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第78話 S級ハンター、見抜く

挿絵(By みてみん)


宣伝しつこいようですが、作者にとって大事なことなのでさせて下さい。

6月15日サーガフォレスト様より刊行です。

よろしくお願いします。

『黒竜王ブリガルド』……。


 20年前、剣と魔法の世界『オールドブル』を荒らし回り、3つの国を飲み込み、約1000以上の街や村を焼き払った史上最悪の魔物だ。


 世界での死者6000万人以上。


 まさに存在自体が災害であった未曾有の怪物はどこからともなく現れ、そして最後にある1人の女性と遭遇し、敗れることになる。


 名前はシェリル・ヴィンター。


 まだ『伯爵位(マタラ)』の爵位を受ける前のシェリルのことだ。


 辺境では『勇者』と讃えられ、活躍していたシェリルには、1つ異名が与えられていた。


 『黒い暴風(ダークフォース)


 一体誰がそう呼んだか定かではないらしい。


 ブリガルドの前にシェリルが立った時には、もうその異名で呼ばれていたそうだ。


 シェリルは黒毛馬族だ。それと掛けて『穴馬(ダークホース)』と笑う人もいるけど、僕はその日、異名の一端を知ることになる。


 コートの中から取りだした鉄の棒を見た時、まず思ったのは長いということだ。


 大柄の男にも負けないシェリルの長身よりも、なお長い。


 さらにシェリルは魔力を解放した。


 フッと息を吐いた時、地面から空に向かって猛烈に巻き起こるものがある。


 風だ。


 もはや暴風と言ってもいいだろう。


 シェリルの黒髪と尻尾を逆立たせる。


 瞳は炎のように光っていて、シェリルの心根が乗り移ったかのようだった。


 『風』の属性魔法……。


 シェリルが持つ『魔法(ルーン)』だ。


 すると手を掲げた。


 薄く微笑みながら、目の前の神獣を睨む。


「来いよ、犬っころ。しばし拳闘といこうじゃないか。もちろん、お互いの得物(ぶき)ありでな」


 それってもう拳闘って言わないんじゃ……。


 そんなことを考えてる間もなく、飛びかかったのは神獣の方だった。


 速い……。


 僕がその神獣の姿を発見した時には、シェリルの横で爪を構えていた。


「シェリル……!」


 ボゥッ!


 再び暴風が沸き起こる。


 虚を衝いた神獣の攻撃をあっさりと弾く。


 もはやそれは、風の結界に近い。


「いい踏み込みだ」


 シェリルは笑っていた。


 持っていた鉄棒を振るい、横に薙ぐ。


 シェリルもそうだけど、神獣の身体能力もまた驚異的だった。


 仰け反った体勢からそのまま後方へと宙返る。そのまま背後の家の2階へとよじ登った。


 その巨躯から想像も付かない身軽な動きに、僕は言葉も出ない。


 けれど、それだけで許してくれるシェリルではなかった。


「こぉおぉおおぉおぉおぉぉおぉお!」


 独特の呼吸法で大量の空気を身体に取り込む。


 その瞬間、鉄棒の先端に口を付け、神獣に向かって狙いを付けた。



 プシュッッッッ!!



 鋭い音が夜気を裂く。


 神獣は反応したけど、遅い。


 何かが神獣の眉間にヒットし、吹き飛ばされていた。続いて、何か重いものが落下する音が聞こえる。


 おそらく1つ向こうの通りに落ちたのだろう。


「あの馬鹿! 戦闘範囲は極力広げるなと厳命しておいたのに……」


 ガンゲルは薄毛をガリガリと掻いた。


 ハンターギルドの呼びかけがあって、この辺りの住人は教会に避難してもらっている。


 名目は街に逃げ込んだ魔物を駆除するとなっていた。


 とはいえ、被害を出していいわけがない。


「被害はうちが払うことになるんだぞ!」


「黙れ、ガンゲル。どうせそこの貴族に肩代わりしてもらうんだろう」


 シェリルは『魔法(ルーン)』を解かずに、ガンゲルとラクエルさんを睨んだ。


 そのままシェリルは1つ向こうの通りへと駆け出す。


 僕たちもその後を追った。


「ガンゲル……さん、あの神獣を射貫いたのって……」


「あ? ……あれは空気弾だ。とはいえ、あいつの『魔法(ルーン)』で極限まで圧縮しているがな。あれであいつは魔竜王の翼を折ったんだ。あの神獣もタダではすまい」


「が、ガンゲル殿! そんな殺傷能力のある『魔法(ルーン)』は――――」


「ラクエル殿、ご心配なく。それぐらいはあの『穴馬(ダークホース)』も心得ています。手加減はしてますよ」


 角を抜けて、先ほどよりも広い通りに出る。


 ちょうど神獣が立ち上がったところだった。


 鼻の頭についた瓦礫を振り払う。そこだけ見ると、ただの普通の大きな狼の仕草だった。


「さすがは神獣……。あの空気弾をまともに受けて、ピンピンしてるとはね」


『ワブブブブブ……』


 神獣はうなり声を上げる。


 鼻の頭に皺を寄せて、牙を剥きだし、シェリルを睨んでいた。


 シェリルと神獣との間は遠くもなければ、近くもない。微妙な距離感だった。


 先ほどの空気弾を気にしているのかな。


 離れれば、狙い打ちされることを本能的に理解しているのかもしれない。


「怖いねぇ。怒って、反撃してこないあたりに知性を感じるよ」


 シェリルも構えた。


「悪いけど、ここからは圧倒させてもらうよ」


 ふわり、と風が僕の髪を撫でる。


 今度はシェリルが仕掛けたのだ。


 その動きはまさに一陣の風だった。


 けれど、その速さは光に近い。


 あっという間に、神獣の前に踊り出ると、鉄棒を振るった。


 その連撃はまさに異名にふさわしい。


 そう――暴風だ。


 叩き、薙ぎ、突く……。


 その動きが一呼吸、1拍の中に凝縮され、さらに次の攻撃へと繋いでいく。


 終わりが見えない連撃に、神獣は防戦一方だった。


 神獣といっても、獣だ。


 鉄棒の防御の仕方なんて知る由もないはず。


 まして20年前ぐらいに世界を救ったことのある人間の棒術に対抗できるはずがなかった――――と思っていた。


 ガチャッ!!


 じっとシェリルの攻撃を見ていた神獣は、ついにその鉄棒を捕らえる。


 口に咥えると、シェリルの動きを封じた。


 思わず「やった!」と思い、腕を振り上げる。


 いつの間にか僕は神獣の方を応援していたらしく、慌てて手を引っ込めた。


 力だけの勝負なら流石のシェリルも分が悪い。


 神獣は鉄棒を持ったシェリルごと持ち上げる。


 そのまま首を振り、側の家屋の壁に叩きつけた。


 だが、その前にシェリルは鉄棒から手を離し、事なきを得る。


 武器をなくしたシェリルは、少々複雑な顔を浮かべ、神獣をジッと見据えた。


 それは目の前の神獣を観察しているように、僕には見えた。


「どうした、シェリル? 今が畳みかけるチャンスだろう」


 ガンゲルが角に隠れたままシェリルの背中に声をかける。


 けれど、シェリルは一旦戦闘態勢を解き、鉄棒を肩にかけた。


「やっぱり何かおかしい……」


「はあ?? おかしいというんだ?」


「いくら弱っているからといって、神獣がここまで弱いのはおかしい。ブリガルドほどではないにしろ。この神獣はあまりに弱すぎる」


「ならば、絶好の好機ではないか!?」


 次第にガンゲルの語気が荒くなる。


 それでもシェリルはマイペースで、持っていた鉄棒で肩を叩いた。


「あたしはね、ガンゲル。戦いに美学を持ち込むんだ。単なる弱いものいじめなんて、あたしには性に合わない」


「弱いものいじめだと! 神獣が……」


 シェリルと神獣に、それほどの差が……。


 しかし、次の一言が僕たちを驚愕させた。


「弱いものいじめだろう。何せこいつの実力は、Aランクの魔物程度だからな」


「なっ! 神獣が!! アイスドウルフの実力がAランクだと! そんな馬鹿な!!」


 ガンゲルが怒鳴る。


 その評価にラクエルさんも息を飲んでいた。


 僕から見れば、Aランクでもかなり強い魔物だけど、シェリルはSランクの魔物すら打ち倒すことのできる優秀なハンターだ。


 確かにシェリルとAランクでは、格が違うかもしれない。


 それは滅多打ちにされた神獣の顔が物語っている。


 それでも、伝説に寄れば国を氷漬けしたことがある獣の眷属が、Aランク程度の実力しかないとは到底思えなかった。


「さっきの空気弾もそうだ。当たる前に、こいつは反応していた。けれど、回避はしなかった。さっきの攻撃だって、ずっとあたしの攻撃を(しょうめん)で受け続けていた。何よりだ――――」


 シェリルは鼻を利かせる。


 黒毛馬族は人族よりも遥かに嗅覚が優れていて、隣町の夕餉の匂いですらかぎ分けることができる。


「なあ、こいつ――――――」


 シェリルが何かを言おうとした直後だった。


 サクッ……。


 なんとも呆気ない光景だった。


 そしてひどく現実離れしていて、僕には信じがたいものだ。


「シェリル……?」


 呟く。


 刺されていた。


 シェリルが刺されていたのだ。


 誰に?


 それは……。


「ラクエル殿、何をやっておられるのですか!?」


 ガンゲルは頭に手を置き、叫んだ。


「てめぇ……」


 シェリルは崩れ落ちた。


 抑えた脇腹から鮮血が漏れ、すでに足下に広がっている。


 神獣は首を伸ばし、その奇妙な様子を眺めていた。


 それを満足そうに見つめたのは、1人の冴えない貴族だ。


「よしよし。良い子だ、アイム(ヽヽヽ)


 ラクエルさんは振り返る。


 手には血に濡れたナイフを持ち、恍惚とした表情を浮かべていた。


「ラク――――!」


「ガンゲル殿、もう手を引いていただけますか? アイムは見つかりました。あとはボクが……」


「ふざけるな!」


 シェリルが脇腹を押さえながら立つ。


 出血がひどい。


 かなり奥まで刺さったのだろう。


「さすがは世界を救った勇者だ。咄嗟に致命傷だけは避けた、といったところかな。魔剣『暗殺者のナイフ』で気配を消し、背後を取ったのだが」


「そんなことはどうでもいい!!」


 シェリルは一蹴する。


 その声と眼光の鋭さは、神獣のそれを思わせた。


「ラクエル、1つ聞かせろ!!。その神獣…………」



 身ごもっているな!?


挿絵(By みてみん)


本日のキャラクターデザインは、

ゼレットの相棒リルです。

現在、絶賛リル誕生のお話を書かせていただいておりますが、

本人は至ってやんちゃで、元気にスクスクと成長しております。


すごい食いしん坊なところがどこぞの神獣を思わせますが、

今のところ関係性はないとだけどお伝えしておきますね。


書籍版ではリルの活躍シーンが、WEB版より増えております。

リルファンは是非お買い上げよろしくお願いします。


さらに本日ですが、『ゼロスキルの料理番』3巻の発売日になります。

この作品がなければ、『魔物を狩るな』は生まれなかったといっても過言ではありません。

是非こちらもよろしくお願いします。


最後に『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミカライズも更新されてるので、こちらもよろしくお願いします。

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