16話 間違えた貧乳
「静香ぁーっ!」
大都市の地下の小さな小さなライブ会場。最大収容人数は50人も行かないような箱。
そこで私は赤・緑の小さな粒子の様な光と、黄色のスポットライトを浴びながら歌っていた。
私は西蓮静香。地下アイドル。
というか地下アイドルという肩書きですら、多分アイドルを生業としている人には失礼だと思う。
まぁ、本業は学生。彼氏がドルヲタで嫉妬からこのバイトを始めた。まぁ、アイドル喫茶のただの店員。ごっこ遊びをしていた。
10人にも満たない客の前で私達アルバイト3人組ユニットが歌う。学園祭レベルという言葉があるのだけれど、まさにその通り。3人の息はバラバラで、テキトーに踊って歌う感じ。
少し前からストーカー気質のヲタが私を推してくれているようで、狂ったように応援してくれていた。
はっきり言って、キモい。早いとこ彼氏で浄化したい。
ただ、その日はソイツの挙動がおかしかった。
1曲歌い終えたかと思えば、男がステージに上がってきた。
「静香!見たぞ!お前!彼氏がいるのか?」
ストーカーと化したその男に返答する2択に、私は失敗した。アイドルなんてバイトの延長戦なわけだし、ストーカーに付き纏われては困る。何より私は彼が好きだった。
「いるわよ!!!」
何故か怒りを吐き出すようにマイクで叫んだ。
その直後、お腹が熱くなった。
私は刺されていた。
滅多刺しにされていた。
死んだ。
死んで、私はこの世界にいた。
ーーーーー
この世界に存在している事を受け入れるには、少し時間がかかったし、何より私の力に気がつくのも時間がかかった。
でも、そういう世の中の法則というか、摂理というか、私の第二の人生スタート?そういう事を受け入れている頃には、私はこの力を利用して、盗みを働き、生活していた。
監視カメラもない、頑丈な鍵もないこの世界で、無音ってのは凄い。やりたい放題だった。
いつの間にか荒くれを雇っていたりして、廃れた教会を棲家にしていた。
全く理解のできない世界に慣れていた頃に、マタタキとフレデリックに出会った。
ーーーーー
「シズカぁーっ!」
目を覚ますと、マタタキが泣いている。
「あれ・・・私・・・」
思い出す。
私は、3人で図書館にいて、急に爆発が起きて・・・
煙を吸って、倒れたんだ。
「大丈夫?シズカ?」
マタタキが心配そうな顔をしている。
「クソガキ、可愛いところあんじゃん」
私の身体は、なんともなかった。
これは私自身が分かることだった。
「こ、この人が、魔法で助けてくれたんだ!」
マタタキの隣にフードを被った老人がいた。
「魔法?・・・とにかく、ありがとうございます」
ふと、横を向く。
フレデリックさんが・・・倒れている。
それも、血まみれで。
「ゔっ」
私は吐き気を催す。
マタタキが説明を始めた。
図書館を破壊したのはノイズ派の人たちである事。フレデリックさんがその人達と戦った事。
そしてその末に怪我を負った事。
このフードの老人に出会い、老人が回復魔法によって私を治療した事。
魔法・・・やっぱりあるじゃん。
「フレデリックさんは・・・大丈夫なの?」
「魔法の力を信じるしかなかろう」
老人が言う。
「魔法、本当にあったんだ」
「これは便宜上〝魔法〟と呼んでいるだけの事だ」
老人が小難しい事を言い出す。
「便宜上?」
「君達は魔法について、何も知らないのか」
「知りません」
「新しい技術というのは、王都から地方へ広がるに時間がかかるようだな・・・」
老人は腰につけた巾着からビー玉のような物を取り出した。
「これは結晶」
ビー玉の中心が輝いている。
「大賢者様の力が、純度の高い水によって閉じ込められている。これは溶けにくい氷だ。使えば使うほど、そして使う環境にもよるが・・・溶けていき、最終的にはなくなる」
急激に私の理解を超える話が始まる。
「その力を使う。それが魔法だ。適当な言葉がそれだった。なので、魔法と呼んでいる。そして我々はその正しい使い方を知っている者。これまた便宜上〝魔法使い〟と呼んでいるが、実際は大賢者様の力を代理で行使しているに違いない」
「分からないけど、分かった。とにかく私が助かったのは、その力のお陰なのね」
「そうだ」
「フッさんは・・・大丈夫なのかな」
マタタキは涙を流している。
「きっと、大丈夫よ。私が回復したんだから」
そうか、目の前のこの少年の前世は中学生。
不安だろうな。人の生死の境目を見ている。
きっと、じいちゃんとか、ばあちゃんとか、まだ死んでない年齢なんだろうな・・・
私の数少ない母性が、マタタキを抱きしめていた。
「大丈夫・・・きっと」
「シズカ・・・おっぱいが無い・・・」
私はマタタキの頭をグーで叩いた。




