包囲脱出戦
「ヘリコプターが邪魔だな」
そう言ったソウルイーターの周囲には、五本の巨大な腕が現れている。
それは、僕らを囲んで守るようにして配置されていた。
「ああ、それなら、片付けるよ」
僕はこともなくそう言う。
数十人の超越者。
それを相手にするには、まずは防御できる状況を整えなくてはならない。
僕は長剣を消し、唱えた。
「来い!」
声が周囲に響く。
戸惑うように、数十人の超越者が立ち止まった。
空から巨大な剣が振ってきて、ヘリコプターを串刺しにした。
そのまま、ヘリコプターは田んぼに縫い付けられる。
そして、僕は更に唱えた。
「降り注げ!」
四本の巨大な剣が、正方形を作って僕らの姿を隠した。
これで、残るは数十人の超越者だけ。
「前方だけ開いて、前面の敵を突破。そのまま逃亡って手はどう?」
響が、戸惑いがちに言う。
ソウルイーターは、邪悪に微笑んだ。
「その必要は、ない」
ソウルイーターは手を掲げる。
「面白くなってきやがった。アラタ。お前のスキルと俺のスキルは非常に相性がいい」
「全然嬉しくない」
僕のぼやきを気にせず、ソウルイーターは手を振り下ろした。
五本の巨大な腕が、その場から消えた。
+++
伊藤勤は今回が初の任務だ。
仲間は数十人もいる。
そう思い、楽な仕事だと思いここまできた。
ヘリコプターが落とされた時も、対策すべきスキルがわかって良かったと思ったほどだ。
その楽観的な思いは、次の瞬間なくなった。
剣の籠の外に、巨大な手が五本現れる。
その五本は、高速で移動を始めた。
炎の術者が、氷の術者が、風の術者が腕へと呪文を唱える。
しかし、腕は止まらない。
そのまま、数人を飲み込んだ。
「スキルを食われた!」
悲鳴のような声が上がる。
そして、剣の術者が腕に斬りかかった。
腕は後ろに退き、次の瞬間高速で剣の術者を飲み込んでいた。手に持った剣が消える。
その時、新たな悲鳴に勤は気がついた。
見ると、剣の籠の一部が消えている。
そこから、一組の男女が飛び出した。
「鬼の力、喰らえええ!」
あれは、響という名の少女のはずだ。それが、ものすごいスピードで腕を振り上げ、跳躍し、勤の仲間に拳を叩きつけた。
人知を超えた力。
仲間は吹き飛び、血を吐いて動かなくなった。
突然の強襲に、準備が整わず、仲間は次々に吹き飛ばされていく。
そして、勤は気がつく。
あの一味の最年少。ヘルメットにスーツ姿のアラタに、自分が見つめられていることを。
「来い!」
アラタが叫ぶと、田んぼの上に巨大な剣の道ができた。
アラタは駆けてくる。
しかし、勤はまだ余裕を持っていた。
自分のスキル、雷撃。それは、いかなる敵も一瞬で無力化する最強のスキルだ。
勤は手を構え、雷撃を放つ。
しかし、アラタは止まらない。
「何故だ?」
戸惑いながら、もう一撃を放つ。
アラタは止まらない。
アラタとの距離が五十メートルほどになって、ようやく勤は恐怖した。
「これが、超越者同士の戦い。これが、ソウルイーターの戦い……」
勤は逃げ出そうとする。
しかし、田んぼのぬかるみがそれを邪魔する。
周囲の仲間達がいいようにやられているのも、それが原因か。
遠距離スキルを過信しすぎたのだ。
勤の心は、恐怖で一杯になった。死んだほうがマシかとも思った。
その意識は、アラタの剣の峰の攻撃で途絶えた。
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「ふー、美味しかった」
ソウルイーターが満足そうに言う。
「敵はあらかた気絶したか、撤退したわね」
響はしゃがみこんで、言う。
「足が泥だらけだわ。シャワー浴びたい」
「お前、そういうとこやぞ」
ソウルイーターは呆れたように言う。
「このまま行こう、滋賀へ」
僕は力強く唱えるように言う。
「行こう、滋賀へ」
響も、同調する。
「そうだな、行こう」
ソウルイーターも、複雑そうな表情で頷く。
全ての謎の答えが、そこに行く。
僕らの冒険は、まだまだ続く。
+++
「馬鹿な。数十人の超越者部隊を三人でしりぞけただと……?」
大きな机についた中年男が、戸惑うように言う。
「こんな結果、どう報告すればいいというのだ……」
そう言って、椅子に深々と背を預け、溜息を吐く。
「もう、なりふりかまっている暇はないのでは?」
中年男に報告しにやって来た細身の男が、言う。
中年男はハンカチで額の汗を拭いて、一つ溜息を吐く。
「毒を持って、毒を制すか……」
そして、しばしの沈黙の後、決意を持って言った。
「斎藤翠を呼ぼう」
「それが上策かと」
細身の男も、そう答える。
現状、警察サイドで最強の超越者。それはソウルイーターの三割を捕縛した斎藤翠を除いて他にいなかった。
第八話 完
次回『旅の終着点』




