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恋の色と絵画展

「男と女っていうのはさ、頭の構造が全然違うの。普通に暮らしていても勘違いが起こるし、喧嘩の理由は多種多様、カップルの数だけあるもんだよ。いつの時代も、男女が上手く付き合う事は至難のわざ、ってことだろうね。だから、そんな時はお互いしっかり話し合って、もしくは身体で労わりあうのが大事なんだよ。あれ? その顔は信じてないな?」


 昨日の雨が嘘みたいに雲一つなく良く晴れた天気の午後。

 マリーは朝早くに公務があると言って出かけたリシャールを送り出した後、街に出ていた。


 今日は食材の買い出しはないが、待ちに待った絵画のコンクールの前日であり、美術館の一部が無料開放され、市民も選考作品を見物できる日なのだ。

 せっかくだから、最終選考まで残った別の作品も見に行こうとして歩いていたとところを、偶然買い出しの途中だったレイにばったり出くわしたのだった。


 レイは泣き腫らしたマリーの顔を見て、近くで売っていた屋台から果実ジュースを買ってくれて、噴水の近くにあるベンチに誘ってくれたのだ。

 レイは大柄で筋肉質、いかにも軍人という感じだが、以外にも女性に気遣いが出来る人物だ。

 マリーはいくら友人であるレイであってもリシャールの事をべらべら話す気にはなれずにずっと俯いていると、突然レイが「リシャールさんがらみだろう、その酷い顔は」とあっさり当てられてしまったのだ。

 レイはマリーが話したくないことを根掘り葉掘り聞くことはなかった。

 しかし。


「だから、喧嘩なんてよくある事さ。価値観の相違みたいなものだよ。ああ、まだわからないのかな? 大丈夫。恋の知識が浅い君に、仲直りの秘訣を教えてあげよう」

「……は?」

「一回、濃厚なやつをしたらすぐ分かり合えるよ」

「だから、そんな関係じゃないって!」


 マリーはレイと話していたら馬鹿らしくなって、ちょっと楽になった。

 レイは歯を見せて笑った。


「今から絵を見に行こうと思っているの。私、コンクールに出展していてね、最終選考まで残ったから記念に行こうと思って。もしよければ、すぐに見終わるし、レイもどう? コンクールの記念に薔薇モチーフのグッズが売り出されているし、お土産にどうかな? 奥さんも喜ぶと思うわ」


 今回のコンクールは国の催しでもあり、毎年モチーフが変わって記念グッズも出る。

 デザイナーはレオナルド等の一流絵師たちが手掛けており、それを目当てに会場に行くものも多いのだ。

 せっかく彼なりに励ましてくれたレイに少しお礼がしたかった。

 実はコンクールが終われば修道院に帰るのでレイともお別れだ。

 その前に奥さん思いの彼に出来る事は、気の利いたプレゼントを選ぶことぐらいだ。

 それに、薔薇グッズはとても女性に人気でおすすめだった。


「へぇ。いいね。行こうか!」


 レイは気さくに返事をしてくれたので、マリーは嬉しかった。



 会場に着いて、マリーとレイは一通り絵を見比べた。

 最終選考は20作品ほどであり、どれも多彩な色彩、情景の絵画たちであった。

 マリーの作品は修道院を背景に修道士たちが農夫を手伝う日常の一節である。

 レイはマリーの作品を「よく描けているね。まるで生きているみたいな絵だ。上手いなぁ」と褒めてくれた。

 他の絵たちについても、夫婦の絵画や恋人の逢瀬のテーマにしている作品について、レイは感心したように呟いた。


「いやぁ、絵って、ロマンチックだな。なんか、一枚一枚にストーリーがあるというか」


 マリーが少し前に美術館を訪れたときに人盛りが出来ていた、薄暗い部屋で男女が寝台の上にいる絵を見て言った。


「そうなの。1枚1枚にね、作者の物語が込められているの。この絵だって、本当に恋人なのか分からないでしょう? 女性は野良仕事をしていないような綺麗な手をしているし、相手の男性はいかにも平民、というか農夫よね。見方に寄っては夫婦の寝室だけど、不釣り合いにも見える二人はもしかしたら隠れて会っているのかもしれないし。まぁ……正解は作者しかわからないけれど」

「そう言われれば」

「レイ。絵ならなんとなくわかるけど、恋ってまだ分からないわ」

「分からない?」


 マリーは今までを思い起こした。

 修道院にいた頃は恋愛小説に憧れていた。

 いつかは、生涯の思い出に残るような恋愛を1つでいいからしてみたいと思っていた。

 漠然とした世界でマリーは、静かに生きていたのだ。

 しかし、王都に来て、様々な人物たちの恋愛を見てきた。

 レイたちのように戦争で引き裂かれた悲恋もあれば、ニコルの様な一方的な恋もあり、様々な人の物語があった。サラたちのように長らくすれ違った恋もあった。


「いろんな恋があるのだと思うの。どの瞬間も恋を語る姿は、綺麗ね。恋って素敵な思い出に残るものということは分かるわ」


 マリーが出来るだけ微笑んでレイに言うと、彼は首を傾げた。


「えらく他人行儀だな。それって、後悔しないか?」

「え?」

「本当はこの絵画展、リシャールさんと来るべきだろ? もう二人で来たのかもしれないけど、本当はおれなんかより何回も二人で来るべきだと思うんだよね」

「それって、どういう意味……?」


 マリーが不安げにレイに訊ねた時、入口の方からレオナルドがマリーに声をかけた。


「ブラン侯爵令嬢」


 マリーは振り向いた。

 レオナルドは愛想らしく笑い、レイに挨拶した。

 マリーは「友人です」と紹介すると、レオナルドは「今年は素敵な作品が沢山あるので、ぜひ楽しんでいってください」と穏やかに言い、他の来場者にも声をかけるためにすぐに離れて行った。


 暫くして、急に室内は込み始めた。


(それにしても急に人が多くなってきたな。そろそろ帰ろうかな)


 その様に思った時にはもう遅く、マリーはいつの間にか後ろから押されて、レイとはぐれてしまった。


 とりあえず、マリーは出口を探そうとするが身長が低すぎてよく周りが見えなかった。その日はいつも静かな美術館には珍しく、前方が見えないくらい混雑していたのだ。


「ブラン侯爵令嬢、こちらです!」


 すると運よく、レオナルドがマリーに気づいて人波をかき分けて出口まで誘導してくれた。

 やっとの思いで室外に出てマリーはレオナルドにお礼を言った。


「ありがとうございます。助かりました」

「いいえ。こちらこそ、ありがとうございます」

「えっ?」


 マリーは後ろから何者かに口元を押さえつけられ、そこで意識を失った。

 レオナルドは薄気味悪く顔をゆがめて言った。


「もう少しで会えるよ、楽しみだなぁ。もう、あれこれ30年ぶりだね。……愛しい僕のアリア」

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