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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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そして隠す。


一緒に逃げてしまおうかと。


そう、思えたから逃げないでいたいと決められる。

泣きはらした顔が、涙の痕でどこもベタついて髪が何本も細く張り付いた。それでも清々しく思えるのは、きっと彼のお陰だろう。

抱え込んでいたまま曲げていた足も力が抜けて、伸びてしまう。床にぺったりと伸ばしたところで、うっかり膝下が見えてしまう。慌てて寝衣の裾を伸ばして整えたら「なんだ見せねぇのか」とまた笑い混じりの声でからかわれた。

肘で軽く突いて反撃して、毛布を取ってこようかしらと思ったけれど今はこの場から動きたくなくて諦めた。夜目が利くらしい彼に、この暗闇が少しでも意味を成してくれることを祈るしかない。

窓の開けて部屋の温度は下がったけれど、まだ彼の温もりのお陰で寒くはない。また大きく息で胸を膨らませ、吐き出した。


「……もうめいっぱい泣いたから大丈夫。貴方のお陰です」

「一人で泣く気だった奴がよく言うぜ」

「もう貴方がいるじゃない」

息混じりに言われた嫌味に、私からも揚げ足を取ってみたらピクリと彼の肩が揺れた。

正確に言えば一人で震えるつもりだっただけと言いたくもなったけれど、同じだろと一蹴されるだろうなと言う前にわかった。まさか泣いてしまったのは想定外だったけれど、泣き顔を見せた相手がヴァルで良かった。

そんなことを考えていたら「タチがわりぃ」と舌打ちの音と一緒に溢された。心配して見にきてくれたのに、ちょっと嫌な返しをしてしまったかしらと反省する。素直にありがとうと言えば良かった。

だけど今それを言うと、この時間も切り上げられてしまいそうで躊躇う。もうこのままうたた寝できてしまえれば良いのにと思うけれど、それは廊下の騎士達も許さないだろう。ヴァルにも更に迷惑がかかってしまう。

時計に目を向けて、最初はよく見えなかったけれど凝らせばぼんやりと時間も読み取れた。

はやく明けて欲しかったのに、今はもうちょっと夜が長ければ良かったのにとこっそり思う。今から寝ても絶対寝不足だ。


「……ティペットも、助けたいの。それは変わらず本心よ。けれど、やっぱり民のことも助けたい」

ぽつりぽつりと、聞かれてもいないのに口遊むような感覚で言葉に出る。

独り言のような声は、風の音に流れて彼に届いているかどうかもわからない。それでも聞いてくれている気がして、言葉を続けてしまう。膝を抱える必要もなくなった手で指を組み直しながら思考を回す。


彼女の捜索を諦めたのも、本心。だけど、やっぱり彼女のことも助けたいと思う。

まだ事情も確証までは掴めない、彼女とまともに会話をしたことがない私には彼女の本心もわからない。ただ、ゲームと同じ心優しい天使のような主人公のティペットがまだ彼女の中に隠されたままなのだとしたら、一秒でも早く解放したい。ゲーム開始時までの彼女に何があったのか、知りたい。彼女の口から聞かせて欲しい。

できることならこの街で彼女を確保して、先生にも会わせてあげて、フリージアに連れ帰りたい。安全な我が国で、安全な我が城で、ゆっくりと第一王女と奴隷被害者の民として会話をしたい。意思だったのか、洗脳だったのかを自分の目と耳で確かめたい。

ただそれは、私一人の力じゃきっと無理だから。……正しくは、私一人の力ではきっと自分を引き換えにしないと叶わないから。

私がまたアダムに捕まってしまえば、嫌でも彼女と話す機会は得られるだろう。でもそれじゃあ、私自身を守りきれない。もうそういう……自分自身を粗末にするやり方はしたくない。


「だから、明ちゃんと民の捜索に集中するわ。この手で、……救える民は救いたいから」

「見つかるまでここに住めるとでも思ってんのか?」

「…………………………………………」

不意に、今度は返された言葉に不思議なくらい自分の目が開かれた。

鏡を見なくてもわかる、皿のように丸くなってしまった目で彼を見る。いつの間にか片膝に頬杖を付いていた彼と、すぐにまた目は合った。私の反応が意外だったのか、どこかきょとんとした表情で見つめ返される。「あと一日じゃねぇか」と言われれば、どこか絶望的にも思えて、…………そういうのも良いのにと思う。

フフッ……!と、手で口元を隠して背中を丸め笑う。嫌味に聞こえた彼の言葉に、何故か胸の底が解きほぐされる。夜中に大きな声は駄目だとわかっているのに、今度は嗚咽じゃなくて笑い声を抑える為に両手で口を覆った。フフッ……アッハハハ……と、変なツボに入ってしまったように笑いが止まらない。パタパタと伸ばした足を小さく跳ねさせてしまう。

堪らなくて、一度膝をついてヴァルの肩から顔を起こし背後へと身体ごと振り返る。まだ暗い、でもずっと向こうがさっきよりも少し明るさを滲ませて見える景色の先で、窓枠に肘をついて突っ伏した。フフフッ……と、肩が震え、ちょっと息が苦しい。

「おい主」と呼ぶヴァルの声がちょっと困っていそうでまた笑いが込み上げる。当たり前だ、彼は全然楽しいことなんて言っていない。

フフッ、ハハハッと小さい音で笑い声を漏らして顔を上げる。眉間に皺を寄せた彼に、眉が垂れた正面を向けて笑いながら言ってしまう。




「ほんっと嫌になっちゃう」




ハハッ、とまた笑いが漏れた。

きっと訳の分からないだろう私の言葉に片眉を上げるヴァルに笑いかけながら、涙を指で拭う。今度は笑い過ぎて涙が出てきてしまった。ああもう駄目、ほんっとうにこの人は。

頭の冷静な部分が、静かにしなきゃ、騎士に聞こえちゃう、隣に母上だっているのだから、窓も開いていると、そう唱えるのに、なんだか全て何でも良くなってしまう。ハハハッと音を我慢する分、肺が苦しくなる笑い方になってしまってちょっと咳き込んだ。

お腹を抱え、窓の向こうに笑いを逃がす。顔正面にぶつかる風が信じられないくらい気持ち良い。


「時間もないし、……っふ……ハハッ……もう、ここラジアで、奴隷とか気分悪いし、……たった一週間で、こんなっ…………なのに、サーカスまで参加しちゃって……アッハハハッ……」

嫌になっちゃう。……そう、もう一回唱えたらまたツボに入った。笑い過ぎてまた涙が出る。今度は怖さと反対の感情で止まらない。

母上達に猶予を貰えた一週間。けれどその一週間で、エルヴィン達には会うし、サーカスで何故か大道芸まですることになっちゃうし、時間が無いのにティペットが現れるし、先生に誘拐されるし、たった一週間が濃密過ぎて、頭がパンクしちゃうのも仕方ない。

笑いで絞られた目と、涙でにじんだ視界でも、ヴァルがちょっと間の抜けた表情になってしまっているのがわかる。別に彼のことを笑ってるわけではないのに、その表情でまた楽しくなってくる。声を抑えて、小さく、小さく、と頭の中で唱えながらまた声になる。


「もう、何も考えないで百年くらい掛けちゃいたい。ハハッ……もう、民を救うだけに全部使いたい……」

一週間とか、一ヶ月とか限られないで。

ゲームの攻略対象者が第一作目どころか全シリーズいるかもしれなくて、なのに全員は思い出せない。たった五人だと思っていた、悲劇を約束されている人達がもっといる。この身がもっと自由だったら良いのにと思ってしまう。

王女だから、フリージアの王族だから、だから手の届いた民も、救えた民もいる。そんなことはわかっている。だけど、王女だからという理由で、今も嘆き悲しんでいる運命を抱えているかもしれない民を見限らないといけないかもしれないのが



「本っ当に辛い。もうやだ。…………フフッ。……もう逃げたい……ハハッ」



強がったばかりの口で、夜の風へ吐き出すように反対の言葉を言ってしまう。完全に愚痴になってしまっていると自覚しながらも、本心から笑ってしまう。

プルプル全身が震えながら、笑いが芯まで通って呼吸が苦しい。なのに、すごく胸が軽い。頭から足下までふわふわして飛んでしまいそう。

アッハハハハッ!と王女らしからない笑い声を微かな音で漏らしてしまいながら、もっともっと笑いたくなってくる。

こんなこと言ったら、またヴァルに同じ質問を貰うかもしれないとちょっぴり思ったけど、見れば彼は少し口が開いたままだ。こんな笑い出したら変だろう。なんだか、さっきとは違う糸が切れてしまったみたい。

ごめんなさい、と。今度はちゃんとした声でなんとか言って、笑った顔のまま指先で涙を拭う。

本当に、彼の言葉で笑っちゃうなんて失礼過ぎると思いながら、すごく顔が緩んでしまう。彼に笑いかけたくて仕方が無い。


「だからね、ヴァル。…………明日も、ちゃんと頑張るわ」

時間は限られているから。

当たり前にわかっていた事に、胸が奮い立たされる。実質この国にいられるのはもう一日もない。ステイルも一秒一秒を無駄がないように策を練ってくれていて、近衛騎士達も付いていてくれて、私ができずとも騎士団がティペットの捜索をしてくれる。本当に時間が無くて、絶望的な制限の中なのだから、その間にできることをやるしかない。嘆けば気は楽になるけれど、時間は一秒すら止まってくれないから。

笑い過ぎて涙でまた濡れた顔で彼を見る。獣のように大きく目を見開いて、鏡のように私を至近距離で写してくれた。化粧もしていない、涙で腫れた上にぐしゃぐしゃの顔と髪で、だけど彼に向けて笑っている自分は不思議と嫌いに思わなかった。

唇を結んだ彼に、今度は私から手を伸ばす。以前も、……ううん今まで、何度も。彼にこうやって助けられる。今夜、一人で良かった。眠れなくて良かった。彼が来てくれて、本当に良かった。




「貴方がいてくれて良かった。……明日も傍にいてね」



「……命令か?」

「フフッ……。……ええ、命令です」

おやすみなさいの代わりに、風で靡いた彼の髪を褐色の耳へと掛ける。チクリとした髪先の後、指が少し触れただけでも耳が冷たくて、夜風で冷やしてしまったその耳に少し手を当て温めた。

夜そのもののように静かで響く声で尋ねてくれた彼に返せば、数秒のつもりだったのにそのまま手を重ねられた。大きな手の平に包まれる拍子に右手がそのまま彼の耳だけでなく頬まで触れるよう、当てられた。不思議なことに、頬はじんわり熱いくらい。

真っ直ぐ見つけてくれる彼に、心からの笑みで返せば静かに彼の目が一度ゆっくりと閉じられた。再び開かれた時にはいつもの眼差しで、同時に手も離される。


「御命令なら、このままベッドで朝まで付き合うぜ?」

「結構です。そんなことしたら騎士に貴方が刺されますよ」

「見せつけるのも悪くねぇ」


また冗談でからかってくる彼に、今度はすんなりと断れた。むしろ開き直ってくるヴァルに、溜息まで吐けた。……直後にまた笑っちゃったけど。

でも今度は、彼の方も笑ってくれて。ニヤリとした悪い笑みだと思ったら、いつもより少しその目が優しかった。

立ち上がる彼に合わせ、私も足に力を込める。差し伸べてくれた手を掴んだお陰で、ちょっとふらつきながらも立ち上がれた。開きっぱなしの窓枠に彼が足を掛ければ、何も無かった壁際にも足場が形成される。


「本当にありがとう。ゆっくり休んでくださいね。今夜のことは全面的に秘匿してください」

「なんなら明日も来てやろうか?窓さえ開けといてくれりゃあ〝秘匿〟でな」

フッと笑った彼は、私の返事まで待たなかった。するりと降下して窓から姿を消してしまう。身を乗り出して目で追えば、そのまま彼の指定された部屋の方向まで文字通り滑るようにして去って行った。


去り際まで冗談めかす彼に肩を落としながら息を吐く。本当に、……この時の為だけに来てくれたのだなと思う。

窓を閉じるのも少し惜しくて、彼の姿が闇に溶けた間も暫くそのまま窓枠に腰掛けた。温もりがいなくなった分すぐに冷えてしまったところで、腕をさすりながら窓を閉じる。

鍵を掛け、カーテンを閉じたところで、もううっすらとだけど夜が明るくなってきてしまっているなと部屋の暗さが薄れていることで気付く。

「寝なくちゃ」と一人呟いて、ベッドへ行こうとしたらコンコンと今度は扉からノックを鳴らされた。「ご無事ですか」と聞かれて、つい笑ってしまう。

大丈夫です。ちょっとお話ししていただけで、もう帰りましたと。心配させてごめんなさいと、クスクス笑いながら扉越しに返した。


本当は扉を開けて直接言いたかったけれど、乱れた髪と泣きはらした酷い顔に今は寝衣だと思うと躊躇った。…………そういえば、今日は珍しくこの格好については彼に弄られなかったなと思う。

ベッドに入る前に全身鏡で確認すると、……寝る前に上着を脱いだままだったと今気付く。結構まずい格好だ。ヴァルや騎士相手にこういうことを言うのもなんだけれど、襲われてもおかしくない。今更ながら両手で胸を中心に隠す様に交差し隠す。身体が冷えた筈なのに顔が熱くなってきた。本当、この格好は酷い。露出好きと言われても文句は言えない。

慌てて小走りでベッドに飛び込み、半分落ちた毛布を引張りながら枕まで這う。頭から消したい事項が一個増えてしまったと思いながら毛布に包まる。もしかしたらあまりに弄るのも痛々しい格好だからスルーされたのだろうか。それとも単にからかう前に私が泣き出してタイミングを逃しただけか。

ぎゅぅぅうううと目をきつく瞑り、頭まで毛布に潜る。もぉおおおおお!といっそ一言突っ込んでくれたら早々に上着の羽織を被ったのにと、ヴァルに逆恨みしたくなる。……途端、またちょっと笑えてしまった。くすくすとひとしきり一人で声を殺して笑って。最後に一度大きく深呼吸をした後は






……ぷつりと、意識が途切れた。





夢も見ず、マリーとロッテに肩を揺らして起こされるまで熟睡してしまっていた自分に一番私が驚いた。


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― 新着の感想 ―
こういう時のヴァルですね。何も言わずにそばにいるって、すごく貴重な存在…。このままヴァルと…!
次の更新が待ちきれないです!唯一立場を飛び越えて寄り添ってくれるヴァルに甘えられてよかったね… いやーヴァル目線を一刻も早く読みたい! カラム推しでもあるので、ヴァルの接近に背中を押されてカラムも階段…
うわぁぁ全部良すぎた…。ヴァルとの時間を惜しんでもう少し望んでいるプライドも良い…。プライドの素敵な笑顔が見れてよかった…。素敵な供給をありがとうございます…。これはヴァルサイドの気持ちもちょっと見た…
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