09話 進み出す物語
俺の名前はフレデリック・ショパニ。
かの〝ソーレント戦役〟での活躍を讃えられ
王直属の騎士となった。
そこで、何不自由無く暮らしていたはずが
ある日突然、イセカイから来た男、ツヨシによって
その座を奪われてしまった。
俺はツヨシのチートと呼ばれる能力で
ハモニク村まで飛ばされサクスの街に来た。
そこでマタタキと出会い、盗みを働くシズカと
出会い、今に至るのだが・・・
俺が戦った、飛び道具のモブが意味不明な事を
語り出した。
「ソーレント戦役って50年前の話ですよね?」
「何を言っている。先の大戦からは3年も経っていないぞ」
「はぁ、はぁ・・・」
納得のいかない顔をする飛び道具モブ。
そしてまた、微妙な空気が流れた。
「え?ちょっと待って」
英雄は察しが良い。
もしかして俺・・・
ハモニク村やサクスの街・・・
俺の功績については少なくともこの国には
広まっているはずだったのだが
誰に聞いてもその反応は鈍かった・・・
王都から離れているから、情報が届いていないと
勘違いしていたが・・・
確かに50年近く過ぎているのであれば
合点はいく・・・
俺の功績を知らない人間の方が多いのでは無いだろうか。
「今の暦は?」
俺は尋ねる。
「革命暦15年」とシズカ。
か、革命暦?ナニソレ?
「ま、待て、現ムジーク王様は何代目だ?」
「ええっと・・・4代目」
「嘘だろ」
俺にあの日解雇を告げた国王は3代目だ。
「フッさん?何か訳あり?」
マタタキが口を開けたままの俺を心配する。
「信じてもらあるか分からないけど、お前らの話が本当なら、俺は未来にいるのか?」
「ん?フッさんは過去から来たって事?」
「何度も言うが、俺はソーレント戦役で活躍した騎士だ・・・それに私が御守りしていたのは3代目のムジーク王だ」
背筋が凍る。
つーか、革命暦って何・・・
「それじゃあフッさん、再雇用とか何とか、もう無理じゃない?」
み、認めるものか・・・
「お、俺は戻る!王都に!自分の目で確かめに行く!」
俺は少し期待していた。
コイツらが俺を騙そうと嘘をついているのだと。
しかし、後々に分かる。
本当に俺は未来に来ていた。
俺は剣も持たずに、教会を出た。
土地勘も正直分からないけど
とにかく走る。
とりあえず来た道を戻った。
マタタキと星空を見た大きな河まで
到着した。
《ムジーク王国ー南西部ータルーシ運河》
そういえばあの時見た船の違和感・・・
それは帆がない事だった。
どうして今、それに気付いたのだろう。
河を渡る船だが、この先は海だ。
風を受けずに進める訳がない。
「フッさん」
マタタキが後ろにいた。
シズカも慌ててついてくる。
「お前ら」
「なんか、ほっとけないから、フッさんについて行くよ」とマタタキ。
「剣のお詫びをしてないから・・・もし私の力が役に立てれば・・・」とシズカ。
「みんな、ありがとう・・・」
正直、俺は不安だった。
俺は英雄として生きてきた。
その名誉だけが生き甲斐だったのかもしれない。
誰も俺の活躍を知らない世界は
俺にとっては孤独な世界になっていた。
まずは、この目で確かめなければならない。
今のこの国を。
そして、まだ生きているのか?アイツは。
一発殴らないと気が済まない。
王都を目指そう。
【第一章 おわり】