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貴族やめます庶民になります エトセトラ  作者: 妃 大和
エイダとマスターのおいしい関係

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11/11

「エイダはもう帰っちまったか。おう、それなら、マスター一緒に飲もうぜ」


 エフェルナンド皇国第2衛士詰め所隊長のウェラーは一日を疲れを癒やすために、めんどり亭へとやって来た。

 ウェラーは勝手知ったるといった様子でマスターの分と2つエールの入ったジョッキを用意し、カウンターへと並べて置く。マスターも下ごしらえの片付けをしながら、自分達のつまみを用意する。

 茹でたジャガイモに溶かしたバターをかけてパセリを散らしたものと水牛のチーズ、香辛料の効いた豚肉の腸詰め、少しくせのあるニンジンのサブジが二人の前に並べられた。カウンターに二人して座る。


「おっ、今日も早いし、美味そうだな。片付けしているところに来ていつも悪いとは思っているんだぜ。あぁ、お疲れさん」


 ――ガチッ

 ウェラーとマスターはジョッキを打ち付けると直ぐさま口を付けゴクリとエールを飲んだ。

 二人はちょいちょいとつまみを食べつつ、エールを飲む。


「この時間にエイダが居るとうるせえんだよな。『ちゃんとした食事もしないで夜遅く飲み食いするのは体に良くない』とか言ってさ。俺だって早く仕事が終わればマスターのディナーを食べるさ」

「……」

 マスターは再びカウンターの中へ入って、タマネギをスライスし始めた。

「ああ、おい。野菜の催促したわけじゃねえぞ」

 再び二人の前にスライスしたタマネギを水にさらしたものにオリーブ油と塩がまぶされたものが並べられた。

「さっきも『ちゃんと食え』って怒られた」

 ウェラーはマスターが置いた2杯目のエールに手を伸ばす。

「エイダが心配して言ってくれているのは分かっているんだが……」

 マスターはウンウンと頷いていた。

「お互い上に立つものは忙しいよな。出来ることなら、俺だってゆっくり休みてぇよ」

 マスターは大きくウンウンと頷いた。




 翌日、エイダは宿泊客の朝食が済んだ頃に出勤をした。早番ってやつである。昼食にむけて食堂の掃除などの準備を始める。

 しばらくしてマスターが食堂に顔を出した。両手は大きな樽を抱えてふさがっている。

「マスター、何持っているの?」

 エイダは磨いていたナイフとフォークをテーブルに置いて、マスターに近づいた。

 マスターは無言で樽の蓋を開け、中身を大きなボウルにあけた。緑や黒の楕円形の実がコロコロと移されていく。

「きゃい、かわいい。オリーブの実ね」

「あぁ」

 エイダは一つ摘まむとエプロンでキュッと磨き、オリーブの実をかじろうとした。

 ――がしっ

 マスターはエイダの腕をとった。エイダの指先からポロリと実が落ち、転がっていく。

「あっ」

「渋くて食えないぞ」


 マスターは床に落ちた実をボウルに移すと、実を洗うために裏戸から外へ出て行った。

 残されたエイダはマスターを追うでもなく、じっとさっき掴まれた腕を見ている。話をする機会は多くあったが、マスターから意識的に触れる機会は今までなかったのだ。

 エイダはマスターの肉厚で大きな手の平の感触と、なのに痛みを感じさせない触れ方に内心戸惑っていた。

(気配り上手とは思っていたけど、優しいのね)

 エイダの中でマスターに対する評価が一つ上がった。


「おい、早く自分の仕事を終わらせろ」

 カウンターの中に戻ったマスターは水気を拭いたオリーブの実に塩をまぶして瓶へと詰めていく。塩漬けにしているのだった。そのままでは食べられない実であっても一手間かけることによって美味しくなるのである。


「マスター、これっていつになったら食べられるの?」

「……半年先だな」

「それじゃ、完成するまではここで働かなくちゃね」

「そうだな」


 半年先になってもエイダが居ることがマスターにとって当たり前というような返事にエイダは満足した。

 エイダは指を唇に当てちょっと考えると、グイとマスターに詰め寄った。

「ねえ、何かアーシャちゃんのお土産になるような食べ物って無い?」

「ないな」

「即答!? じゃあ、今度一緒に探しに行くの付き合って!」

 マスターは目を丸くする。


 エイダは更に近寄ると、マスターの耳元で囁いた。意識せずとも充分に色っぽい声だった。


「マスターと行きたいの」


 床に視線を落とし、マスターは少々さみしい頭をポリと掻いた。天井をチラッと見た後、一呼吸そっとする。

「ああ」

 しょうが無いと言った顔をしながらも、マスターの耳は赤くなっていた。

 満足したとばかりにエイダはスキップしながら、食堂の入口へと向かっていく。


 後日、街の市場でマスターの腕にしがみつくようにくっついて歩くエイダの姿が見かけられた。

 結婚とかは関係無く、「マスターを気に入っている自分」を自覚したエイダが素直に自分の気持ちを態度に表した結果であった。そんなエイダにたじたじとなりながらも、受け入れているマスターであった。

 めんどり亭の常連客は、二人の行く末の結末を温かく見守ったとか、賭けの対象にしたとか。

 オリーブの実の塩漬けを食べながら、エイダとマスターが過去の自分達を思い出すのはもう少し先の話である。





                      fin





エトセトラの本編である「貴族やめます庶民になります」が3月10日書籍化しました。

書籍化効果なのか「貴族やめます庶民になります」のランキングが再度上位となっております。ありがとうございます。

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