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虹のファンタズマゴリア~全属性チートは異世界で王の証~  作者: 神丘 善命
第一章:斯くて王は異世界に降臨す
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第19話「遭遇 ――最強生物―― その1」

「見張りの順番っすけど」


 食事が終わり一息ついた頃、澪がそう切り出した。


「ソフィーは一人で夜の見張りは……聞いてるっすか?」

「はふぅ~……」


 ソフィーはお腹をさすりながら満足気にしている。

 澪は小粒程度の石を拾ってピシッと指で弾いた。


「あうっ!」


 ソフィーは突然走った痛みに額を両手で押さえる。


「ちゃんと聞くっす」

「ゴメンナサイ……」


 しょぼーんと肩を落としたソフィーに澪がもう一度訊ねる。


「ソフィーは一人の夜番は初めてなんすよね?」

「うん。育った街からフィールドに行くまでは商隊にくっついて来たから、何人かでならしたこともあるんだけど」

「まるっきり初めてじゃないだけマシっすよ」


 陽斗は一回もやったことがないのでマシ以下確定だ。


「じゃあ慣れている私が真ん中をやるっすから、陽斗様とソフィーは最初と最後のどちらかをお願いするっす」

(夜の見張りに慣れている女子高生ってなんなんだ? まあ、あの人の娘なら何でもありな気もするが)


 それでいて澪の肌が寝不足などで荒れているというのは見たことがない。

 澪がこれまでどのような人生を過ごしてきたのかに思いを馳せ、殆ど自分が一緒にいたことに気づく。一体いつこれだけの修行をしてきたのだろうと、結局謎を深めるだけに終わった。


「どっちがやりやすいんだ?」

「最初と最後っすか? うーんどっちもどっちすね。寝付きがいいなら最初に、寝起きがいいなら最後にやれば問題ないと思うっすよ」

「ソフィーは寝付きと寝起きどっちがいいんだ?」

「アタシ? アタシは……寝付きが良くて寝起きが悪いわね。夜は早く寝るはずなのに朝はどうしてもぐずっちゃうのよね……って何よその目は」


 コイツ猫みたいだもんなと陽斗はつい納得してしまい、それが顔に出ていたのだろう。女の勘でそれを察したソフィーの目が僅かにつり上がった。


「い、いや別に」


 ジーっと睨むそれが余計にらしくて笑ってしまいそうになるが、これ以上は危険だと直感が告げている。吹き出しそうになるのをこらえる。


「じゃあ最初は任せる。俺は最後にやるから」


 それから8時頃には先に澪が横になり、陽斗も一時間しない内に眠りに落ちていった。



   ■



「みんな寝ちゃったのね……」


 これから二時間はソフィーが起きて、異変を察知したらすぐに二人を起こさないといけない。

 ソフィーは体育座りで肩に掛けた毛布をかぶり直しながら、陽斗に貸してもらった腕時計を見る。短い針と長い針が天辺で重なる少し前に澪を起こせばいいと教えられていた。

 ランプの光があるから問題ないが、針の先が光っていて暗くても見ることが出来る。


――彼らは何者なんだろう。


 それはソフィーが出会ってから2週間ちょっと。幾度と無く覚えてきた疑問だった。

 彼らは見たことがないような、マジックアイテムをいくつも持っている。

 この腕時計だってそうだ。普通こういった寝ずの番で時間を計るには砂時計を使う。森の中でなかったら月の動きも使ったかもしれない。


 もう一度チラリと腕時計に焦点を合わせる。それは使用者の手を離れて魔力の供給もないはずなのに、一定の間隔で一番細い針が小さな文字の上で時を――おそらく正確に――刻み続けていた。

 こんな細かくて精巧な文字盤はいったいどんな小人の職人が彫ったと言うのか。


 ソフィーはランプに照らされて寝入っている二人を眺めた。

 陽斗と澪。この謎だらけなパーティメンバーについて考えるのは、退屈で暇を持て余す夜番の時間を潰すのにちょうどいいかもしれない。

 そう思ったソフィーはゆらゆらと動くランプが放つ光に、陽斗と澪との記憶を映す。


 考えるならまずは二人の内主人でありながら、自分では主人ではないという不思議な少年からがいいだろう。

 陽斗。このあたりではあまり見かけない黒髪黒目の少年。


 腕時計というどこに行っても高く売れそうなマジックアイテムを、平然と人に預けるお人好しだ。

 商人の息子だというが、彼からは金の匂いがしない。しかしこの狂った金銭感覚は金持ちだと言っている気もする。

 本当によく分からない。


 それに遠くから旅をしてきたと言っている割には、今日の探索でも早いうちから疲れた様子を見せていた。とても旅慣れしたようには見えない。それでも不満の一つも言わなかったので、ソフィーも何かを言うことはしなかったが。


 戦闘についてもそうだ。一戦ごとに確かに動きの硬さが取れていくような、そんな感じがした。訓練の動きから実戦的な動きへとシフトさせていっているような……とても旅の間戦ってきたとは思えない。


 何でも澪任せにしているかと思えば、常に手伝う素振りを見せては澪に断られているといったことを繰り返している。

 そんな二人の関係も謎といえば謎だ。


 二人は同い年で、自分と同じで今年16歳になるのだと言っていた。この年で故郷を遠く離れて旅をするというのは――人のことを言えないが――、きっと訳ありなのだとソフィーは考えていた。


 二人の宿に乗り込んだときに見た光景から、最初に駆け落ちを考える。

 商人の息子というのは嘘で、陽斗が貴族かなんかで身分の違うメイドと一緒になることを認められず出奔……ソフィーはありそうだと思う。しかしあれは勘違いで自分たちはそういう関係ではないと陽斗が断言していた。


 ソフィーはそのときの陽斗の必死な姿を思い出して少しおかしくなった。クスリと思わず笑みが溢れる。美貌の上に浮かべられたそれは、見た者がランプの灯りだけだったおかげで誰の人生を狂わせることもない。


(あれ……?)


 思い出し笑いが引っ込んだところで、ふわっと一つの疑問が舞い降りてくる。

 そのときに澪はどんな表情をしていたっけ、と思い出そうとしても浮かんでくるものはなかった。


(ハルトと一緒になって必死に否定していた? ……うーん思い出せないわ)


 実際は「そんなに必死になって否定しなくても」とむくれていたのだが、気恥ずかしさでソフィーはまともに二人と顔を合わせられなかった。


 澪の顔を見て思い出そうとしたが、生憎澪は顔を背けていたので寝顔を見ることは出来なかった。

 ソフィーは澪についても考える。

 澪。自称陽斗のメイドで凄腕の魔術師。


 正直なんで――こう言っては悪いが――陽斗なんかに付き従っているのか、よく分からないほどに自分たち(陽斗含む)とはかけ離れた実力者だ。

 最初に戦闘を見たときも思ったが、パーティを組んでからも一層その思いが強くなっていった。


 魔法師としてもやっていける程に魔法の威力、スピードがあり、それでもまだ本気を出していないように感じられる。


 また体術も一流で、モンスターの攻撃にかすりすらしない軽やかな動きは、この先どんな強敵にあってもダメージを負うイメージが湧いてこない。

 その実力は底知れず、時折自分を見る目が遥かな高みから見下ろされているような気になる。普段は明るくいつも笑顔で自分とは違って愛嬌もあって、人を見下すイメージはないが。


 ソフィーはきっと自分の卑屈さがそう見せるのだろうと思って納得することにした。

 そんな謎だらけの二人だが、悪い奴らではないと思う。


 まず陽斗は今までソフィーが見てきたどの男とも違う。

 ソフィーが声を掛けられてきた男たちは、みんな女は自分のものとか、男より弱いとか、女は男に従うものみたいに考えた貴族や冒険者ばかりだった。


 六国はその前身のセブリアントが、空属性の継承条件から女王の代もあった。なので帝国なんかより余程マシだが、それでもやはり最上層部以外は男尊女卑の風潮がある。


 しかし陽斗はそのどれにも当てはまらない。まず自分に――ソフィーはある程度自分の外見が男を惹き付けることを自覚しているが、そうなら一人で冒険者になったりなどしないはず――色目を使ってこない。


 それどころか最初は目を合わせるのも、若干だが恥ずかしそうにしていた。

 舐められたら終わりの冒険者としては失格かも知れないが、ソフィーには好感が持てた。今は普通に目を合わせて話せているので、気を使い続けないのも疲れなくていい。


 また変にいいところを見せようとして、「俺が守ってやる」みたいな気持ち悪い雰囲気もない。戦闘においての連携でもきちんと仕事することを求めてくる。

 それはセブリアント王国初代国王に憧れて冒険者になったソフィーにとって、冒険者として尊重してくれている気がしてとても嬉しいことだった。


 澪もそうだ。

 陽斗と話しているとよく分からない視線を貰うことがあるが、それ以外はいい関係が築けているとソフィーは思う。

 とある理由からあまり友達というものを持ったことがない彼女にとって、同年代の女友達というのはとても新鮮なものだった。


 男の不躾な視線に苦労させられた話や、好きな甘味の話題、戦闘方法についての談義は一年前までの本音を隠さなければならない会話とは違って、何も隠すことがなく楽しいものだった。


 虹国貨幣についても譲ってくれたし、自分の長いとよく言われるセブリアントの話にも付き合ってくれる。


 食べ物だって分けてくれた。

 ソフィーは未だに目の前の地面に置かれている空の容器に目を落とす。今はもう一片の具材も残っていないが、かすかに残る匂いがソフィーにその味を思い出させる。


 お湯を注ぐだけという簡単な調理手順に反して、量も味も申し分がない。もしあれが大量に手に入る環境だったのなら、三食をあれで済ましてしまいそうだとソフィーは考える。


(そう言えば……パパに料理の一つでも作れるようになっておかないと、嫁の貰い手がないってよく言われてたっけ。結婚なんてする気は全く無いけど……カップメンだっけ? あれならアタシにも簡単に作れるわね)


 もし澪が聞いていたら、「それは料理とは認められないっすよ」と訂正を入れるところだが、今ここに異世界人の勘違いを正してくれる者はいない。

 さらにカップ麺は陽斗たちの故郷で作られたもので長い間保存しておくことが出来るという。ソフィーはますます大量買いの魅力に取り憑かれる。陽斗たちの故郷に行ってみたいという気持ちがむくむくと湧き上がってくる。


(故郷……遠いのかしら)


 ソフィーはチームに入ってパーティを結成した時のことを思い出す。

 陽斗はいつか別れがやってくると言った。


 けど――。

 その時になったら付いて行くのもいいかも、とソフィーは木々の間から垣間見える夜空を見上げた。

 二人はこの辺りでは聞くことがないほどの遠い地から来たという。しかし例えどんなに遠かったとしても、この空が続く限り行って帰ってこれないことはない。そうすれば別れにはならない。


 ソフィーはたった二週間しか過ごしていない二人に自分が心を許している事実に気づき、バッと膝に顔を埋めた。自分がしていた表情を誰にも見られたくなかった。

 そろりと目線だけ上げて陽斗と澪を見る。誰にも見られていないと分かり、ソフィーはホッと一息ついた。


(いけないいけない! ちゃんと見張りしなくちゃ)


 ソフィーは緩んだ気持ちを締め直して、辺りの音に耳を澄まし始めた。

 ソフィーの夜番はこうして更けていった。

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