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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第一章 私は一般人でいたいのだ

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神聖なる盾

「じゃあこの子に勝ったら無罪放免にしてあげる」


 楓が言い出したことに、私は焦った。


「勝ったらって、戦えってことですか?」


「戦闘勘は養うに限る。ただでさえあなたは相手のスキルが見えるってアドバンテージがあるのだから」


「剛の経験を吸収してるから十分だと思うけどなあ……」


 頭を振り絞って、弱々しく反論する。


「鉄の体の相手に拳叩きつけて骨折して治療受けたの誰だっけ」


 それを言われると弱かった。

 青年は戸惑うように二人のやり取りを見ていたが、そのうちその表情に決意が漲った。


 青年は手錠をかけられ、三人は楓の車にのって移動する。

 そして、そのうちあるビルの屋上へとたどり着いた。


 一番背の高いビルだ。町の全てが見下ろせる。フェンスに指をかけて地上を眺め、私は小さく震えた。

 対して、青年は手錠も外されやる気満々と言った様子だ。


「辻白恭司」


 楓が書類を眺めて淡々とした口調で言う。


「女性が刺された事件が発生した際、近場を移動中だったため捕縛された。本人は容疑を否認している」


「俺の能力じゃショートソードしか作れない。その事件で使われたようなナイフは作れない」


「というのが一応本人の主張である、と」


 楓は、恨みの篭った恭司の声に怯むことなく淡々とした口調で言う。

 こうでなければ警察官なんて務まらないのかもしれない。


「じゃあ、私は見守ってるよ」


「協力してくれないんですか?」


 私は、縋るように言う。


「基本審判だけどそっちに肩入れしてあげる。私達は、コンビだからね」


「コンビを組んだ覚えもないけど……あてにしてます」


「うん、よろしい」


 楓は微笑んだ。

 そして、私は彼と向かい合う。


 徒手空拳の相手。しかし、魂にはクロスした剣と大きなカイトシールドのデコレーションがある。

 少なくとも剣は出てくると思って間違いないだろう。


 私は鉄化のスキルを使うと、彼に近づいた。

 そして、即座に解除する。

 体が重かった。移動には不向きなスキルだ。


 駆け寄って接近して、拳を鉄化させて叩きつけようとする。

 彼は無表情だった。

 しかし、一言、呟いた。


「佇め、撫壁」


 その瞬間、彼の体を隠すような大きなカイトシールドが場に現れた。

 拳を叩きつける。

 鈍い音がした。


 そして次の瞬間、盾で押された。徐々にフェンスが近づいてくる。

 全身を鉄化させ自重を増やし、防御の姿勢をとってなんとか踏ん張る。

 押す力と留まる力は拮抗し、ついに動きを止めた。


(歩美、サイコキネシスは?)


「盾が立派すぎる」


 歩美が、焦ったように言う。


「これは外面の姿だけじゃなく、前面の大部分を守る呪具の類だよ」


 このまま押されるのは不味い。

 鉄化を解除して、盾を躱そうとする。


 その時、盾に切れ込みが入った。

 盾を貫いて、剣が飛び出してきた。

 辛うじて直撃は避けたが、頬に切り傷がついた。


 私は慌てて駆けて、ビルの屋上の中央へと戻る。


「生憎、俺の撫壁は外からの攻撃にはめっぽう強いが内部からの攻撃には脆い」


 剣が消え、盾の傷が消えていく。


「あんたの能力が鉄化だけだと言うならば、ここで終わりだ」


 そう、彼は淡々と宣告した。

 闇の中で、彼の赤い目が輝いていた。


 その時、天啓のように閃くものがあった。

 私は駆け始めた。


 猫の、犬の、剛の駆け方を糧にして。

 相手は盾を構えて、徐々にその向きを変えていく。

 しかし、彼を中心点にして旋回をする私に合わせて、移動はしていない。


「楓さん!」


「はぁい」


 楓は間の抜けた声を上げた。

 これは駄目か。一瞬、ひやりとしたものが心を撫でる。

 しかし、楓は私の目論見を見通してくれたようだった。


「よくできました」


 微笑んで、楓が片手を掲げる。

 周囲の気温が下がったような気がした。


 次の瞬間、恭司の下半身は氷に覆われていた。

 これでは移動もできない。攻撃もできない。捕まったようなものだ。


 私は恭司に鉄化して近づくと、その魂のデコレーションを剥がした。

 そして、手を握りしめて吸収する。


「楓さん。本当みたいですよ。このスキル、決まった長さのショートソードしか作れないや。ナイフは作れません」


「そう。じゃあ、恭司は無罪放免ね。スキルを返してあげてくれる」


 私は少し抵抗感があったが、自分の魂のデコレーションを一つ剥ぎ取り、恭司に返した。

 恭司は、戸惑うようにそれを見ていた。


「ソウルキャッチャー……超越者の天敵か。最近出没していると聞いていたが、この目で見ることになろうとは」


「あ、それ私じゃないです。私、悪さなんてしてませんから」


「ねえ、恭司君。君はこれで一つ借りを作ったと思わないかしら」


「借り?」


 恭司が怪訝そうな表情になる。


「奪われたスキルを無償で返してもらった。そもそも、自分より腕力の低い女性に負けた。あなたはそれで満足かしら」


「なにを言いたい?」


 楓は、薄っすらと微笑んだ。


「私達に協力して、悪のソウルキャッチャーを追い詰めない? 勝てば名誉挽回よ」


 恭司は目を細める。


「楓さんってさ」


 歩美が呟く。


「付き合っちゃ駄目な人種な気がする」


(嬉しくないけど同感だわ)


 人をコントロールする能力に長けた上司。

 相手をすればくたくたになるのは目に見えていた。




第九話 完

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