そして導き出す。
「サーカス団に鍵開け職人とかいねぇかなぁ。前科者とかもいるってチラッと聞いたし」
「たとえいたとしても危険な任務だ。巻き込めないだろう」
「せめてアレスさんみてぇに戦えそうな特殊能力とかだったら良いンすけど…………」
思い付きのままに笑い交じりにいってくれるアラン隊長に、カラム隊長が第一優先事項を告げる。
アーサーの言葉に私も一瞬どっきりしたけれど、彼が鉄を凍らせて壊せるかどうかはちょっと私もゲーム知識ですらわからない。というか、アレスもちょこっと喧嘩早いだけで戦えるかは微妙だ。氷の特殊能力を戦闘できちんと生かせる子だったら、奴隷商に返り討ちなんてされなかったと思う。
特殊能力としては優秀であることは間違いない。ただ、ゲームでも奴隷からサーカスという流れしか語られなかったし、それ以上物騒な職業についたことはないのだろう。ある意味、キミヒカのオリウィエルに支配されたサーカス団に所属していた時が一番彼にとっての物騒な職業履歴かもしれない。彼女のサーカス団は完全にラスボスに相応しい悪組織だったもの。
アレスの名前を出したアーサーも、彼に頼もうとまでは言い出さないところから多分いくらか彼の実力は悟っているのだろう。アレスを痛めつけた奴隷狩り達をボッコボコにしたのはアーサーとハリソン副隊長だ。
「ヴァル、意地悪言わないで少し組むぐらい良いじゃないか。どうせならもっと良い報酬を条件にしたらどうだい?」
「なんならテメェの弟連中と組んでやろうかレオン?役にさえ立つならな」
ぐぅ。
まさかの手痛い返しに、レオンも困った顔で眉を垂らして口を閉じてしまった。なんて恐ろしい禁句をさらっと!!!この場の全員がレオンの前で言わないようにしていたのに!!!!
唯一知らないジルベール宰相が声に出さずともきょとんと興味深そうに眉を上げた。
レオンから始まり私達の顔を確認すれば、きっと察したのだろう静かに数秒目を瞑って、それから何事もない表情に戻した。多分、察したうえに言及せず敢えて飲み込んでくれたのだろう。ありがとう空気を読めるジルベール宰相。
確かに貧困街、も手ではある。もともと軽犯罪で生計を立てている彼らなら、盗みや脱獄の為に解錠ができるような腕の人間が一人二人いてもおかしくない。ついでに乱闘も得意ですという人もいるかもしれない。それこそエルドに聞けばすぐに見つかるだろう。ただ、…………いくら軽犯罪組織とはいえ今回の件は規模が違う。
それに、貧困街の住民を直接巻き込むことはレオナルドが許さないだろう。ただでさえ彼が目を覚ましてから約束を守ってくれるかも賭けに近いのに、自分のところの一人が巻き込まれるなんて知ったら絶対に殴り込みに来る。彼はそういう人だ。
ステイルからも「貧困街と組むのは避けたい」と短い却下が入る。一緒に行動しないとはいえ、騎士団が動く以上そこに現地の非合法軽犯罪組織に協力を求めましたは後々バレた時が面倒なことになる。
アーサーのお陰で少し凪いだステイルだけど、まだ顔は険しいまま腕を組んでいる。これはヴァルが折れるのを待つではなく、絶対最適案を出したいのだろう。ジルベール宰相を言い負かそうとするときに似ている空気だ。
「今からでも解錠や腕に覚えがある者を探させましょうか?それなりに大きい街ですし、そういった融通の利く依頼募集の張り紙も、三件覚えがあります」
「なるほど、流石はセドリック王弟殿下。報酬さえ前払いにすれば足も付きにくく都合も良いでしょう。いっそ裏稼業や奴隷狩りなどを選び、使い捨てて一斉検挙はいかがでしょう」
ヴァルとも相性が良さそうですし、と。セドリックの提案にジルベール宰相から恐ろしいアレンジが加わる。ジルベール宰相本当に人身売買に容赦ない。セドリックが自覚がなかっただけでそういう張り紙の「なんでも請け負います」系統は、治安の悪さに比例してそういう輩が営んでいる可能性が高い。
セドリックもこれには一回肯定されたものの「そ、そこまでは」とたじろぐように大きく瞬きした。本人は本気で腕に自信のある便利屋を雇うくらいの感覚だったのだろう。
ジルベール宰相も本気ではなかったのか、すぐに「まぁその前に信用に足るかは別問題になりますが」と苦笑気味にセドリックへ笑いかけた。捨て駒一網打尽作戦も、また効率的とはいえるけれどやっぱり貧困街と同じような問題は発生しかねない。それこそ、闇オークション側の人間だったらそこから情報が向こうに渡る可能性もある。せっかく情報を得たのにここで対策や延期になれた方が面倒になる。
なかなか難しい。ヴァルだけはそうして私達が悩んでいるのを眺めながら、欠伸をこぼしていた。
こちらを困らせるのも込みで、本当に本人は対処を考えるつもりはないのだなと改めて思う。あまりに涼しい顔に、屏風の虎を退治しろみたいな得意げさすら感じられてしまう。
ステイルは特に考えていて、次第にぼそぼそと「使うか……?」「いやしかし紛失した時に取り返しが……」と何か葛藤するかのように、考えていることがぽつぽつ口から零れていた。何か案は浮かんだようだけれど、どうやらあまり使いたくはない手のようだ。
なるべく案を出す方向でと皆が思いつくそばから可能性案を出す中で、無言どころか考えるそぶりすら見せないハリソン副隊長に、その横に並んでいたエリック副隊長が「何か案は……?」と尋ねてくれた。けれどもちろんハリソン副隊長からは「ない」の一言だ。多分、ヴァルが折れれば良いというのが結論なんだろうなぁと思う。
エリック副隊長も予想はしていたのだろう苦笑いだ。
「流石に、脱獄できるような技術か特殊能力を持った上で、荒事や裏稼業関連の対処に慣れた人間は騎士以外では難しいですね……。それこそヴァルのような元裏稼業や前科者──……!」
ハッ、と。…………息を飲んだのはエリック副隊長本人だけではなかった。私も含めた複数人が、ほとんど同時に息を飲むか一音を漏らす。
エリック副隊長も誘導ではなく言いながら気づいただけらしく、途中で言葉を止めたのがその証拠だ。今も自分の発言をやや後悔するように苦笑していた顔が今は引きつっている。瞬きもできないまま固まったエリック副隊長に、私達も気づいてしまった以上そのまま凝視してしまう。
いた、一人だけ。ものすごくピンポイント過ぎる人物が。
「……ヴァル。本当に、騎士や子どもそして王族でなければ協力するんだな?」
「アァ?……あー。文句は言うだろうがな」
ステイル……!
恐ろしいまでに温度を失わせた抑揚皆無のステイルの投げかけに、ヴァルも思いつくまでは至らずとも嫌な気配は感じ取ったように少し言い淀んだ。
その三項目でなければ誰でも良いという気持ちと、多分文句は出る相手と予感はしたのだろう。眼鏡の黒縁を押さえながら軽く俯くステイルは、もう決定事項のようだった。
ヴァルの返答に、フッとステイルが小さく笑う音が耳を掠めた。あああああああああああもうこれは決定かもしれないどうしよう、いやもうどうしようもない。
今のところ他にピンと来ていない様子なのはレオンとセドリック、そしてハリソン副隊長くらいだろうか。あれ、セドリックはヴァルが前科者なのも知ってたかしら。
いやでも、ここで仮決定しても〝彼〟がどう言うか……。
後ろめたさを払拭するように、私から反対意見を出してみれば一音目から自分でもわかるくらい弱弱しい声になってしまう。
「で、でも……荒事までは大丈夫かしら……?アレスみたいに戦闘は不得意の可能性も」
「あーーそれは大丈夫です、絶対」
「アラン、言葉を遮るな。不敬だぞ」
ハハハ、と。若干枯れた笑いを溢したアラン隊長に、振り返れば注意するカラム隊長もそれ以上に難しい顔で眉間に皺がぐぐぐっと寄っていた。アラン隊長に対してよりももっと複雑そうな顔だ。
カラム隊長に注意されて「すみません」と一度謝ってくれたアラン隊長だけど、そこは気にならない。それよりも、いつもカラッと笑うアラン隊長の目が笑ってないことの方が気になった。クリストファー団長を相対した時みたいに引き攣ってすら見える。
私の方を向いているようで、目が遠い。そういえばアラン隊長とカラム隊長だけは
〝ライアー〟と戦闘をしたことがあるお二人だ。
「騎士相手ならともかく、裏稼業が簡単に勝てる相手じゃありませんね。そこは俺が保証します」
そう断言するアラン隊長に、カラム隊長も今度は口を閉じたまま前髪を押さえて難しい顔のまま目まで数秒閉じてしまった。なんだろう、アラン隊長の発言にものすっごい重みを感じてしまう。
ライアー。元裏稼業だけど、奴隷被害者として保護された彼は保護観察中でレイ達と平和に我が国で過ごしている。
炎の特殊能力者としての優秀さは第二作目攻略対象者である俺様レイ様が認めるほど。奪還戦では、洗脳を受けていた彼をアラン隊長とカラム隊長達が確保したらしいけれど、この様子だとなかなかの健闘ぶりだったのかもしれない。
私達が知っているだけでは飄々としたおじさんくらいの印象のライアーだけど、保護が条件だったとはいえこの二人に煮え湯を飲ませたとすれば間違いなく戦力だ。アラン隊長の言い方はどう見ても冗談を言っているようには見えない。今だって珍しく笑顔がぎこちない。
「ち、因みに枷や檻を壊すことや解錠はアラン隊長達の見立てでは……?」
「可能ですね。アイツ、特殊能力で鉄も溶かしてましたから」
アラン隊長の!!アラン隊長の目が!フリージアより遠くに!!!!
あまりにも珍しい姿に質問した私まで顔が引きつってしまう。
アラン隊長にだけではない、いつもこういう時は冷静なカラム隊長まで我慢ならないように常に整っている髪を片手で鷲掴みグシャりとしていた。口こそ堅く結んでいるけれどアラン隊長の十倍苦々しい表情だ。ていうか待って鉄溶かすのあの人?!!
騎士団でも炎系統の特殊能力者はいるけれど、鉄まで溶かすような威力は聞いたことがない。
ライアー、一体このお二人に何をやったのか。彼は奪還戦の記憶を取り戻すことはないけれど、本当に何やらかしちゃったのか気になる。今尋ねようにも、アラン隊長にもカラム隊長にも、とても聞ける空気じゃない。アラン隊長の側近の部下であるエリック副隊長もわからないように首を傾けているということは、多分話したくないことなのだろう。
考えれば考えるほど冷や汗が滲んでくる。流石は黒炎の特殊能力者であるレイの関係者というか、改めてとんでもない人だったんだなと思う。
もう逃げ場ものない推薦枠に、ジルベール宰相がパチパチと手を叩く。「決まりのようですね」とにこやかな笑顔で確定すると、今度はライアーに依頼を受けてもらう為の具体的な報酬内容まで提案し始めた。
ライアーに会ったことは一度とはいえ、彼の情報についてだけは資料として頭にあるのであろう天才謀略家による報酬だ。
ただ、問題はライアーよりも……、……。
「残す問題はレイが、認めるかですね」
「そうね…………」
「いや無理だろ。アイツ、ライアーに関してはすっっっげぇ面倒くせぇぞ」
やはり同じ結論に達していたステイルに私も相槌を打てば、アーサーが思い切り首を横に振った。ライアーとレイの詳しい過去は知らずとも、レイがどれだけライアーに関しては過敏かつ心配性かは二人もよく知っている。そのせいでプラデストでは本当にいろいろ大変だった。
学校私物化に始まり、ぶち切れて自分の屋敷に大穴あけたり一人で夜道歩いて裏稼業ごと大火事起こしかけたり、ライアーの就職先でも大火事一歩手前で、解決した後にも外出していたライアーが帰ってこないを理由に遅刻ギリギリだったこともある。
まぁ過保護になる理由も無理ないし、それだけ彼にとってライアーが大事だということなのだけれど。……そう、大事なのだ。ものすっっっっごく。
思い返してしまえば、余計に無理難題感がすごい。もともとケルメシアナサーカスの情報をくれたのもライアーだけど、彼が奴隷として売られるまでの記憶としてだ。それを、奴隷被害に遭ったライアーを、奴隷売買最高峰の闇オークションで、しかも奴隷のふりして潜入して裏稼業組織相手にひと暴れして欲しいなんて、聞いただけでレイが大火事を起こす可能性もある。
ライアーが頷いてもレイが頷いてくれる図が想像つかない。いっそ学校さぼって一緒に行くとか言い出しそうでそれはそれで困る。彼も今学校で更生込みの執行猶予期間なのに。
「一応ジャンヌ達の親戚として顔見知りの俺が依頼に行きます」
「!自分も、御一緒します。同じく一度以上はライアーとも顔を合わせていますので……」
苦笑いのアラン隊長が自分からステイルに挙手をすれば、エリック副隊長も慌てたように手を挙げた。ライアーと関係したというだけでなく、多分ライアーに辿り着く発言をしてしまったことの申し訳なさもあるのかもしれない。
ステイルならレイの家の前にも彼らを瞬間移動できる。あとは時間を決めてまた迎えに行けば良いだけだ。交渉役には頷いたステイルだけど、まだすぐには瞬間移動しない。
ジルベール宰相を指先の動きで傍に呼び、作戦会議までし始めた。まさかの天才二人による最初の議題がライアーへの依頼に、どうやってレイから許可を得るかだ。ステイルからざっくりとレイの人物像を確認したジルベール宰相がレイが頷くような報酬を提案しては、ステイルもレイが絶対にライアーに同行はしない、もしくはしたがらない理由付けを考える。
あくまで依頼相手はライアーだけだから、レイに依頼そのものを秘密にとジルベール宰相が提案したけれどステイルから「やめた方が良い」と首を振る。もうライアーが数時間行方不明になっただけでどうなるか考えるだけで怖いし、何よりレイ本人が辛い想いをすることになる。ならばレイが納得するような嘘の理由をでっちあげてと二人の中での試行錯誤が重なる中、…………ただ、それについては。
「……………………。あの、…………それについては………私、から……」
ぐぐぐぐぐ………と、まるでふた昔前の鎧でも着ているように身体が重くなるのを感じながら手を挙げる。
絞った声で、みんなに目を合わせることもできずに下を向いてしまうまま、それでも全員の視線が集まるのを感じた。ステイルとジルベール宰相の言葉が止まっている。
もう、仕方がない。ライアーを無事かつ安全に帰すことは大前提として、ライアーに断られる可能性も、レイに断られる可能性も受け入れたい。レイが嫌がる理由だって私はよくわかっているつもりだ。そしてジルベール宰相が提示するような報酬を前にしてもライアーが断るのなら、それはもう無理強いすべきでもない。
けれど、今日一日だけで私の我儘に付き合ってくれて、信じられないほどたくさん協力してくれたヴァルが、明日の面倒ごとまで請け負ってくれると言うのにここで彼に「我慢して」なんて言えない。もうすでにヴァルだって十分すぎるほど我慢して力になってくれている。
そしてステイル達がヴァルを安全に任務遂行させたいことも、そして完璧に間違いなく奴隷被害者を助け出したいことも、闇オークションを潰したいのも私だって同じ気持ちだ。〝予知した民〟の為に私が作戦に加わることを許してくれている皆に、私もここで自分ができることは例え何であろうとも最善を尽くさなければならない。
「……レ、レイに………………」
ぎゅぅうううと眉間が痛くなるほど力を込めながら、頭の中で「ごめんなさい」と百回は繰り返す。
そうして提案した私からのシンプル過ぎる解決策と、一つの許可希望に、…………三秒近くの沈黙後、賛成が返ってきた。なんとも生暖かい、気まずそうな賛成の声々を受けながら私は口の中を七回飲み込み、
良心の呵責と闘いつつ頭の中で俺様レイ様に土下座した。
後書き
「バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~」 略して「バドいち」連載中です。
本日更新致しました!!!
第二章まで完結しました。
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