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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第五章 泣かないで、あなたは私が守るから

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泣かないで、あなたは私が守るから1

 予想外のことが起きた。

 僕だけじゃなく、夏希も硬直している。

 重い鞄を地面に置き、二人で相談する。


「どう思う? あれ」


「どう思うって言われてもなあ……」


 目の前には閑静な住宅街。木で作られた壁がそれを囲んでいる。


「人里、だよな」


「魔物の住む森の中に?」


 夏希は疑わしげに言う。


「私、思うんだけど……幻術じゃないかしら」


「俺もそう思って撫壁を使ったんだがな。害のあるものはなにも探知しなかった」


「……便利ね、撫壁」


「使い手の俺を褒めろ」


 夏希が悪戯っぽく微笑む。


「それって、ジレンマ?」


 僕は夏希の背中を勢いよく叩くと、鞄を背負って歩き始めた。


「いっつー。大人の行動じゃないなあ」


 夏希は呆れながらもついてくる。

 入り口は、そのうち見つかった。


 大きな門だ。閂をかけて閉められているのが見える。

 僕は、大きな声で叫んだ。


「すいませーん」


 反応はない。


「すいませーん、道をお聞きしたいのですが」


 やはり、反応はない。


「時間の無駄ね」


 そう言うと、夏希はしゃがみこんだ。


「電光石火!」


 夏希が跳躍し、一瞬で門を飛び越えた。

 そして、門の向こう側から閂を外す。


「無茶する奴ぅ……」


 呆れ混じりに言う。


「私無駄って嫌いだし」


 門を二人で開けて、中に入っていく。

 そこで、やっと現地住民達がやって来た。

 鎧で武装し、鋼鉄の擦れ合う音が周囲に響き渡る。長い槍を持っていた。


「止まれ! 何用だ!」


「あー、すいません。ちょっと道を聞きたくて」


 現地住民達は顔を見合わせる。

 そのうち、リーダー格らしき男が一歩前に出た。


「我々はこの町の自警団だ。道を聞きたいとのことだな」


「ええ。私達は、この世界の果てに行きたいんです」


 ざわめきが起こった。

 リーダー格の男が、手でそれを制する。


「町長に会ってもらおう。話はそれからだ」


 どうせなら森の中の人に道を聞いたほうが早い。

 僕達は彼らの提案に従うことにした。


 町長の家は、町の中央にある一軒家だった。


「町長。旅人です」


「超越者ではあるまいな」


 町長と呼ばれた男は、眉間にしわを寄せた。


「男はわかりませんが、女は超越者です」


「なら、帰ってもらえ」


 そう言うと、町長はさっさと家の奥へと戻ろうとする。


「待って! なんでそんなに超越者を嫌うの?」


 夏希の言葉に振り返った町長の表情は、まるで親の仇でも見るようなものだった。


「わしの人生は上手くいっていた。妻に孫。超越者が現れるまでは……」


「私達はこの世界の外に出たいだけなの! お願い、チャンスをちょうだい!」


「くっくっく……くっくっく」


 町長が笑いだした。


「なるほど、君らはこの世界のシステムを知らぬようだな」


「この世界の、システム……?」


 僕は戸惑うしかない。夏希も同じようだった。


「わかった。紫龍よ、相手をしてやれ。一対一で紫龍に勝てたら道を教えてやろう」


「スキルの使用は?」


「遠距離攻撃、肉体強化系以外は許可しよう」


「どっちも私に当てはまるんですけどー……」


 夏希がげんなりとした表情で言う。


「じゃあ、俺だな」


 僕は、胸を張って紫龍と呼ばれた男を見た。


「ちょっとちょっと、大丈夫なの?」


「ああ、まあ、打ち合ってみればわかる」


「あんたって撫壁の不意打ち以外で勝てんの?」


「……どうだろうな」


 僕は苦笑して、頬をかいた。

 夏希はその表情が不服だったのか、そっぽを向いて歩き始めた。



+++



 町の隅で、小さな決闘場があった。

 と言っても、草を抜かれただけの土の地面だ。


「僕は鎧ありでいかせてもらうぞ、超越者」


「いいですよ。良いハンデだ」


「言ってくれるな」


 楽しげに紫龍は言う。

 観客が沢山やってきていて、二人の戦いを今か今かと期待している。


 町長が手を上げ、下ろした。

 紫龍が剣を鞘から抜くのと、僕がショートソードを鞘から抜くのは同時だった。

 紫龍の剣が振り下ろされる。

 僕はそれを撫壁で受け流して、反撃の一撃を入れた。


 鎧と鎧の隙間を上手く捉えたが、肉を断ち切る感触はなかった。


「鎖帷子、か」


「卑怯とは言うまいな。お前も盾付きだろう?」


「まあ、そうですね」


 視界を遮るものをどかすために、撫壁を横にやる。

 視界が広かった。どこから攻撃がきても対応できるだろう。


 相手が剣を振り下ろす。

 それをショートソードで受け止める。

 金属がぶつかりあう音が響き渡った。


 僕は撫壁を持ち上げて、底を相手の腹部に叩きつけた。


「うげぇっ」


 紫龍は呻き声をあげる。

 ぶつかりあっている二本の剣の均衡が崩れた。

 そのまま、僕は撫壁に隠れて体当たりをした。

 そして、倒れた相手にショートソードを突きつける。


「まいった! まいった!」


 相手は両手を上げて叫ぶ。


「ありがとさん」


 僕はそう言うと、撫壁を消した。

 夏希が柵を乗り越えて駆け寄ってくる。


「なんだよ、撫壁ガン待ちじゃなくても戦えるじゃん」


「まあ、な……」


 僕は、そのことについてはあまり話したくなかったので、曖昧に誤魔化した。

 夏希はそれを察したのか、話題を変えた。


「さ、狭間の果てについて教えてもらわないとな」


 そう言って、元気良く歩いていく。

 僕はその若さが眩しくて、つい目を細めた。


次回『泣かないで、あなたは私が守るから2』

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