第二章 五月下旬~六月中旬 17
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それは、先週の木曜日、長谷川店長の方から名刺に書いてある春夫の携帯に連絡があったことに発している。
「フェルシアーノさんのコーナーを作ろうかということになりましたので、お知らせしておきます」
長谷川店長は、しっとりと甘さを含んだ声で嬉しい知らせを告げてくれた。どちらかと言えば、スローテンポの話し方が時にしっとり感や甘さを感じさせるのだ。
即座に、春夫はアポを取り付けた。ここまではよかった。けれど、心が知れずに舞い上がっていたのかも知れない。
「新人を連れて行きますが、ちょっと驚かれるかも知れません」
余計とも思える言葉を付け加えたのである。
長谷川店長が、これに食いついて来た。
「ひょっとして、かなりのイケメンさんとか」
イケメン、どういう思考回路から発するに至ったのか、全く予知出来ないフレーズが流れて来たのだ。
春夫は、反射的に答えてしまったのである。
「イケメンもイケメン、半端ないイケメンです」
と。
名刺を入れを取り出した明美を横に「イケメンの西野明美です」と言うか、「新たに入りました西野といいます。すいません、イケメンじゃなくて」と謝るか。自分の言った言葉を忘れた振りをして黙って明美を紹介するか。春夫は、結論を出せないまま車のアクセルを静かに踏んだ。
レイハナ八号店は、大宮の駅から徒歩五分程のビルの五階にあった。相当な広さである。
入り口で顔見知りの女性店員がチラシを配っている。店員は、レイハナと書かれたオレンジ色のジャンバーにそれぞれの名前を書いたバッジを付けている。
「こんにちは」
「店長ですね」
「ええ、まだ。新人を今日連れて来ましたので。先にざっとお店の中を見させていただきます」
「ごゆっくり」
女性店員は、明美に視線を投げかけるとチラシ配りに戻った。
「確かに大きいわね」
「そうだね。だけど、文房具売り場が、入り口近くにあるのはいいんだけどね。西野さんだったら、最初にこっちに来る?」
春夫は聞いた。
「今は、フェルアーノの社員ですから、当然、こっちに来ます」
「半年前だったら?」
「そりゃあ、もう。あっち」
明美は、人差指をまっすぐ文房具売り場の向かい側に指を突き出した。
向かい側にあるのは、化粧品関係の商品だった。




