第43話「陽斗澪ソフィー ――宿屋一室――」(特別編)
ブクマが100になりました!ありがとうございます!そこで今回は特別話です!
時系列としては前々話と前話の間です(飲み会の翌朝)
ストーリーを進めるために、本日中にもう一話更新する予定であります!
朝起きると陽斗の顔が目の前にあった。
スースーと規則正しい寝息を立てている。
(え? 何これ。なんで私がハルトと同じベッドに?)
混乱が先に立ったソフィーは、叫ぶよりも先に己の記憶をまさぐった。
(えっと……確か昨日は三人でお酒を飲んで……それから……それから……)
そこから先の記憶がなかった。
ソフィーの顔がカーっと熱くなり、心臓が早鐘を打ち始める。
(え? え? 何、これってそういうことなの?! アタシとハルトが……え?!)
ソフィーはそろりと掛け布団を持ち上げた。
(!?)
裸だった。
いやかろうじて下だけは着けている。
「キ――」
悲鳴を上げそうになった口を慌てて押さえた。
陽斗を起こしてしまえば、見せたくないものを見せてしまうという意味で本末転倒だ。
それにまだそうと決まった訳でもない。
ソフィーは陽斗を起こさないようにそろりそろりと布団を抜けだそうと――
「う~ん……」
身動ぎで眠りを浅くしてしまったのか陽斗が寝相を変え、布団の中で背中に手を回される。
ソフィーの開花直前の蕾のような上向きの胸が、陽斗に押し当てられ形を変える。
(起きてるんでしょ! ねえ、起きてるんならそう言いなさいよ! ぶっ殺してあげるから!)
とは言え。
もし酔っ払った自分が同意の上でこのような状況になっているのだとしたら、陽斗ばかりを責める訳にはいかない。
(酔った女の子に手を出すのってどうなのとか、問い詰めたいことはたくさんあるけど! けど!)
まずはここから抜けだして服を着なければ、もしもの時に被害を拡大するばかりだ。
ソフィーはそっと陽斗の腕を掴み拘束を脱しようと――
「むにゃ……」
ソフィーを抱き枕とでも勘違いしているのか、今度は足を絡めてくる。
二人の密着感がより増し、もうお互いの吐息がかかるような距離だ。
(~~~~~っ! 復讐? 昨日引っ叩いたことの復讐なの? 謝るから離してー!)
と。
ソフィーが心の中で泣き叫んでいると、陽斗の顔がソフィーに迫る。
(え? 嘘、これってキ――)
布団の中でがっちりホールドされているソフィーは為す術なく目を閉じる。
(いやー! アタシの初めては全属性持ちの初代様みたいな人って決めてたのにー!)
しかしいつまで経っても唇への感触が降ってこない。
恐る恐る眼を開けると陽斗はソフィーの鎖骨に顔を埋め、幸せそうな寝顔をしていた。
そして――
「ホットミルク……」
胸と鎖骨の間あたりに吸い付いた。
「あ……んっ!」
(吸われてる、何か吸われてるんですけど!)
陽斗が口を離すと、ソフィーの鎖骨は真っ赤に染まっていた。
(くっ……! これ以上何かされる前に!)
ソフィーは慎重に事を運び始める。
なんとか体ごと回転させて、陽斗の真上で覆い被さるように手をついた。
(ふう……あとは服を着るだけね。だけどこれじゃアタシが襲ってるみたいね。早くベッドからも降りなきゃ)
パチリ。
「えっ」
■
朝起きるとソフィーの顔が目の前にあった。
少し目を下に下ろすと、昨日も見たソフィーの胸が。
「夜這……」
「そんなわけないでしょ!」
陽斗の口を塞ぐとソフィーが息漏れ声で怒鳴る。
次いで陽斗に身体を密着させた。
陽斗の胸板がマシュマロのような感触を覚える。
「なにふんだっ!」
「仕方ないでしょ。こうしないと見られちゃうんだから! あっこら布団の中でどこ触ってんのよ!」
陽斗は布団から出した手で、口を塞ぐソフィーの手をどかす。
「なんで俺の布団に入ってんだよ! お前は澪のベッドで寝てたはずだろ!」
「アタシが聞きたいわよ! ……ミオのベッドで寝てた? アタシが?」
「覚えてないのかよ……昨日酔っ払ってお前が寝ちまった後、起こしても起きないから仕方なく俺達の部屋に連れてきたんだよ」
異世界の宿屋は地球のホテルのフロントのように、24時間営業ではない。
夜になると、魔力を登録した本人にしか部屋のドアは開けられないのだ。
「そうだったんだ……じゃあアタシとハルトは何もなかったのね?」
「当たり前だろ!」
ソフィーはあからさまにホッとしたようだった。
「じゃあなんでアタシはミオのベッドからハルトの所に?」
「俺が知るかよ。夜中に寝ぼけたんじゃないのか? 心当たりはないのかよ」
「……いつも窓際で寝るから、夜中に目が覚めた後に移動しちゃったのかも……」
その時に習慣が服を脱がせてしまったのだろう。
「じゃあ完全にお前が悪いんじゃないか。もういいから早く退いてくれ」
シッシッと猫でも追い払うかのような仕草に、ソフィーがムッとする。
「確かにそうだけど……アンタはアタシみたいな美少女にくっつかれて嬉しくない訳?」
「はあ? 自分で美少女とか言うなよ。それにお前、男に色目使われたくなくて、チーム探してたんだろ?」
「そ、そうだけど、アタシにもプライドってもんが!」
「こいつサバサバ系かと思ったら、案外超面倒くさいぞ!」
「な! 面倒くさいって何よ! ……ん? 何かお腹に固いものが……」
「バッ! それ以上言うな! あともぞもぞ動くんじゃねえ! いいから早くどけよ! こんな所澪に見られたら……」
「私に見られたらなんすか?」
「そりゃあ、俺がソフィーをベッドに引き込んだって誤解されちまう……だろ……」
陽斗とソフィーは噛み合わない歯車のように顔を横に向ける。
無理やり笑顔の形で凍らせたような、硬い表情の澪が冷気を漂わせながらパジャマ姿のまま仁王立ちしていた。
「は、はは……ちなみにどこから聞いていたのかとか、聞いたりして……」
「ソフィーがお腹に固いものがって言ったところで眼が覚めたっす」
――最悪なところからじゃねえか!
陽斗は慌てて飛び起きると、澪に待ってくれと言わんばかりに手の平を出す。
「話せば分かる! 少し長くなるが、これはソフィーが寝ぼけて……」
澪は陽斗の話は聞いていなかった。
彼女の視線は、ソフィーの身体のある一部分に向けられている。
「……ソフィー。その首筋の赤いのは……?」
いそいそと布団で身体を隠していたソフィーに澪が問いかける。
「これ? これは陽斗が……」
「何言ってんだ、ソフィー?! 俺は何もしてないよな?!」
澪が「へー」と陽斗に疑うような視線を浴びせる。
「み、澪? ソフィーより俺を……なっ! なんで脱ぎ出してんだよ!」
陽斗が手で目を覆う間にも澪は服を脱ぎ続け、
「私も陽斗様にキスマーク付けて貰うっすっ!」
「何バカなこと言ってんだ! だから俺は何もしてないって! どうせ俺のベッドにいた虫にさされたとか言うつもりだったんだろ、なあソフィー?」
「ちょっと! アタシが嘘ついてるって言いたいの?! これは紛れも無くハルトに付けられたもので……」
「だああっー! お前は黙ってろ! 話がややこしくなる!」
陽斗とソフィーがそうやり取りしている間に澪は下着姿になると、陽斗のベッドにダイブしてくる。
澪は陽斗に縋り付き、
「寝ぼけていたこととはいえ、ソフィーにして私にできないなんて言わないっすよね?」
「寝ぼけて?! 澪、お前起きてたんだろ! 割りと初めから! そうなんだろ?!」
澪は一瞬だけ陽斗から顔をそらし、
「チッ。細かいことはどうでもいいじゃないっすか。私にもキスマーク付けてくれないと不公平っすよー。ほら虫よけだと思えばいいじゃないっすか。一人にだけキスマークが付いてると、勘違いした輩が寄ってくるかもしれないっすよ」
「時々出てくる澪のその超理論は何なんだ!」
「アタシは嘘なんて……」
「お前らいい加減にしろおおおおっ!」
「朝っぱらからうるせーぞ!」
隣の部屋からドンドンと壁を叩く音が響く。
陽斗は結局澪にキスマークを付けるハメに。
その時にもまた一騒動あったのは言うまでもないだろう。