはぎょっとした顔でこちらを振り返った。


「いえ、そんな!」

「私も、実はここに来た時、まだ少し怖いというか冷たい印象を受けたんです」


 庭園を見回しながらそう続けると、彼は口を噤んだ。

 ……7年前、魔物で溢れていたこの城は、まさに「魔王の城」という雰囲気で本当に恐ろしかった。

 今はもう魔王も魔物もいないのに、やはり未だにその頃のイメージは根強く残っている。

 そう感じていたのは私だけではなかったのだ。


「花の城は私も知っているので、ここの庭園もあんなふうになったら素敵だなって……メリーのこともありますし、ちょっと話してみます」


 メリーを見てから笑顔で言うと、ベルデさんは姿勢を正しまた深く頭を下げた。


「よろしくお願いします」

「はい!」


 私はしっかりと返事をする。

 ――彼の言う通り、まずはこの城からあの頃の恐ろしいイメージを払拭できたらいいと思った。




(でも、そっか。このお城だけじゃないんだ)


 ベルデさんはこの国のあちこちにあの頃の名残が見られると言っていた。


「都に行ってみたいな」

「え?」


 城内に戻る途中、つい思ったことが口から出てしまった。

 先を行っていたアマリーと腕の中のメリーが同時に私を見た。


「あ、ほら、私いきなりここに来ちゃったから、今都とかどうなってるのかなって気になって」


 この国の首都である『竜の都』。

 でも記憶に残っているのは、魔物たちの脅威に晒されまるでゴーストタウンのようになった街の姿だ。

 と、アマリーが慌てたように言った。


「ですが、コハル様が都に下りられたら大変な騒ぎになってしまいます!」

「え、そうなの?」

「そうです! コハル様はこの国をお救いくださった聖女様なのですから」

「でもそんなに顔は知られてないと思うし、こっそり行けば」

「と、とんでもないです! それこそ何かあったら大変です……!」


 必死な顔のアマリーを見てもまだ全然そんな自覚はなくて。


(それも、あとでリューに相談してみようかな)


 お城の中に入りながら、私は今は会議中の彼のことを思った。



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