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虹のファンタズマゴリア~全属性チートは異世界で王の証~  作者: 神丘 善命
第一章:斯くて王は異世界に降臨す
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第20話「遭遇 ――最強生物―― その2」

 まだ夜が明け切らない午前三時。

 二人を起こした陽斗は荷物をまとめながらボソリと呟いた。


「なあこの森ってウルフ以外は何もいないのか? 昨日から獣どころか鳥一羽いる気配がないんだが」


 夜の見張り番のときに一層強く感じた疑問。虫の音はかろうじてあったが、鳥の鳴き声一つ聞こえない。異世界には夜行性の動物がいないのかなどと思ってしまうほどだった。


「それは私も思ってたっす。どうなんすかソフィー?」

「確かに変ね……キングウルフの縄張りでも、その餌となる小動物なんかはいるはずなんだけど」

「実は森から溢れてきたウルフってのは群れから追い出されたとかじゃなくて、単に餌がなくなって出てきたんじゃないか?」

「それだったらキングウルフだって発見されるはずでしょ」

「俺たちとは入れ違いだったとか、仲間に見捨てられて既に餓死しちまったとか」

「それじゃ鳥がいないことの説明にはならないんじゃないすか?」


 陽斗は確かにと唸った。


「じゃあ新しくできた森のボスってのが、でっかい鳥型のモンスターとか? 今まで森の上空は安全だったがそいつのせいで逃げ出した。そういうのだっているんだろ?」

「キングウルフに勝てそうな鳥型のモンスターで、ぱっと思いつくのはDランクの人面で手が羽、脚が鳥のハーピィ。それからCランクで石化能力のある光線を目から出すコカトリスだけど、コカトリスはたしか飛べなかったはずよ」


 陽斗とソフィーが議論を続けようとしていたので、澪は軽くパンパンと手を叩いて自分に注目を集めた。


「ここで推測を話し合っても埒が明かないっすよ。それより日が出てきたらすぐに出発できるように、準備する方がいいっす」


 全くの正論に反対の声は上がらず、三人は動きに支障が出ないように軽い食事を取った。

 少し休憩してから一行は荷物を持ち上げる。


「じゃあ出発するっす」

「森の中心の岩場まではもう少しのはずよ」

「よし行くぞ!」


 昨日と同じように澪、ソフィー、陽斗の順で一列になって歩き出す。

 陽斗は10歩ごとに振り返って、後ろを見る。帰り道に迷わないように木の配置を覚えるためだ。


 ソフィーがナイフで木に目印を付けてはいるが、一応取れる手段は取っておくべきだろう。陽斗の記憶力なら容量はおそらく無限だし、消費するものもない。


 それから間もなくして陽斗たちは目的地の岩場までたどり着いた。

 背丈の短い木に生えた草の影から頭だけを出して、岩場の方を窺う。


「……何もいないわね」

「そうだな」

「というか事前情報では岩場は小高くなっていて、洞窟を形成しているって話じゃなかったっすか?」


 陽斗たちの視線の先には、潰れたように中心が凹んだ岩石の集合体があるだけだ。フォレストウルフがスライムのような粘体生物でなければ、岩が消波ブロックのように折り重なった小さな隙間を洞窟と呼ぶことは出来ないだろう。


「地震か何かで崩れてしまったのかしら」

「私には何か巨大なものに踏みつけられたように感じるっすけど……それに何か岩の上に敷かれてないっすか? 藁みたいな」

「やっぱり鳥モンスターなんじゃないか? 普通の鳥にしては巣がデカ過ぎだろう」


 陽斗は今朝方、出発する直前にした予想を思い出す。


「事故にしろ鳥型モンスターにやられたにしても、あの岩の下にキングウルフのねぐらがあったのなら潰れちまったんじゃないか」

「そうかもしれないっすね。鳥が群れで地面に作った一つの巣を使うのには驚いたっすけど」


 澪のその言葉に陽斗はなるほどと、自身も抱いていた違和感の正体を悟る。

 300m先の岩の上に作られている鳥の巣は、一羽で使うにしては大きすぎる。

 陽斗のイメージでも鳥というのは一組の親鳥が巣を作って卵を産んで育てるというもの。ちょうど人間で言う核家族だ。


 しかし目の前にある鳥の巣は祖父母を含んだ大家族というより、村くらいの規模はありそうだった。

 きっと普通の鳥とモンスターの違いなのだろうと陽斗は納得する。


 そこでソフィーが目を細めながら腕を持ち上げた。 


「ねえ……あそこ。巣の中心に何か視えない?」


 陽斗たちもソフィーの指差す方に目を凝らす。草むらから岩場の巣まではかなりの距離がある。

 確かに何かあるのは影から分かるのだが、遠すぎて詳細までは分からない。そう答えようとした時、澪が隣でガサゴソとマントの中で手を動かしているのに気付いた。


「テレレッテレ~双子遠視筒~」


 国民的アニメの口真似で取り出したのは、真っ黒な双眼鏡だった。ソフィーはどこから取り出したの? と言いたげに首をひねっていたが、陽斗はそんなものまであのポーチには入っていたのかと感嘆の声を漏らす。


「なにが視える?」

「ん~なんか卵みたいなやつっすね。大きさはダチョウの卵より少し大きいくらいっすかね……」

「デカイ卵……なんか微妙に嫌な予感がしてきたんだが、俺だけか?」


 陽斗は渋面を作って呻いた。

 言葉には出来ないが、背筋を虫がよじ登ってくるような感覚を陽斗は覚える。そう――例えて言うなら生存本能が警鐘を鳴らしているような。


「奇遇っすね。私もっすよ」

「ねえミオ、それで遠くのものが視えるの? それで卵が見えたのね? 悪いけど卵の表面の模様を教えてくれる? それでだいたい何の卵か分かるはずだから」


 ソフィーも嫌なものを感じたのかもしれない。早口で捲し立てた質問の言葉は、所々で倒けつ転びつといった感じになっていた。


「え~っと……赤地で……ちょうど天辺がこっちを向いてるっすね……そこに星型のマークみたいなのがあるっす」

「星? 異世……モンスターには変わった卵を産む奴がいるんだな」


 そんなのはゲームでしか見たことがない。

 異世界にはそういう卵もあるのかと思った陽斗に対して、ソフィーの感想は違ったようだった。

 寒くはないはずなのに身体はカタカタと震えだし、顔は蒼を通り越して白くなっている。


「おい、どうしたんだソフィー。あれは何の卵なんだ?」


 パクパクと餌を求める金魚のように、口を開いては閉じてはを繰り返すソフィー。

 しばらくそうしていたが、やがて口の動きにもようやく音が伴ってきた。


「あ……あれは……」

「「あれは?」」


 陽斗と澪が口をそろえてソフィーの解答を待つ。


「あれは……ドラゴンの卵よ」


 ソフィーは自分の身体を抱き、「嘘よ……こんな人の住む近くになんて……」とうわ言のように続ける。

 ドラゴン。そう言われても陽斗にはソフィーの怯えようにピンと来るものがなかった。


 つい一昨日ドラゴンを見てみたいと思ったが、それがこんなにも早く叶うとはと嬉しい誤算くらいに考えてしまう。


 しかしソフィーの怯えようを見れば、恐ろしく強いモンスターなのだろうと推測できる。


「じゃあ……逃げるか」


 危機感の薄い陽斗の撤退宣言。

 しかしソフィーはそれに即座に飛びつく。


「そ、そうね! 早く帰って街の騎士団に知らせないと」

「そうと決まれば――」


 しかしその決断は遅すぎた。


 突如としてヘリコプターの音にも匹敵する、バサッバサッという大音量の風切り音が頭上から澪の言葉を遮る。

 全員がより一層身を屈めながらもバッと上を見上げた。


 空から降りてきたのはヘリコプターどころの大きさではない。ジャンボジェットもかくやというその巨体がゆっくりと真下に向かって軟着陸していた。


 真紅に染まった体表はワニの皮膚を思わせる鈍い輝きを放ち、硬いウロコに覆われている。

 また今は後ろ姿を見せているが、垣間見えた脚の爪は陽斗の持つ剣の倍以上の長さで、先は凶悪に尖り上がっていた。触れられただけで陽斗の身体など簡単に弾け飛んでしまうだろう。

 誰も声を発することが出来ない。澪でさえも唾を飲み込み息を殺している。


「あれはヤバいッス。はやく逃げるっす」

「ソフィー、〈消音〉(サイレント)とかの魔法は――」

「む、無理よ。ドラゴンは魔力にとっても敏感って言われているわ。魔法なんて使えば一発でバレる」

「じゃあ気づいてない今のうちに」


 一斉に頷きゆっくりと後退を始める。陽斗もその巨体を目の当たりにして、早くもドラゴンを見たいと思っていたことを後悔した。

 冷や汗をダラダラとかきながらジワリジワリと距離をとる。


 誰もが振り返ってドラゴンから目を逸らす勇気が出ない。


――パキリ。


 普段なら気にしない小さな音は、この場を音楽ホールにしたかのように大きく響いた。


 グルンッとドラゴンの大きな首が回ってこちらを振り返る。

 眼と眼が合った。

 大きな瞳の中の蛇のように縦に割れた虹彩が、スッと細まる。


「グルゥ」


 一本一本が陽斗の身長ほどもありそうな牙をむいて危険な唸り声が上がる。ドラゴンにとっては小さな音かもしれないが、卑小な者にとってはドラムを叩きつけたか如き大音量だ。

 そしてパカリとドラゴンがその大口の深淵を覗かせる。


「グ――――ルガァァァアアアア!」

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