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家人 Kajin  作者: サバ缶
3/6

俺、行きまーす

「俺、今晩立つわ」

そう切り出したのは翌朝だった。


「お、決めたかい。何グズグズしてんだかってヤキモキしてた、間に合うのかい?」


「うん、ちょっと、調整すれば良いから…それにさ、夕方過ぎの方が道路が空いてるだろうし…」

嘘だった。昨晩のうちに準備は整っていた。

なんなら、今からでも動ける。


(…ほら、あるでしょ、そういうの。

しばらく会わないわけだし、全部…言わせないでよ)


しっかし、我ながら惚れ惚れする家人だぜ。見た目はツギハギだらけ。でも、やっぱり、そこがいい。何度見てもいい。色んなパーツでできている。

正直、夕方の出発まで、やることがないから、家人の中に入ったり、外から眺めたりしていた。


こだわりの一部を紹介しておこう。窓は元のまんまの古いガラスを使った。表面が少し歪んでいるから外の景色が柔らかく見える。もし割ったら同じガラスは作れないから大事にしないとな。シブいぜ俺のセンス。


反面、気がかりもある。防水対策がな〜。

雨の日は、ポリカーボネートの庇が守ってくれるとはいえ、まだ十分ではないと考える。


そんで最大の見どころは、ココ!押し入れだった部分を出入口に改装。つまり玄関…なんだけど、引き戸を大胆に改造してスライド式のハッチにした。ここは「コクピット」と呼ぶべきだな…ふふふ。費用奮発しました。


コイツはさ、夢と勇気と希望のカケラを少しづつ拾い集めて、実家の思い出まで散りばめたような奴なんだ。


…やがて空が茜色に染まった頃、お母さんがやって来た。「どーれ、あんたの家人、動くところを見物しようかあ?」仁王立ちポーズで腕を組んだ。


お母さん、決めたぜ!

「こいつの名前はパッチワークだ。」


「いい名前じゃん、パッチワークのパッチじゃん」

お母さんは目を輝かせて言ってくれた。

「それと、ほいよっ、弁当ッ」


「そこは略さないんだよ、パッチワークなんだって!」言い返しながら包を受け取った時に、ほんのり芳ばしい海苔と焼き鮭の香りが鼻先をくすぐった。やったぜ、大好物だぜ。


「じゃ、行く…」


ハッチを開いて、芝居がかった敬礼してからパッチワークの中に入った。


「おじいちゃんの部屋だったから、出るかもよ〜?」と、おばけポーズでからかってくる。


「今、言うなや!そん時は、久しぶりに将棋の相手でもするよ」俺はおじいちゃん子だったから平気だ。


「あ、あとコレ」お母さんが小窓から封筒を差し入れてくる。

「無駄遣いするんじゃないよ〜」


封筒の中には、丁寧に折りたたまれた札が並んでいた。「…そんで、使うときは、ちゃんと“ありがとう”って言いながら使うのよ。お金にも気持ちがあるからね」


僕は素直に「ありがとう」と言った。

母は「どういたしまして!」と即答した。


これでしばらく、このやり取りはお休みだな。

「じゃ、そろそろ行くわッ」

動力始動、床下が鳴動する。


家人・パッチワークが目を覚ました。グルルル…ン…生きているように感じた。床が、ほんの少しだけ揺れた。


「安全確認。右よし、左よし、正面よし!」

窓の外には、ピンクとオレンジが混じったような光。風が、カーテンを揺らしている。

対向車はない。難なく道路に入れそうだ。


「じゃあ、行ってくるよ」もう一度言った。


お母さんは、両手で大きく手を振ってくれた。

「いってらっしゃーい!道中、楽しんどいで!…あとね、絶対に無理は禁物!」


急に言い足りなくなったのか、その後も色々言っているようだ。でも、車輪と動力音でかき消されがちになっちゃって、ちょっと何言ってるのかわからない状態。


相棒で家人・パッチワークが、ゆっくりと着実に進行ルートに入った。

 

今、俺の旅が始まったのだ。


……

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