シミジミするんですけど…
「お前の名前、何かつけようか、なぁ相棒?」
俺はそう言って、そっと壁に手を置いた。
相棒というのは「家人 kajin」だ。
家人とは要は建物人間だ。
家に手足をつければ完成だ。走るし跳ぶ。
ま、言うほど簡単、単純じゃあない。
とくに俺の家人はあり合わせだ。
今住んでる実家、平屋の戸建てから和室だけをズバッと切り取り、これに骨格を仕込む。
んで、トタンの壁を貼って見栄え+補強。防水シートで屋根を覆い〜の。なんせ、築50年過ぎの木造だからさ、雨とか染みちゃうの。
外壁には、赤・青・黄・緑のペンキをモザイクタイル風に塗り、仕上げはスプレーアートだぜ。
ストリートカジュアルを目指した。
見た目は派手でギンギン、ツギハギだらけ。
でも、それがいいんだよな。
出発の日は、もうすぐだった。
どこへ?って、エクサフェスさ。
開催まで、あと10日なんだ。
間に合うかどうかは、ちょっと正直わからない。
でも、行くって決めたんだ。
了承も得た。
家人の基幹部分──動力、操縦席、最低限の居住スペース──は完成してメドは立っている。
…あとは、旅の途中で整えていくしかないかな。
「ひえ〜、ちかれた、休憩!」
ドスンと床に腰をおろしたところで、お母さんが段ボールを抱えて現れた。
「はいよっ、旅人セット!」
段ボールには防災グッズ詰め合わせの文字。
さっそく、物色に乗り出す。
「サンキュう、ん〜と…」
シャケ、梅、おかかのおにぎり、お湯でも水でも戻しOKなやつ。 助かる。
「ねぇ見てこれ、10年保存の水!あと2カ月で期限切れなの!ヤバくない?逆にレアでしょ?破格だったわよ」お母さんがケラケラ横で笑う。
「乾パンもね、3袋で100円だったの!鋼パンだって。アンタ、歯が折れるわよ」
「いやいや、アゴが外れるわ!」
俺も笑いながら、段ボールを家人の中へ運び込んだ。そんで「お母さん、買い物上手だな」と褒めた。
「でッしょー? あまりにバカ安くてウチ用にも買ったわよ、今晩から食べるわよ、歯固め。練習!」そう言って、お母さんは、もうひと袋をキッチンの棚へ雑に放り込んだ。
そのあと、母は少しだけ真面目な顔をした。
「……あんたがさ、作ったものが、あんたを守るって、なんかいいよね」…なんつって。
つい、俺は黙ってしまった。不覚。
何だかその言葉が、願かけみたいに、家人の壁の中に染み込んでいくような気がした。
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