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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ
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協力

「ソウルイーター、魂喰らい、吸魂鬼、色々呼び名の候補はあったけれど、ソウルキャッチャーという通称は柔らかいものを選んだ結果だったわ」


 私の家の居間で、楓が淡々と言葉を紡いでいく。


「ここからわかるように、私達はソウルキャッチャーを敵視してはいない。警戒はしているけれどね」


「はあ……」


 曖昧に返事をして、視線を落として紅茶を一口飲む。


「あなたが味方になってくれれば、沢山の人を助けることができる。私は、そう思うわ」


 もう、誤魔化しようがないとは思うのだ。鉄化のスキルを楓の前で吸収して見せてしまった。

 しかし、私は足掻きたい。一般人であるために。


「私には仕事があります。大学で四年頑張って、やっと入れた職場です。この日常も、生活も、私が努力して手に入れたもの。それをどうして捨てれましょう」


 楓は、真っ直ぐに私の目を見る。私は、視線を逸した。


「私はただの一般人です」


 十数秒の沈黙が漂った。


「そう」


 楓は、ポケットから手錠を取り出すと、自然な動作で私にかけた。


「これは?」


「自由に行動しているソウルキャッチャーなんて危険極まりないでしょう。逮捕よ、逮捕」


「ざ、罪状は?」


「適当につけるから待ってて」


 そう言って、楓は悪戯っぽく微笑む。

 私は両手を振った。


「わかりました、わかりました、協力します。だから牢獄送りだけはやめてください」


 楓が鍵を取り出し、手錠を私の手から外す。

 冷たい鉄の感触が離れて、少し安堵する。

 私は一般人でありたかった。

 けれども、私の特技はついに人生の選択肢すら侵し始めたのだ。


「じゃあさ、これじゃどう? 日中は今の会社で働く。夜は私達と一緒に働く。どっちも両立できるかはあなた次第」


 考え込む。

 残業や持ち帰りの仕事を考えると少し厳しい。

 しかし、やらないと言えば待っているのは牢獄だ。


「わかりました。夜はあなた達に協力しましょう」


「そう。じゃあ早速協力してもらうわ」


 楓が立ち上がり、家を出て行く。私も後を追い、家の鍵を閉めて後に続く。

 楓の車に乗り込み、発進する。

 連れてこられたのは、地下刑務所だった。


 冷房が効いているのか、はたまた楓の体質か、それともその両方か。

 ひんやりとした空気が地下には漂っていた。


「私達の中にも勘がいい子がいてね。そういう子と戦闘要員がセットになって活動しているんだけれど」


「楓さんや相馬さんはお一人ですね」


「百戦錬磨だからね。それに、相馬は癪だが勘がいい」


 連れてこられた先にいたのは、この前楓と協力して捕らえた婦女暴行犯だった。


「なんだよ。裁判の告知か?」


 男はあぐらをかいて、ふてぶてしく聞く。


「あなた、誰かに力を貰ったってようなことを言ってなかったっけ」


「ああ、言ったな」


「詳しく教えてくれる?」


 男は、しばし考え込んだ。


「交換条件で減刑してくれるなら考えるぜ」


 その次の瞬間、男の喉元に氷の刃があった。

 楓が檻を蹴りつけて、その箇所から氷の槍ができあがっている。


「あんたは沢山の女を泣かせた。その罪は消えることはない」


 楓の目が、赤く光る。周囲の気温がどんどん下がっていく。


「私達はいつでも拷問に切り替えることができるのよ」


 男はしばらく楓を睨みつけていたが、そのうち溜息を吐いて語りだした。


「あれは、何気ない昼下がりだったよ。俺は求職中でベンチで座ってた。そこにやってきたんだ、奴が」


「奴……?」


 楓が、目を細める。


「細身で眼鏡をかけた男だった。男は語った。今の人生はつまらなくないか、と」


「その会話を詳しく思い返せる?」


 男は困ったような表情になった。


「決められた勉強の末に、決められた就職をし、決められた仕事をこなす……だっけかな? この世は地獄だ。だが君は天国に行ける資質を持っている」


「資質?」


「確かにそう言われたぜ。資質、と」


 男は投げやりに、片手を後方の地面について支えにした。


「そして、事実、俺は超越者になった。スキルを吸われる、あの時までは……」


 楓が足を下ろす。氷の槍がひび割れて粉々に砕け散る。


「ふうん。そっか」


 楓はそうとだけ呟くと、男の房の前を去って歩き始めた。


「おい、減刑は……」


 後ろからの声が遠ざかっていく。


「というわけで、事態はややこしいのよ」


「もう一人いるというソウルキャッチャーと、スキルを与えし者ですか」


「うん。前も言ったけど、この市の超越者の増加ペースは異常よ。そのうち、破綻が見えている」


 私は息を呑む。

 ならば、私が一般人をやるためには、今回の事件を解決に導かねばならないのだ。


「あなたはありったけスキルを吸収しなさい。沢山殺されるならそれ以上に沢山作れば破滅は逃れる精神よ」


「暴論ですね」


「そういう神話があるのよ」


「待ってくれ!」


 近い房から声がした。


「あんたならわかるはずだ。俺は、無実だと」


 そう言ったのは、若い青年だ。

 青年のハートには、クロスされた剣とその後ろにカイトシールドのデコレーションがある。


「証明してくれ! 俺の無実を!」


 青年は叫ぶ。


「イケメンじゃん」


 歩美が呑気に呟いた。

 確かに、悪い顔立ちではなかった。



第八話 完


次回『神聖なる盾』

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