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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第5章

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78/222

第77話 S級ハンター、仁王立つ

挿絵(By みてみん)


発売まであと8日!

ご予約よろしくお願いします。

 神獣……。


 書物の中では知っている言葉。


 でも、日常の会話の中で聞くのは初めてだ。


 それが本物であるならば、僕は多分世界的に見ても珍しい神獣目撃者となるだろう。


 神獣はそれほど珍しい獣なのだ。


 普段は神様が住む神域に住み、戯れに地上へと現れる。


 その伝説は様々だ。


 国に千年の恵みをもたらしたというものもあれば、千年草木が生えない土地にしたという言い伝えもある。


 神獣は決して人間の味方ではない。獣とつく限り、その差配は神獣自身の自我に寄るところが大きいのだ。


 アイスドウルフという種類の神獣は初めて聞いたけど、ともかくその名前は僕に衝撃を与えた。


 それを人が【使役(テイム)】していたというなら尚更驚きだ。


 皆が押し黙り、お婆さんの泣き声が響く中で、僕たちの会話は続いた。


「その反応からして、間違いないようだな」


 シェリルはラクエルさんを睨む。


 伯爵様は何も言わず、小さく頭を振るだけだった。


 代わりに答えたのはガンゲルだ。


「その通りだ」


「が、ガンゲル殿……」


「ここに至っては白状するしかありません、ラクエル殿」


「…………」


 ガンゲルに諭され、ラクエルさんは再び頭を垂れた。


 顔がさらに青白くなっていく。


 口を開こうとしないラクエルに変わって、ガンゲルが説明した。


「あれは神獣だ。そこらの獣じゃない。ラクエル殿は、それを【使役(テイム)】していたが――――」


「逃げられたか……。本当に神獣を【使役(テイム)】できていたのか、疑問だな」


 シェリルはまたラクエルさんに鋭い視線を送る。


 やはりラクエルさんは脂汗を垂れ流すだけだった。


「神獣はラクエル殿の制御下にあった。事実、ここまでの道中は大人しかったのだからな。……今回は偶発的な事故だ。そしてこの不幸な事故もな」


「神獣は人を襲うことはない。己を守る時以外は……。これもその事故だと?」


「ああ。そうだ」


「じゃあ、この後に起こる事故もそうだと?」


「その前に捕まえるのがお前の役割だ、シェリル」


 どちらも1歩も引かない。


 端から見ている僕でもドキドキするぐらいの剣幕なのに、ガンゲルだけは冷静だった。


 それどころか大きく溜息を吐く。


「お前、何が言いたい?」


「捕獲でいいのか、と聞いている?」


「殺すというのか? 神獣を? それこそ罪だ。あの神獣は世界文化遺産に匹敵するほどの価値があるのだぞ。いや、それ以上かもしれん。人類にとってかけがえのない遺産となるものを殺すというのか、お前は?」


「この街で虐殺が起こるよりはマシだろう」


「そうなるとは決まってないだろう。シェリル、いい加減落ち着け。お前らしくないぞ。それとラクエル殿にも謝罪だ。この件で、1番心を痛めているのは、飼い主であるラクエル殿なんだぞ」


「…………」


 シェリルは盛大に溜息を吐いた。


 ラクエルさんの方を向き、乱れた襟元を直す。


「悪かったな」


「いえ……」


 ラクエルさんはホッと息を吐く。


 その場にへたり込み、ガンゲルの介抱を受けていた。


 シェリルは現場から離れようとする。


「どこへ行く、シェリル?」


「作戦を立て直す。あいつの目的もわかったしな。……ラクエル殿」


「…………ま、まだ何か?」


「善処はする。……ただ保証はできない。それが飲めないなら、あたしは降りる」


「シェリル! 勝手に――――」


 ガンゲルが激昂した。


 それを抑えたのは、ラクエルさんだった。


「もういいですよ、ガンゲル殿。こうなってはボクも覚悟します。そもそもボクが悪かったんですから」


 そして、その夜――――。


 シェリルのハントが始まった。



 ◆◇◆◇◆



「なんじゃ、こりゃ??」


 ガンゲルは思わず仰け反った。


 目の前に置かれていたのは、煌びやかな宝石の数々だ。


 換金したら、いくらぐらいになるんだろう。


 しばらく食べるのに困らないぐらい、とにかくたくさんだ。


 日中ですら真っ暗な裏通りでも、月の光を受けて赤、青、緑と様々に反射している。


「シェリル、これどうしたの?」


 もしかしてシェリルの屋敷の売値と同価値ぐらいある宝石を見て、僕も息を飲んだ。


 横でガンゲルがふんふんと頷く。


 ラクエルさんだけが、僕たちを窺うように陰湿な瞳を向けていた。


 シェリルはやれやれと首を振ってから、宝石を1つ摘まんで僕たちの前に掲げる。


「よく見ろ」


 と言われてよく見てみる。


 すると、宝石の中に突然目がパチッと開いた。


 僕は悲鳴を上げながら1歩後ろに下がる。


 一方でガンゲルは苦虫を噛みつぶしたような顔で、宝石を睨んだ。


「なんだ、宝石虫か……」


 確か宝石の中に宿った虫霊(むしれい)のことだっけ? 


 一応魔物だけどほぼ無害。


 ただ問題は1度、虫霊に憑かれた宝石は加工できず、宝石店に売っても安値で買い叩かれてしまうらしい。


「宝石虫は商品価値こそほとんどないが、魔石であることに代わりはない。これをあいつの餌にして釣り上げる」


「なるほどな。シェリルにしてはいい考えだ」


 ガンゲルは偉そうに髭を引っ張った。


「そのアイディアはいい。だが、何故このガキがいるんだ?」


 今度は僕を睨む。


 その鋭い眼光に、僕は一瞬竦んだけど、すぐに立ち直った。


 逆に睨み返してやる。


「が、ガキじゃないです。……こ、これは僕が受けた依頼ですから」


 そう。


 これはシェリルが断り、僕が受けた依頼だ。


 自分の手に余るようだから、危険だからと言って逃げるわけにはいかない。


 それを怖がっていたら、多分僕は生きていけない。


 僕にだって、夢の1つや2つはあるのだから。


「それに――――」


「あ? なんだ、ガキ?」


「『助けて』って言ってるようにみえたから」


「はあ? 誰が??」


「神獣が――だよ」


 一瞬、ラクエルさんの眉間がピクリと動いたような気がした。


 しかし、僕は構わずあの日の夜のことを思い出す。


 忘れられない獰猛な牙と、血走った瞳。


 けれど、必死になって僕を威嚇する吠え声は、僕に助けてって言っているように見えた。


 そこまで話しても、ガンゲルの顔色は変わらない。フンと鼻息を荒くするだけだ。


 微妙な空気を変えたのは、シェリルだった。


「まあ、そういうわけだ。今回、あたしはゼレットのサポートだ。ゼレットが降りるというなら、あたしも降りるけどね」


「僕は降りないよ!」


 宣言すると、ガンゲルは鼻を鳴らした。


「ふん。私は心配していっているんだ。命の保証はせんし、うちから葬式代も出さん。それでもいいんだな」


「うん」


 僕は真っ直ぐガンゲルを目で射貫く。


 エルフにしては珍しい黒の瞳が、ガンゲルのギョロリとした目に映り込んでいた。


 やや薄くなり始めた髪を、ガンゲルはガリガリと掻きむしる。


「チッ! これだからガキは……。いいか。足手まといにだけはなるなよ」


「お前が言うなっての」


「シェリル――――」


 謝ろうとすると、シェリルは僕の頭に手を置いた。


「なんも言うな。心配しなくていい。あたしはあんたの保護者だ。お前のことはちゃんと守る」


「シェリル……」


「だが、人様に迷惑をかけるような無茶ばかりは続けるな。お前が死んだら悲しむヤツはいる。……パメラちゃんとかな。あの子を泣かせてみろ。顔がガンゲルみたいな仏頂面になるまで殴ってやるからな」


 それは普通に虐待なんじゃ……。


「それにしても相変わらずその恰好はなんだ? 暑苦しくてかなわんぞ」


 ガンゲルが揶揄したのは、シェリルの恰好だ。


 シェリルはいつものラフな恰好ではなく、真っ黒な男物のコートを着ていた。


 襟が高く、手には指ぬきのグローブを嵌めている。


「相変わらずお洒落というものがわかっていないなあ、ガンゲル」


「ふん。……私には男物のコートを着た変態女にしか見えないが」


「なんだ――――」


 シェリルの馬耳が反応する。


 何か察し、シェリルは柔らかな尻尾と共に振り返った。


「来た。ゼレット、離れてろ」


「う、うん」


 僕は物陰に隠れる。


 すると、月が陰った。


 雲が出てきたのかと思ったが違う。


 月が空を飛ぶ獣に覆い隠されていたのだ。


 タンッ!


 思いの外、拍子抜けするほど軽い着地音だった。


 けれど、シェリルに発した叫びは重苦しい音を立てて、空気を掻きむしる。


『ワァゴゴゴゴゴゴンンンンンンンン!!』


 銀毛が闇夜で黒く見える中、その黄金色の瞳だけは陰ることなく、目の前のシェリルを捉えていた。


 本当に現れた。


 神獣アイスドウルフが……。


 対するシェリルは――――。


 カラリ、とコートの下に転がったのは、丸い鉄棒だった。


 それを拾い上げたシェリルが、神獣に鉄棒の先を向ける。


「さて……。大人しくしてもらおうか」


 神獣の目の前で仁王立ちしたシェリルの顔は、今まで見てきた中でもっとも真剣なものだった。


挿絵(By みてみん)


本日のキャラクターラフは、主人公のおバカな弟子

プリムです。


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でも、たまに確信をつくようなことを言ったりするかも……。


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6月10日に発売する「ゼロスキルの料理番」3巻もよろしくお願いします。

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