第六章 十一月下旬~十二月下旬 1
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フェルシアーノの社内が、最近、活気づいている。間違いなく、会社の景気のよさが影響しているのだ。三月決算だが、このまま推移すれば、営業利益で去年の百五十パーセントはいきそうである。
「大人の女性のためのペンケース」もコーナー獲得などでより売れるようになったのだが、さらに売れるようになったのが、文房具ポーチだった。「動物文房具ポーチ」が、順調に伸びているのだ。これだけではない。新たなバージョンが、事前調査の結果でやけに評判がいいのである。
けれど、「花柄文房具ポーチ」や「動物文房具ポーチ」は、競合他社が真似ようとすれば、真似られる商品である。そこで、開発企画部のアイディアマンである椎名主任が提案したのが、「動物文房具ポーチのおもしろバージョン」だった。例えば、不機嫌な猫とか笑うパンダとかである。
営業部でも面白いので、早く試作品作って、となったのだが、ポーチの図案担当の隠岐は困惑して容易に図案化出来ないでいた。
お流れ企画になるかなあ、というところで上司の久保係長が「こんなのどう?」と温泉に浸かって気持ちよさそうにしている猿を描いた。本当に気持ちよさそうなのである。
矢野主任も隠岐も余りの出来に驚いた。椎名主任が例にあげた「不機嫌な猫」もペルシャやシャムネコなど種類別に不機嫌そうな猫の姿を久保係長は描き分けた。
「久保係長って大学の経済学部を卒業した後、普通の会社に勤めたけど、そこを辞めてデザインの専門学校に通ったって経歴でさ。アニメーター専攻科だったらしい。実際、有名なアニメーション会社の試験も受けたって話だ」
ランチタイムに吉村係長が春夫を入れた営業部員に聞かせてくれた。
「そうだったんですか。でも、アニメと久保係長って余り結びつきませんね」
「まあ、若い隠岐さん達の分野に割って入りのを遠慮したんじゃないかな」
吉村係長は答えた。
試作品の反響を知った塚田社長が、「君は十年もいて、何でこれまで才能を発揮してくれなかったんだ?素晴らしい」と冗談交えて誉めるのに「すいません」と久保係長は照れ臭そうにしたが、実に嬉しそうだった。
既成の個々の製品だけでなく、今後、フェルシアーノは、レイハナのような総合雑貨店に飛びついてもらえそうな「おしゃれな文房具」開発にも積極的に取り組んでいくという会社としての方向性が示されたことなども社員に安心感をもたらせた。
今年の冬のボーナスは、期待がもてそうだという噂が、オフィス全体に静かに広がっていったのである。




