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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二章 冒険を、望んでいた

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包囲網

「とりあえずここが鳥居市ということはわかった。既に包囲が敷かれているだろう」


 ソウルイーターが夜の公園で地図を広げながら、淡々とした口調で言う。

 そして、地図の上に指を走らせる。

 外灯が、周囲を照らしていた。


「今までのルートなら俺達は西へ進むと思われているだろう。だから一旦東へと戻って迂回するルートを取る」


 響は人差し指を顎に当てて、しばらく考えていたが、頷く。


「そうね。直進して精鋭に囲まれるのは避けたい」


「ここを抜ければ滋賀に入る。ゴールは目の前だ」


 僕は緊張してきた。

 僕らの冒険は、終わりを見つけようとしているのだ。


 いや、それで終わりではない。

 国外逃亡して生活していくという長い冒険が待っている。


 僕は、響の手を握った。

 響は苦笑して、僕の手を握り返した。


「それじゃあ、夜の間は走るぞ。日中なら目立つが、夜ならそう目立ちはしまい」


「そうね」


 響は僕の手を離すと、しゃがみこんだ。そして、こちらに背を向ける。


「これするたびに俺の男としてのプライドが削れていく気がするんだ……」


 僕はぼやくように言う。


「いいからさっさと乗れ。お前が無駄口叩いてる間にも時間は過ぎているんだ」


 ソウルイーターは冷たかった。

 響の背に乗る。

 響は立ち上がると、常人を凌駕する勢いで駆け始めた。

 背後には、ソウルイーターの足音が続く。


 田んぼが多いな、というのが僕の感想だった。

 外灯も少なく、長閑な田舎だ。

 そのまま、夜明け過ぎまで、二人は走った。



+++



「体、汗臭い。シャワー浴びたい」


 響が早朝の公園のベンチに座って、ぼやくように言う。


「仕方ないだろ。ホテルが見つからなかったんだから」


 ソウルイーターが淡々とした口調で言う。

 彼も少し、汗臭い。


「俺が番をするから二人とも少し寝ろよ。走り通しだろ?」


「……三時間で起こしてくれ」


 ソウルイーターは少し考えて、そう言う。

 僕は頷いた。


「任せとけ」


 そして、二人は地面に寝転がった。

 しばらくして、寝息が聞こえてくる。


 寝顔は普通の青年なんだけどな。ソウルイーターの素顔を見て、そう思う。

 けど、その下には邪悪な心が潜んでいるのだ。

 僕は身震いした。


 そして、今まで出た情報を振り返る。

 十人のソウルイーター。そのうち五人が生まれた病院。ホームページもなく、電話番号も場所もわからない。

 そこに、何かの秘密があるのは明らかだ。

 僕は、自分がなにか大きな流れの中に身を置いているのを実感していた。

 それは、悪い気分ではなかった。


 気になるのは、響だ。

 自分が母親の娘であることを確認したいと響は言った。

 もしも、それが違っていたら?

 バッドエンドへ行こうと二人で話あっていたが、それは流石に悲劇がすぎるというものだ。


 思考を止める。

 無駄なことだ。全ては、病院についた時にしかわからない。


「死んでるのか?」


 考え事で警戒をいつの間にか忘れていた。

 僕に話しかける、中年男性がいた。


 僕は苦笑して返す。


「いえ、寝てるんですよ。徹夜で走ってきたんで」


「学校はどうした?」


 痛いところを突かれた。僕らはどう見ても学生に当てはまる年齢だ。


「三人共フリーターで、旅をしているんです」


「うち、来るか?」


 中年男性が、ためらいがちに言う。


「ここら辺にはホテルもない。食事と睡眠場所は必要だろう。一日二日ぐらい骨休めしていけばどうかね」


 僕の頭は真っ白になった。

 適切な回答はなんだ?

 信用していいのか?

 答えは出ない。


「ありがたい申し出です。感謝します」


 そう言って、響が体を起こす。完全に寝入ってはいなかったのだろう。


「シャワー浴びたいだけだろ、お前」


 ソウルイーターがぼやくように言う。


「だって汗臭いの、嫌だもん」


 響は不満げに言う。


「それじゃあ決まりだな。おじさんの家に来るといい」


 そう言って、中年男性は歩き始めた。

 その後に、三人してついて行く。


(本当に信じていいのか……?)


 そう思いながらも、僕らは後をついていった。

 辿り着いたのは、立派な和風住宅だった。


「ただいま」


 そう言って、中年男性が扉を開けて中に入っていく。

 その後に、三人して続いた。


「シャワー借りていいですか!」


 響が食い気味に質問する。


「いいよ。廊下の一番奥の扉だ」


「ありがとうございます」


 響はキャリーケースを抱えて早足で進んでいく。


「呑気なもんだよ。なんでああかね」


 ソウルイーターはぼやくように言う。


「君達にも料理を作るよ。和食と洋食どっちがいい?」


「洋食」


 ソウルイーターは淡々と答えた。

 中年男性は、料理をしに移動を始めた。


「縁側の反対側が仏間と座敷だ。そこを自由に使ってくれ」


「わかりました」


 指示道理、仏間に入る。

 壁には、若い男性と、中年女性の写真があった。


「家族、亡くなってるのかな」


 僕は、小声で問う。


「しらねーよ。飯にありつけたのはありがたかった。チョコしか用意してないとかお前らガキかよ」


「そういう捻くれた物言いは好きじゃないな。カロリー取れるのは確かだよ」


「いいか、お前」


 そう言って、ソウルイーターは僕の前で座る。


「食事は栄養摂取だ。体を維持するのにも筋肉を維持するのにもそれなりの栄養素が必要になる。それをお前らはなんだ。チョコだけだ。お前それでも剣道部か?」


 痛いところを突かれた。


「俺は、今は戦士だ」


「まあ、お前のスキルは評価しているよ」


 そう言って、ソウルイーターはテーブルに頬杖をつく。


「お前はなんで病院を目指すんだ?」


 僕は立ったまま、訊ねた。


「身の上話は柄じゃない」


 そう言って、ソウルイーターは庭に視線を向ける。


「お前もあの病院で生まれた。親が違うとか考えたりするのか? 響は逃亡生活でできなかったけど、お前はDNA検査ができたんじゃないのか?」


 人殺しの癖に。その言葉を、辛うじてこらえる。

 しばらく、沈黙が部屋を包んだ。


「親は死んだよ」


 ソウルイーターは淡々とした口調で言う。


「悪いこと、聞いたな」


「いや、いいさ。俺が殺したんだし」


 僕は衝撃を受けて、言葉を失った。


「父がもう検査してるんだ。DNAは。一致していなかった。そして、俺の家は家庭崩壊した」


 ソウルイーターは庭を見ている。なにを考えているかは、こちらにはわからない。


「だから、鬱陶しくなって、俺は両親を殺した。それが俺の最初の吸魂だ」


 ソウルイーターは立ち上がり、部屋を出て行く。


「どこへ行くんだよ」


「周りの地形を頭に叩き込んでくる。もしもということがあるんでな」


 そう言って、しばらくすると、玄関の扉が開いて閉まる音がした。


「人に歴史あり、か」


 四桁の被害を出しているというソウルイーター達。

 その中には、彼のような悲劇を味わった人間もいるのだろう。

 その始まりは、なんだ?

 その病院に、なにがある?


 答えは、出なかった。



+++



 夕飯はステーキとオニオンスープとサラダだった。


「ここまで力を入れていただいて恐縮です」


 響が、本当に申し訳なさげに言う。


「いや、私は料理が好きでね。美味しい美味しいって食べてもらう姿を見るのが幸せなんだよ」


 中年男性は、微笑んだ。


「いただきます」


 そう言って、ソウルイーターは食事を始める。

 僕もそれに続いた。

 そして、多幸感に包まれた。


「美味しい」


「そうだろうそうだろう。おじさんは昔は店を持ってバリバリ働いていたからね」


「転職を考えてらっしゃるんですか?」


 響が戸惑うように聞く。


「いや。あることが起こって、人生を歩むのをやめてしまったんだよ」


 重い空気が場に漂う。


「いやいや、食事の場でする話ではなかったね。さ、たくさん食べておくれ」


 ソウルイーターが食事を再開する。そのスープはいつの間にかなくなっている。

 僕も、食事を再開した。


「本当に美味しいっすよ、これ」


「そうだろう、そうだろう」


 そう言って、中年男性は微笑んだ。

 そして、夜が来た。


「番をしながら順番に寝よう。特に、あの中年男性には気をつけるように」


 ソウルイーターが、与えられた個室で言う。


「あのおじさんを疑うのか?」


「なにか、できすぎている気がしてな」


 そう言って、ソウルイーターは顎を擦る。


「お前ってホント人間不信な」


「俺は誰も信じていないからな」


 ソウルイーターは歯をむきだしにして微笑む。


「まあ、番を決めましょうか」


 そういうことで、僕が最初の番になったのだった。

 縁側に座り、外の風を身に受ける。

 中年男性が、傍にやって来ていた。手にはビール缶を持っている。


「隣、いいかい」


「いいっすよ」


 中年男性は隣に座り、ビール缶を開けた。そして、勢いよく中身を飲む。


「君達が成人なら一緒に飲めたのにね。残念だ」


「成人したらまた来ますよ。料理食いに」


「ありがたいことだよ。これもなにかの縁というやつだね」


「そうですね。袖振り合うも多生の縁と言いますし」


 沈黙が漂った。

 心地よい風が吹いていた。


「あの、若い人の遺影は……」


「息子だよ」


 中年男性は、淡々とした口調で言う。


「できた息子だった。警察官でね。何人も逮捕する凄腕刑事だったんだよ」


「それは、自慢の息子だったでしょうね」


 警察官、という言葉にぎくりとする。僕らは今、警察に追われているのだ。


「けど、親より早く死ぬとは親不孝な子だよ」


 そう言って、中年男性はビールをもう一口飲んだ。


「それで、転職を?」


「ロングバケーションさ」


 そう言って、中年男性は笑う。


「ご近所からは不審がられてるがね」


 冗談か本当かわからずに、僕は曖昧に笑うしかなかった。

 僕は、ふと眠気に気づいた。

 昨日からの疲れが出たのかもしれない。


「少し、横になっていいですか」


「ああ、かまわないよ。君達は、ここでゆっくり休めばいい」


 優しい声がする。僕の意識は、普段では考えられない速度で、闇の中に落ちていった。



+++



 中年男性はスマートフォンを取り出し、考え込んだ。

 ソウルイーター対策室への電話番号を、中年男性は知っていた。

 息子がそこに所属していた縁で、逃亡中のソウルイーターの顔も知っていた。


 そう、中年男性は全てを知っていたのだ。

 スマートフォンの画面を眺め、考え込む。

 寝入っている少年の顔に、昔の息子の顔が重なって見えた。


 その時、背後に気配があった。

 振り返ると、そこには少年達一行の中では一番年長の青年がいた。

 資料によれば、三人の中で一番人を殺したソウルイーターだ。

 彼は、剣をこちらに突きつけている。


「スープに睡眠薬を混ぜたな?」


 ソウルイーターは冷たい声で、呟くように言う。

 闇夜に、赤い目の光が輝いていた。


「ああ、そうだ。君も、そろそろ効いてくる頃だろう」


「残念だがそれはない」


「なに?」


「俺はスープを蒸発させたからな。そもそも、飲んじゃいないんだよ」


 沈黙が漂った。

 ソウルイーターは冷たい目で中年男性を見下ろす。


「何故、迷った」


 中年男性は苦笑する。


「この少年が、若い頃の息子に重なって見えてね……殺人も犯していないようだし、悪い子には見えなかった」


 そして、言葉を付け加える。


「君は邪悪に見えるがね。私にも発現しなかっただけで超越者の素質はある。君の中からは沢山の悲鳴が聞こえてくるよ」


「生き残るためだ」


「そのための犠牲は仕方なかったと?」


 ソウルイーターは沈黙する。

 そして、訊ねた。


「息子さんの死因は?」


「心臓発作。ソウルイーターの犯行かはわからない。自然死だったかもしれない」


 中年男性は、庭に視線を向け、淡々とした口調で言う。


「私を殺すがいい。もう、生きる気力もない。ただ」


 そこで、その先を言うか迷う。その台詞は、息子への裏切りのような気がして。


「君達が食べている姿を見ていたら、死んだ家族を思い出して、和やかな気持ちになったよ」


「……そうか」


 そう言うと、ソウルイーターは剣を引いた。

 そして、少年の腹を蹴り飛ばす。

 少年は咳き込んで、目を覚ました。


「起こし方にも起こし方ってもんがあるだろ!」


「不寝番を請け負って寝てる奴に問題があるんじゃないか?」


「あ……寝てたのか、俺」


「おっさん」


 ソウルイーターは、淡々とした口調で中年男性を見る。


「俺達は逃げる。目的地がある。俺達の出生に関わる施設だ。通報するなら通報すればいい」


 そこで、ソウルイーターは邪悪に笑った。


「まあ、被害者が増えるだけだけどな」


 中年男性は黙り込む。

 息子のような被害者は、これ以上出したくない。


「なにがあったんだ?」


 少年は戸惑うように問う。


「今日も徹夜ってことだよ」


 そう言って、ソウルイーターは歩いて行った。

 少年は、中年男性と目が合い、にこやかに笑う。


「ありがとう、おじさん。少し休めたよ」


「……行き場所がないなら、ここでずっと過ごさないか? 君は、人を殺してはいないんだろう?」


 少年は、面食らったように少し黙り込んだ。

 中年男性も、自分の一言に戸惑っていた。

 そこまで、自分は寂しかったのかと。


 少年は苦笑した。


「一人の女の子を守ると約束した。俺は、そのために一生を使うつもりだ」


 中年男性は、その一言に驚いた。


「この町を守ると決めた。俺はそのために一生を使うつもりだ」


 それは、息子の台詞。

 少年と息子が、ますます重なって見える。


「……また、遊びに来るといい」


「うん。約束だ、おじさん」


 そう言うと、少年は歩いて行った。

 後には、中年男性が一人残された。

 庭を眺め、ビールを飲む。

 また来る、と彼は言った。

 だから、明日からは、酒浸りの今よりも、もう少し上手に生きれそうな気がした。

 そして、少年達が出ていく音がした。

 ポケットから、紙を取り出す。


 ソウルイーターの写真の下に、被害者の数が書いてある。

 尋常な数ではない。

 その中には、息子のような青年もいただろう。

 あの少年は殺人を犯していないからそんなに長く逮捕されていることはないだろう。

 中年男性は少し迷った後、スマートフォンを操作し始めた。



+++



「一日潜伏して相手は困惑しているだろう。迂回ルートをこのまま突っ切るぞ!」


 僕を背負った響を追いながら、ソウルイーターが言う。


「力技で?」


 響が、からかうように言う。


「数人なら俺達の勝ちだ」


「数十人なら?」


 僕は、恐る恐る訊ねる。


「餌が増えてオイシイが、逆に食われる可能性もあるな」


 ソウルイーターは洒落にならないことを言って笑う。

 そして、気がつくと、僕らの周囲には畑が広がっていた。


 銃声がした。

 響が、足を止める

 僕は降りて、地面に足をついた。


「止まりなさい、ソウルイーター。あなた達は完全に包囲されています」


 飛んで来たヘリコプターがそう告げる。

 開いたドアからは、狙撃手の姿が見える。


「さて、ピンチだな」


 ソウルイーターはぼやくように言う。

 数十人もの人間が畑の中を歩いてくる。


「……アラタ君」


 響が、気弱げにこちらを向く。


「フォルムチェンジ」


 僕は唱えて、戦士の姿になり、長剣を呼び出した。


「冒険の最後まで行く。そうと誓った!」


 響は苦笑する。


「そうね。私達は辿り着かなければならない。病院に」


 この包囲から脱出する。

 その決意は、僕の中で揺るがなかった。



第七話 完

今日と明日で二章の終了から三章の中盤までやります。

ストック溜め過ぎました。


次回『包囲脱出戦』

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