表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2278/2310

Ⅲ246.義弟は思考を続ける。


「待ってください」


エルヴィン、いやエルドに笑みを作って俺は呼びかける。

正直愛想の一つもくれてやりたくない男だが、一応この貧困街では最高権力者だ。何より用事をさっさと済ます為には最低限の機嫌は損ねない。

ネイトの発明による効果が大きいとは思うが、毒に侵されていたという人間が治ったことに「もう用はねぇな」の一つで済ますこの男は見かけ以上に雑な人間だ。

薬が底を尽きていることも、組織の上に立つ人間ならわかっていることだろう。それならば男に使用した薬をどうしたのかくらいすぐ疑問を持つべきだ。それを俺達の存在どころか、薬の出所にも思考が回らないのはやはり相変わらず愚かな男だなと思う。

呼びかけて初めて、俺達に意識が向いたエルドは最初は僅かに口が開いたままだった。いつの間に俺達がいたのかは流石に疑問に思ったらしい。来た時のように「うるせぇ」で去られない分、虚を突いた甲斐はあった。この機を逃がさない。


「薬の提供。僕らがさせてもらいました。結構な額の品でしたが、緊急事態なようだったので。貴方も、死者を出すことはしたくなかったようですね?」

「それがなんだ。金持ちがたかが薬一本に金をせびるのか?」

さっさと挨拶を済ませ、いざこざは勝手に内輪でやってもらう。これ以上プライドをよその面倒ごとに巻き込ませるわけにはいかない。俺達の望みはそれだけだ。

不快そのものを顔どころか全身で示すエルドに、笑みを固めたまま「いえそんな」と首を横に振る。恩着せと嫌味を込めてやったお陰でまだ足を止めている。人より頭が良いと思い込んでいる奴ほど、論破したくて足を止めるからやりやすい。こういうところはいくら愚かあっても馬鹿ではなくて良かったと思う。

もともと、薬なんか存在しない。全てはアーサーが上手くやってくれた成果だ。もし本当に薬でも請求なんかするわけもない。

しかし、この男も今まで自分の尺度で俺達と対等にやってきたつもりの分、ここで一方的に施されるのも気分が悪いに決まっている。こういう気位だけが無駄に高い奴の扱いは、今日まで百以上相手にしてきてる。……なにより


「貴方の時間を一分ください。こちらも早々に挨拶を済ませたいだけです。さっさと縁切りしたいのはお互い様でしょう?」

皮肉にも〝俺だから〟余計にわかる。

腹が立つだろう屈辱だろう不快だろう。皮肉を言われ上に立たれた相手に、大勢の前で、身内同然の幹部の前で恥など掻きたくないだろう??

男らしく人の上に立つ人間らしく、器の広いところを披露したいだろう。ただでさえお前は今、仲間の窮地という現場に間に合わず解決してからのこのこと駆けつけたのだから。

他の誰もが思わずとも、いくら取り繕うともお前自身が間抜けで肝心なところにいない無様な姿を晒したと思う筈だ。ここで仮にも命を救ってやった部外者に義理の一つも返さずに、たかが一分を惜しめるわけがない。しかもお前みたいな奴は、自分を見上げてくれる人間の目が気になって気になって仕方が無い。

アーサーが見ればきっと引き攣るだろう笑顔を貼り付けたまま進言すれば、思った通りエルドは一蹴しなかった。苛立たしげに表情筋を歪め、歯を食い縛りながらも言い返さない。ちらりと一瞬周囲の反応を確認したのも見逃さない。


「本来ならばこの状況も含めて説明して頂ければ幸いですが」

「……。俺のテントで待ってろ。話はそいつらから聞け」

要求を敢えて増やしてみれば、打ち止めするべく認可も下りた。たかが一分この場でも済ますくらいできないのかとも思うが、まぁ時間を取ってくれただけ良しとしよう。

先ほどまで毒に侵されていた男のテントへエルドは向くと「話してやれ」と命じ、また歩き出した。「あ、おう」と低姿勢の男達に一瞥もくれず、勿論俺達にも目もくれない。新たに道を空ける貧困街の人間も、頭を低くしながら彼を見送った。

不満も見えなければ恐れの色も大してない。幹部の男も黙ってエルドの後ろに従った。「どうも」とにこやかな笑みのまま返し、今はそのまま見送った。

幹部に逆上されない程度の人望はあるのだろうが、それでも意外な面もあったものだと小さく思う。どういう理由であろうとも、毒にやられた仲間の為に忙しさを押してまで駆けつけるとは正直思わなかった。むしろ幹部であろうと見殺しにするような男だと思った。

ただ、治った後の彼にはもう用無しといった態度を見ると、心を配っているという程にも思えないが。


「それでエルド、どうだった?」

「話にならねぇ。どうせ殺すんだ、やり方ならいくらでもある」

……やはり相変わらずか、もしくは更に染まったか開き直っただけにも思える。

さっきまで首領首領とうるさかった幹部が、エルド本人には砕けているのを見ると少しはまともな関係の相手も弟以外いるのかと見当付ける。…………まずい。これ以上無駄に考えると全部自分に返ってくる。

やめよう、と。意識的に自分に言い聞かせ、顔ごと目を彼らから背け口の中を飲み込んだ。昨日はあまり眠れなかったから雑念が多いのかもしれない。

気をつけよう。物騒なやり取りも、所詮ラジヤ帝国の植民地で、貧困街という集落という狭い世界ではきっと日常だ。


俺が息を整える間にも、エリック副隊長がそっと代わりに前に出てくれていた。正確には、プライドが出ようとしたのを代わりに動いてくれたのだろう。今はアーサーがアラン隊長と挟むようにプライドをみててくれている。

「体調はいかがですか」と片膝を折り柔らかい物腰で尋ねるエリック副隊長に、男もすぐに応じてくれた。正直、ついさっきまで死にかかって自分の状況もあやふやな男へ、よりによって俺達のような部外者への説明を丸投げするのもどうかと思うが。

もっと他にも大勢いたというのに、目が合った程度の理由でエルドは選んだのだろう。彼は彼で騒ぎを起こしてしまったらしい自らの状況にずっとエルドへ腰も低く顔色をうかがっていたから必然だった。本来ならば、彼自身が周囲に状況を確かめたかったくらいだろう。不憫としか言い様がない。

唯一の幸いは、アーサーの特殊能力で、実際は一日安静にしなくても体調に問題はないというところか。


エルドから許可を堂々と得た効果はあり、エリック副隊長にも反発する様子はない。もともと、貧困街の人間自体も女性や子どもは一般人と変わらない。男性も全員が粗暴で横柄というわけではなさそうだ。薬の件でも、少し恩に感じてくれているのもあるかもしれない。

一体何がと、尋ねるエリック副隊長の言葉に男はがっしりとした体格を小さく狭め答えた。


「俺が馬鹿だったんだ。何も考えず飛びかかっちまって返り討ちでこのザマだ」

「相手は何者でしょうか。最近、貧困街では男性の姿を殆ど見ませんでしたが……今日は随分多いようですね」

苛立たしげに歯噛みする男に、逆撫でないように尋ねるエリック副隊長は声色にも気を払っているのがわかる。

最近、という言葉にそういえば彼はセドリックと行動を共にすることも多かったと思い出す。今日はセドリックの護衛についていた騎士のジェイルとマートもいない分、彼が一番貧困街の様子は覚えがあるだろう。

当初より男性が多いのは俺も、恐らくこの場の全員が気付いてはいる。しかしここ数日の間で明らかに今日の変化が大きいならば、やはりこの騒動が関わっているのだろう。

腕を組み、今はエリック副隊長の尋問に任せる。

指摘された男は一度苦々しく歯噛みをした。この場にいない相手に怒りをぶつけたいように拳を握り、足を組む。「まだ安静にしてないと」と背後で付き添っていた女性が肩を支えると、俯き出す男の代わりにその女性が今度はエリック副隊長に口を開いてくれた。


「井戸に、毒を盛られたんです。手遅れになった人も出て、お陰で私達は住処を移す羽目になりました」

以前の住処。そういえば、もともと彼らがケルメシアナサーカス団の近くに住処を移したのは最近だったと思い出す。

つまり、毒を盛られたという井戸も以前の集落場所で使用していたものだろう。

てっきりサーカス団の集客力に目を付けて盗みの標的にする為だけに移ったのかと思ったが、それ以前に住めなくなった理由があったのだと聞けば納得もいく。井戸などどこにでもあるわけではない。これだけの人数がいる集落では、やはり独占できる井戸の存在が近くにあることは不可欠だろう。

生命線でもあるその井戸をまるごと一つ潰され、更には死者が出たのならば、貧困街全体が報復に燃えるのも納得はできる。井戸一つで村一つが死ぬことだってある。


もともと非合法の集落である貧困街だ。良く思わない者も、軽犯罪の被害者に恨まれる場合も、当然排除したいと考える人間もいる。井戸一つで一網打尽を考えたとしてもなんら不思議ではない。この上なく効率的で、卑怯で非道で不快な手法だ。

なるほど、毒を盛るような頭のおかしい相手に女子どもは置いて男達で躍起になったとなればあの閑散とした男手の不在も理屈が通る。たとえ住処を移そうと、一度自分達を毒殺しようとした相手を野放しにしておけるわけがない。

復讐の問題ではない、またいつ次の住処でも毒を盛られるかわかったものではない。俺でも犯人捜しは徹底しただろう。


「男手は毒を盛った犯人捜しに出ていたんですけど、今日やっと……」

「やっと見つけたんだ!!エルドのッ首領の言った通りだった!!あのクソ野郎!街外れの井戸を張ってたら現れやがった!!」

苦しげにいう女性の言葉に、カッと火がついたように男が怒鳴り出す。途端に、彼だけではなく周囲で聞いていた人間も「そうだ」と口々に頷き目を尖らせ敵意を露わにした。怒りを抱いていたのは彼ら全員だ。

エルドの言う通り、という言葉に少し引っかかれば、どうやらあの男も考える頭は残っていたらしい。


毒を盛られた日の早朝、夜明けに近い時間帯に見知らぬ人間が井戸で水を汲むのを貧困街の住民が何人か目撃していた。

もともと貧困街は部外者に排他的ではあるが、商業目的でもない限り井戸を使う人間を追い出すことはしなかった。早朝で人も少なかったこともあり、気付いた人間はいても咎めるものはいなかった。……が、その後に毒の被害が出た。

犯人は間違いないと、その人間の姿と背格好を頼りに貧困街だけでなくこの街中の井戸を張っていたらしい。自分達の新しい住処の井戸には当然見張りは気付かれないように立てていたが、……エルドは自分達が狙われた可能性だけでなく街や裏通り、もしくは無差別犯の可能性も鑑みたと。貧困層から裏稼業のいる裏通りまでも範囲を広げ、そして今日見事に釣り上げた。

貧困層や裏家業の人間を無差別、と犯人の思考を考えるところは、彼自身がそっち側の思考を持ったことも関係するだろうと少し思う。もともと、奴隷や民をなんとも思わない男だ。……駄目だ、また雑念が。


首を一人大きく振り、思考を払う。今はネイトのゴーグルだが、いつもだったら勢いを付けすぎて眼鏡を吹っ飛ばしていたかもしれない。

ドンと、不意に背中から振動を受け振り返る。見れば、アーサーが手を伸ばし俺の背中に当てていた。いきなりなんだと横目で睨んでやれば、据えた目で見返された。冷ややかにも見えるその表情が「しっかりしろ」と言っているのが言葉にされずとも長い付き合いでわかる。やはり、少し調子が崩れていたらしい。


そうですか、大変でしたね、と。エリック副隊長が男達から話を聞いてくれる中で、意識的に深呼吸を繰り返す。

しっかりしろと、今度はアーサーからではなく俺から俺自身に言い聞かす。今一番大変なのは俺じゃない、プライドだ。俺の苛立ちや殺意など、軽いものだ。

俺だって可能ならばあの忌まわしき男を始末してさっさとティペットを心身ともに解放して終わらせたい。しかし、今他でもないプライドが原点に立って本来の目的に努めているのに俺が目を曇らすわけにはいかない。

あくまで平静に、そして冷静に彼女の補佐として立つのだと昨日改めて覚悟を決めた。プライドがなるべく彼女の望む通りに、予知した民の捜索に進めることを最優先に



「……ジャンヌ?」



視線が自然と向いた先で、その顔色に気がついた。

先ほどよりも血色が悪い。顔が引き攣り強張っているように見える。呼びかけると同時に手を伸ばしその肩に触れる。

俺の声に反応し目を動かしてくれた彼女は、それでも表情がぎこちない。「ハハッ……」と苦笑いに近い笑い声で額から汗が落ちた。紫色の瞳が左右に酷く揺れている。

アダム、ティペット、それともと。傍に立っていたアーサー達もプライドの顔色を気にして見つめる中で、複数の可能性を想定する。

怯えは、感じられない。彼女に許されるのを確かめながらそっと指の腹からなぞるように彼女の肩を撫で、包む。良かった、震えもない。

ならばと、第一に考えられる予想を立て彼女と目を合わす。背後からはエリック副隊長に話す男が、その毒の主犯をどうやって追い詰め捕まえたかを熱弁しているところだった。

まさか、と。声を潜め彼女に聞けば、その先を言う必要もなかった。コクコクと、震えではない意思をもって頷き俺と目を合わす。そのまま今追うかのようにエルドが去った方向に視線が動いた。……間違い無い。


肺から息を絞り出し、整える。

良かった、ティペットでもアダムでもない目的に足が掛かった。まだエルドに関わらなければならない面倒よりも遙かに安堵が勝る。「お話中にすみません」と話し途中であることを踏まえて謝罪を入れ、止める。

エリック副隊長もプライドの変化には気付いて意識を払ってくれていたらしく、すぐに引き締まった表情でこちらに向いてくれた。事情を話してくれた彼らからもっと詳しく聞くのも無駄ではないだろう。しかし今はまず




『どうせ殺すんだ、やり方ならいくらでもある』




「その主犯は今どこに?」

確保を、優先する。

にっこりと社交的に笑みながら、プライドが予知した民の居場所を探る。黒い空気が全身から渦巻いているだろうと自分でもわかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ