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水を飼う彼女  作者: きゃべつ
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水を打ったような衝動で、穏やかに静かに、波紋のごとく広がり、俺の中を駆け巡り彼女と巡り逢わせた。湖の澄んだエメラルドグリーンの底は紛れもない孤独で、ああ、宇宙の一部だ、と錯覚を覚えるくらい苦しく、潤み、美しかった。ここで死ぬのも悪くはない。そう思えたほどだ。苦しみか嘆きかどちらか分からないような苦しさが胸に広がって、目頭が熱くなる。身体的な苦しさと精神的な苦しみはどこか似通い今は判別することが出来ない。人間の大半が後になって昔の過去という記憶を振り返り、その時の感情がなんだったか名前をつける。そこには様々な名前の感情が羅列のように、時に見えない形をやわらかくかたどり示すように、頭、もしくは心の臓に宿しているのだ。

暫く水中から外の日差しを目に映していた。湖底はこんなにも深い孤独の色なのに、地上は装飾された蛍光灯みたいな日光が水面に上等の布のようなシルクの光の皺が波打つたびに映し出されている。いや、正しくそれは太陽。自然物の厳しい光だ。そして俺を圧迫し、同時に包み込んでいるこの水も等しい自然だ。時に恵みに、時に死へと導き出す形は今もめまぐるしく形態を変えてこの世界を駆け巡るだろう。引きずられながらも、惑わされながらも求め、すがりつくのだ。

こんなにも単純な循環を俺は知らずにいたのか。

生理的な涙に身と心を任せ感動か、自分の無限の無知の浅はかさか、笑いたくなるような気持ちを、涙に変えて湖と共に流しだす。何処にいったのかも分からない俺の一部の結晶は塩味も感じさせず、湖底に落ちたか湖に溶けた。彼女にも見せてあげたかった。自然の内ではこんなにも俺たちは無力で、存在すら無と認識されそうな価値でしかないのだと。そして儚げな美しさを瞬間的に錯覚させている。きっとこれから地球の大爆発や、伝染病や隕石激突や氷河期が襲ってきても、人間が滅びても、自然たちは必ず生き返り、再生するだろう。何事もなかった趣を、また作り変えるのだ。

ああ、君みたいだよ。こんなにも苦しめ、求められ、壊されながらも気づけば彼女はまた生き返っているだろう。俺のように朽ちないで。

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